学問空間

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井原今朝男氏『日本中世債務史の研究』

2011-12-17 | 井原今朝男『中世の借金事情』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2011年12月17日(土)07時53分59秒

アマゾンから、

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「井原今朝男の『日本中世債務史の研究』、Amazon.co.jpでお求めいただけます。
以前「日本史 > 鎌倉」関連の秋山哲雄の『都市鎌倉の中世史―吾妻鏡の舞台と主役たち (歴史文化ライブラリー)』またはその他の本をチェックされた方に『日本中世債務史の研究』の発売について、ご案内いたします。商品について詳しくは、商品のリンクから詳細ページをご確認ください。
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というメールが来たので、歴史文化ライブラリーの連想から、一瞬、『日本中世の借金事情』の案内が今頃来たのかなと思ったのですが、よく見たら井原今朝男氏は東京大学出版会から7,560円の新著を出されるんですね。
内容は、

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現代とは異なるルールで成立していた中世社会特有のモノの貸借=授受の実態、所有、契約概念の特徴を古文書群から描き出す。
中世におけるモノの貸借や授受が,いかに現代と異なる法則で成り立っていたのか.利息,質地をめぐる一枚の借用状からだけでは解釈できない実態を,そこに連なる古文書群をひもとき社会のルールを見出す.借り手と貸し手が共存する中世社会の特徴を明らかにする.

序 章 日本中世債務史研究の提起
第一章 中世借用状の成立と質券之法
第二章 中世の計算貨幣と銭貨出挙
第三章 中世の年貢未進と倍額弁償法
第四章 東国荘園の替銭・借麦史料
第五章 東国の為替と借用証文
第六章 室町期の代官請負契約と債務保証
第七章 日本中世の利息制限法と借書の時効法
第八章 中世請取状と貸借関係
第九章 中世契約状における乞索文・圧状と押書
終 章 中世債務史の時代的特質と当面の研究課題

【著者紹介】
井原今朝男:国立歴史民俗博物館教授
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というものですが、国立歴史民俗博物館のサイトを見たところ、

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研究成果公開促進費(学術図書)
日本中世債務史の歴史
研究期間:2011年度
研究代表者 井原今朝男 (本館・研究部)
研究目的
1、中世債務史研究の専門論文を体系化・理論化し、学術専門書として刊行することによって、日本史学における債務史という研究分野を創造することの必要性を学界に認知させることを第一の目的とする。
2、2008年のサブプライムローンの証券化された不良債権問題で世界金融危機と債務危機問題が関心を呼んだ。歴史学の分野から、中世債権論による経済法則を提示することによって、近代債権論の理論的欠陥を問題提起し、自由市場経済原理を相対化して債務危機回避のための一研究分野として債務史研究の現代的意義を人文社会科学界に提示することを第二の目的とする。
3、これまでの日本史学や経済史分野においては、経済現象を売買取引一元論によって分析する方法が定着している。本書は、経済現象を売買取引と貸付取引との二大原理の併存によって分析する方法論を日本社会経済史研究としてはじめて提示する。債務返済の処理方法にも歴史的変遷があることをあきらかにし、私有財産制と自由契約論を絶対とし、債権者の権利保護のみを優先して債務者の権利を無視して破産に追い込む近代債権論の世界は歪な歴史段階であることを指摘する。債務者と債権者が共存し債務と返済の循環をスムーズに展開できる経済原理をみんなの社会正義にすることが、21世紀の人文社会科学分野の課題であることを世論に訴えることができる。

http://www.rekihaku.ac.jp/research/list/subsidy/2011/saimu.html

となっているので、こちらを見る限り、歴史文化ライブラリーの『日本中世の借金事情』から特に問題意識は変化していないようですね。
井原今朝男氏の所謂「近代債権論」(これもたぶん井原氏の造語。少なくとも井原氏のような特異な思い入れをもってこの言葉を使う法律学者はいない)の理解は問題が多く、私は残念ながら『日本中世の借金事情』を高く評価できないので、7,560円出して新著を買うつもりはありませんが、この本に対して歴史学研究者からどのような書評が出るのかについては興味があります。
中世経済史となると、東大教授の桜井英治氏や慶大教授の中島圭一氏あたりが書かれることになるのでしょうか。
もう少し若手だと川戸貴史氏あたりですかね。
あるいは、昔から井原氏と論争している東大史料編纂所の遠藤基郎氏も適任でしょうか。
書評が出揃ってから新著を図書館で借りて、書評者の見解とともに少し検討してみたいと思います。
なお、前著についての私の評価は『学問空間』の「カテゴリー」「井原今朝男『日本中世の借金事情』」にまとめてあります。

http://blog.goo.ne.jp/daikanjin
http://blog.goo.ne.jp/daikanjin/c/8ff50a9526f435fda9a8bc8f507ebebe

昨日、私の住んでいる宮城県南部の大河原町では初雪が降り、今朝も雪が積もっていますね。
福島県の飯館村あたりでも雪景色が見られそうなので、これからちょっと出かけてみます。


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深刻癖

2010-12-10 | 井原今朝男『中世の借金事情』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2010年12月10日(金)23時55分6秒

>azumaさん
>過剰生産から生じるデフレ、さらに通貨安競争まで発展してインフレに、押し詰まったところで恐慌を引き起こします。そして戦争に・・

経済活動を考えるときには、基本的なスタンスとして、あまり深刻にならない方がいいと思いますよ。
井原氏だって、もともとそんなに頭の固い人じゃないのに、『中世の借金事情』では最初から最後までコンスタントに変なことばかり言っていますが、何でそうなってしまうのかというと、基本的な原因は「世界中で債務が無限に拡大しつつあるのだ」という強迫観念だと思います。
だから、民法419条のようなどうでもいい条文に、ここにものすごい社会的不正があるのだ、みたいなことを言ってしまうんじゃないですかね。
その点は前に書きましたけど。

http://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/e8c79c104d4623dd63bf3d3a74624348
http://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/2d7761ec800f0008322537e2b08249a1

経済活動にはご指摘のような暗い側面とともに、華やかな活力に満ちた側面もあるのだから、両方見ないとまずいと思います。

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法律学の息苦しさ

2010-12-09 | 井原今朝男『中世の借金事情』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2010年12月 9日(木)01時16分29秒

念のため書いておくと、債権の発生原因は契約・事務管理・不当利得・不法行為に限定される訳ではありません。
公法上の債権、例えば交通違反の反則金支払請求権などはいずれにも該当しないですね。
今日、納付してきました。

>azumaさん
不愉快だなどとは全く思いませんよ。
私のいつもの悪いクセですが、『中世の借金事情』についても中途半端に終えてしまったので、分かりにくいと思った人はazumaさん以外にも大勢いたと思います。
債権と物権の区別とか言っても、結局のところ、それは日本の現在の民法に特定の法思想が反映されているだけのことでしょ、別の法思想が反映された法制度はかつてあったし、今でもあるのだから、より根本的な、より本質的な「債権」「債務」に関する議論をして何が悪いの、という反論もあるかもしれないですね。
法律学は結局のところ現実に定められている法律の土台の上で、条文という固くて狭い枠の中で細かい議論をしているだけで、本当にそんなものが「学問」といえるのか、土台こそ疑うべきではないか、という根本的な疑問もあると思います。
井原氏の場合、自ら法律学の狭い世界に乗り込んできて、基礎知識もないのに頓珍漢なことばかり言っているから、私もついつい批判してしまったのですが、では私に土台を根本的に疑う力があるかというと、まあ、あんまりないですね。
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林檎殺人事件

2010-12-08 | 井原今朝男『中世の借金事情』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2010年12月 8日(水)00時06分38秒

>azumaさん
筆綾丸さんが言われるように、私もazumaさんの議論は井原氏の誤解に引きずられているように感じます。
筆綾丸さんが不法行為について触れられているので、私は契約について論じてみます。

今、AさんがB株式会社の経営するスーパーでリンゴを1個買うとします。
Aさんがリンゴ1個を持ってレジの前に進みます。
レジ係のCさんはレジのキーを叩いて、代金はこれこれだと言います。
Aさんはその代金を支払い、Cさんからリンゴを受け取ってレジを通過します。
これを法的に見ると、いかなる事態になっているのか。
AさんがCさんにリンゴを示したことは売買契約の申込の意思表示であり、Cさんが代金を告げる行為は承諾の意思表示です。
ここでAさんとB社との間に売買契約が成立します。
そしてB社のAさんに対する代金を支払えという債権(Aさんにとっては債務)と、AさんのB社に対するリンゴを引渡せという債権(B社にとっては債務)が発生しますが、それぞれ速やかに債務の本旨に沿った履行がなされ、直ちに消滅します。(弁済による債権の消滅)
これにより、リンゴの所有権はB社からAさんに移り、Aさんはリンゴを自由に使用・収益・処分することができるようになります。

次にB社とCさんの関係について考えてみます。
Cさんはなぜレジにいなければならなかったのか。
それはB社とCさんの間に雇用契約が存在しているからです。
その雇用契約に基づき、B社はCさんに対して、レジでの労務を提供するよう要求する債権(Cさんにとっては債務)を有します。これに対し、Cさんは労務の対価として賃金を支払うように要求する債権(B社にとっては債務)を有します。
B社の債権はCさんが定められた労務を提供すれば消滅し、Cさんの債権は賃金が支払われれば消滅します。(弁済による消滅)
たった1個のリンゴの移動を見ても、これだけの契約関係があります。
たった一つのスーパーでも、毎日毎日大変な数の売買契約が成立し、債権債務が発生し、消滅しています。
また、より長期的・継続的な契約関係である雇用契約も、従業員の人数分だけ存在します。
売買契約・雇用契約だけでも社会全体ではものすごい数の契約が存在します。

とすると、「債務も債権もない社会」とはどのような社会なのか。
素直に考えれば、それは契約が存在しない社会であり、人と人が何らの合意をせず、協力もしない世界です。
また、不法行為も債権・債務の発生原因なので、「債務も債権もない社会」とは事件・事故が一切存在しない社会でもあります。
人と人が一切の接触をしない世界、死の静寂が支配する世界ですね。
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「債務契約」について─その2

2010-12-07 | 井原今朝男『中世の借金事情』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2010年12月 7日(火)22時10分33秒

(承前)
また、社会生活上非常に重要な債権の発生原因である契約についての第二章は以下のように構成されています。

  第二章 契約
   第一節 総則
    第一款 契約の成立
    第二款 契約の効力
    第三款 契約の解除
   第二節 贈与
   第三節 売買
    第一款 総則
    第二款 売買の効力
    第三款 買戻し
   第四節 交換
   第五節 消費貸借
   第六節 使用貸借
   第七節 賃貸借
    第一款 総則
    第二款 賃貸借の効力
    第三款 賃貸借の終了
   第八節 雇用
   第九節 請負
   第十節 委任
   第十一節 寄託
   第十二節 組合
   第十三節 終身定期金
   第十四節 和解

物権は「人(自然人・法人)が物を直接支配する権利」であり、物権の内容が明確化されていないと取引社会は大混乱しますから、その種類は法律(民法以外の法律を含む)によって限定され、その内容も法律によって明確化されています。
これに対し、「人(債権者)が特定の人(債務者)に対して一定の行為を要求することのできる権利」である債権のうち、契約に基づく債権は、近代資本主義社会の大原則である「私的自治」「契約自由の原則」により、当事者が合意で自由に決められますから、その種類は無限であり、その内容も無限に多様です。
「第二章 契約」の挙げられている贈与以下の13種類の契約は講学上「典型契約」と呼ばれていますが、それ以外の「非典型契約」も無限に存在します。

さて、以上を前提とすると、『中世の借金事情』に夥しい頻度で登場する「債務契約」という用語はずいぶん奇妙な表現です。
通常は契約は債務(=債権)の発生原因と理解されているのですが、「債務契約」では「債務」と「契約」の関係が不明確です。
そこで井原氏の実際の用例を検討すると、井原氏は「金銭消費貸借契約」を念頭においているようです。
「消費貸借」とは借りた物と同種・同量の物を返還することを約する契約です。
類似の契約に使用貸借契約と賃貸借契約がありますが、これらは借りたその物自体を返還しなければならない契約で、無償なのが使用貸借、有償なのが賃貸借です。
消費貸借の対象物は別に金銭に限らず、それ以外の物(例えば米などの穀物)もありますが、実際には金銭が重要ですね。
『中世の借金事情』を通読すると、井原氏の問題意識は一方が「社会的強者」、他方が「社会的弱者」の金銭消費貸借契約に集中していますが、金銭消費貸借契約自体は銀行などの社会的強者同士の間でも、また社会的弱者同士の間でも普通に締結されていますね。
また、井原氏は債権者を社会的強者、債務者を社会的弱者と把握する傾向がありますが、そもそも一つの契約から複数の債権債務が発生するのが通常で、当事者の一方はある債権の債権者であると同時に他の債権の債務者でもありますから、そのような把握が根本的に誤っていることは以前の投稿で指摘しました。
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「債務契約」について─その1

2010-12-07 | 井原今朝男『中世の借金事情』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2010年12月 7日(火)22時04分5秒

歴史研究者は民法典をじっくり見る機会などあまりないと思いますので、基礎的なところから説明します。
民法は次のように構成されています。

 第一編 総則
  第一章 通則
  第二章 人
  第三章 法人
  第四章 物
  第五章 法律行為
  第六章 期間の計算
  第七章 時効
 第二編 物権
  第一章 総則
  第二章 占有権
  第三章 所有権
  第四章 地上権
  第五章 永小作権
  第六章 地役権
  第七章 留置権
  第八章 先取特権
  第九章 質権
  第十章 抵当権
 第三編 債権
  第一章 総則
  第二章 契約
  第三章 事務管理
  第四章 不当利得
  第五章 不法行為
 第四編 親族
  第一章 総則
  第二章 婚姻
  第三章 親子
  第四章 親権
  第五章 後見
  第六章 保佐及び補助
  第七章 扶養
 第五編 相続
  第一章 総則
  第二章 相続人
  第三章 相続の効力
  第四章 相続の承認及び放棄
  第五章 財産分離
  第六章 相続人の不存在
  第七章 遺言
  第八章 遺留分

このうち、「第三編 債権」は、「第一章 総則」が講学上の「債権総論」、 第二章以下が「債権各論」に対応し、債権の発生原因によって、契約・事務管理・不当利得・不法行為と分類されます。
契約は「意思表示の合致によって成立する法律行為」ですが、簡単に言えば、人(自然人・法人)と人が合意の上で債権・債務を発生させる行為です。
これに対し、事務管理・不当利得・不法行為は合意によらずして人と人との間に債権・債務が発生する原因となる事実です。
さて、「第三編 債権 」の「第一章 総則」は以下のように構成されています。

  第一章 総則
   第一節 債権の目的
   第二節 債権の効力
   第一款 債務不履行の責任等
    第二款 債権者代位権及び詐害行為取消権
   第三節 多数当事者の債権及び債務
    第一款 総則
    第二款 不可分債権及び不可分債務
    第三款 連帯債務
    第四款 保証債務
   第四節 債権の譲渡
   第五節 債権の消滅
    第一款 弁済
    第二款 相殺
    第三款 更改
    第四款 免除
    第五款 混同
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>azumaさん

2010-12-07 | 井原今朝男『中世の借金事情』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2010年12月 7日(火)03時35分8秒

夜中にゴソゴソ起き出して1時間ほどレスを書いていたのですが、作業途中で文書を保存していたにもかかわらず、何故かパソコントラブルで消えてしまったので、今日は投稿できません。
また後で書きます。
以前は『中世の借金事情』にはあまり言及したくないとの気持ちがあったのですが、ちょうど良い機会なので、いろいろ書いてみたいと思います。
レス遅れは単に物理的な事情によるもので、きちんと返答します。



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青切符

2010-12-06 | 井原今朝男『中世の借金事情』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2010年12月 6日(月)00時21分40秒

はあ~。
とうとうスピード違反で警察に捕まってしまいました。
快晴に恵まれた日曜日、関越自動車道で雪化粧した山々を見ながら気分良く走行していたところ、後続のクラウンの上に何か点滅するものが。。。。。
まっ、免停にはならず、反則金を納付して3ヶ月大人しくしていれば点数も消えるのですが。
いささか意気消沈しておりますので、レスが遅れますがご容赦を。

笠間稲荷は予想していたより小規模の神社でしたが、土産物店のキツネの置物やお面には面白いものが多くて、行った甲斐がありました。
また、数キロ離れた山中にある茨城県陶芸美術館は本当に素晴らしくて、近いうちにもう一度尋ねてみるつもりです。

笠間稲荷
http://www.kasama.or.jp/

茨城県立陶芸美術館
http://www.tougei.museum.ibk.ed.jp/

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北条王朝

2010-11-16 | 井原今朝男『中世の借金事情』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2010年11月16日(火)01時49分24秒

>azumaさん
いつもありがとうございます。
『中世の借金事情』については弱い者いじめみたいな感じになってしまって、ちょっと書きづらかったですね。
書こうと思っていた批判のポイントは以下の通りです。
①「債務契約」も井原氏の造語であって、井原氏の体系的知識の欠如を反映していること。
②債権(=債務)の発生原因である契約・事務管理・不当利得・不法行為のうち、典型契約の一部である消費貸借契約、しかも一方が社会的弱者であるような金銭消費貸借契約にしか関心がない、つまり債権各論の極々一部にしか関心のない井原氏が債権総論を論じることは、目の不自由な人が象を撫でるようなものであること。
③中世を光り輝かせようとするため現代の破産制度を非常に残酷なものであるかのように描くのは単なる無知であるばかりか、一般人に多大な誤解を与える有害な行為であること。
④近代資本主義の発展をもたらした株式会社制度は、井原氏の言う債務の無限の拡大の対極にある制度であること。つまり井原氏は近代資本主義を理解していないこと。

>筆綾丸さん
>高倉健
北条王朝の滅び方は健さんの美学に合いそうですね。

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ご連絡

2010-11-05 | 井原今朝男『中世の借金事情』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2010年11月 5日(金)00時16分19秒

後で書くといっておきながらそのままにしていることが山ほどありますが、『中世の借金事情』を検討した頃から少しずつ掲示板への投稿が重荷になっていたので、ちょっとお休みさせていただきます。
来年早々、新しいことを始める予定であり、そのための準備期間とするつもりです。

>筆綾丸さん
上記事情ですので、応答が中途半端になっている点、ご容赦願います。

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「近代債権論」の謎

2010-08-06 | 井原今朝男『中世の借金事情』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2010年 8月 6日(金)00時24分23秒

>筆綾丸さん
井原氏は「近代債権論」を厳しく批判されるのですが、実は私、今までこの言葉を聞いたことがなかったんですね。
そこで、ふと、この言葉はどんな使い方をされているのだろうと思って、グーグルで「近代債権論」を「" "」で囲んで、五文字連続の表現だけを検索したら65件ヒットしたのですが、これが全て、この掲示板を含め、井原氏の『中世の借金事情』に関係するページでした。
とすると、「近代債権論」はもしかしたら井原氏の造語ではなかろうか、という疑問が生じてきました。
井原氏が「近代債権論」を説明している部分を、若干くどくなりますが、改めて引用してみると、

-----------
 現代人の第一の社会常識は、他人の土地や資本を借りたら、利子をつけて返却しなければならない。なぜなら、他人の土地や資本は、私的所有権が絶対であり、売買によってしか所有権は移転しないからである。
 第二の社会常識は、債務不履行は自由契約の原則に反する。債務不履行の場合には、抵当・担保が質流れになって清算され、債務の返済がなされなくてはならない。返済は絶対の義務である。
 第三の社会常識は、自由契約での貸借契約がつづくかぎり、利息制限法の下でも利子は無限に増殖するので、債務者はどんなに巨額になっても返済しなければならない。
 以上の原則から成り立っている近代債権論は、債権者の権利保護を優先しており、債務者の免責はなきに等しい。(川島武宣『所有権法の理論』岩波書店、一九四九)。金銭を借用した場合には、債務者はどんな災害や戦争にみまわれても、不可抗力による抗弁権すら認められていない(長尾治助『債務不履行の帰責事由』有斐閣、一九七五)。二〇〇六年正月十三日、日本の最高裁判所は、利息制限法の上限を超えるが罰則のないグレーゾーン金利について、「上限を超えた部分の利息の支払いは無効」とする判決を言い渡した。日本で初めて債務者を保護する必要性を認めた司法判断といえよう。しかし、債権者の権利保護優先の原則はまったく微動だにしない。現代社会においては、債権者の権利は絶対であり、債務者保護の考え方すら存在していない。
-----------

となっています。
「近代債権論」は三つの「社会常識」の「原則」から成り立っているそうですが、大屋氏の指摘のように三つとも誤り、ないし非常に不正確ですね。
後半も誤りだらけです。
「債務者保護の考え方すら存在していない」のだったら「二〇〇六年正月十三日」の最高裁判決も存在していないはずですから、最後のまとめも誤りです。
とすると、我々は風車に向かって突進している El ingenioso hidalgo Don Quijote de La Mancha の冒険譚について論じていることになるのでしょうか。
今まで私は井原氏に対してそれなりに敬意を抱いていたのですが、この本を読んで、井原氏の議論の仕方をチェックしてみて、この人は本業の中世史についても本当に大丈夫なんだろうか、と思わざるを得なくなりました。
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step by step

2010-08-04 | 井原今朝男『中世の借金事情』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2010年 8月 4日(水)00時07分3秒

「現代と中世の借金(2)」
http://www.axis-cafe.net/weblog/t-ohya/archives/000650.html

大屋氏が「現代と中世の借金(2)」で『中世の借金事情』p3を引用している部分の直後に、同書では次のような記述があります。

--------
 金銭を借用した場合には、債務者はどんな災害や戦争にみまわれても、不可抗力による抗弁権すら認められていない(長尾治助『債務不履行の帰責事由』有斐閣、一九七五)。
--------

これは実に面白い文章ですね。
事情を知らない人がこれを読むと、日本の法律は何とひどいのだろう、不可抗力のときでも支払いを強要するなんて血も涙もないではないか、と悲憤慷慨するかもしれないですね。
しかし、これはそんなたいした話ではないんですね。

--------
民法第419条
 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2.前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3.第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。
--------

井原氏は民法第419条第3項のことを言われているのですが、まずこれは「金銭を借用した場合」に限定される訳ではなく、「金銭の給付を目的とする債務」について、つまり金銭債務一般についての話です。
売買代金債務だろうが請負代金債務だろうが、とにかく金銭を払う債務一般について不可抗力免責は認められません。
ただし、これは第1項・第2項とセットになった規定であって、これら全体が民法第416条という債務不履行の損害賠償の原則についての例外規定になっているんですね。

--------
第416条
 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2.特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
--------

金銭債務以外は、不履行によって生じた通常損害と(予見可能性がある場合の)特別損害を請求できる訳ですが、その損害は債権者が立証する必要があります。
それに対し、金銭債務は損害の立証を不要として、法定利率(民事、年5%。商事、年6%)で定型的に処理してしまう。
特定の物とは違って金銭債務に履行不能はない(世の中からマネーが消えてしまうことはない)ので、履行遅滞だけが問題となりますが、不可抗力で支払いが遅れたとしても、法定利率分を払えばよいだけのことですね。
金銭債務は膨大な数が存在しますから、その支払い遅れのトラブルが裁判所にもちこまれたときに、個別案件ごとにいちいち損害額がいくらかとか、本当に不可抗力といえるのかとかを争っていたら面倒くさくて仕方がないので、そんなことをせずに、決まりきった方法でシャカシャカ処理しましょう、という非常に合理的な制度ですね。
井原氏のように、こんな条文にハーハー興奮していたら、変態と言われても仕方ないですね。

>筆綾丸さん
初心者がいきなり難しい本を読んでも駄目なのは、どの学問分野でも同じですね。
step by step で基礎を固める努力をせず、いきなり難しい本を読んだら、誤解や妄想が拡大するだけです。
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コインの裏表

2010-08-03 | 井原今朝男『中世の借金事情』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2010年 8月 3日(火)01時27分18秒

今日は信濃川河川敷の土手に寝そべって、日本一を自称する長岡の花火大会を見ていました。
途中までは柏崎の方がよかったなあ、などと思っていたのですが、だんだん迫力が増してきて、最後の方は尋常ではない興奮を味わえましたね。
それにしても、新潟県民の花火に対する思い入れは何だかすごいです。
どんより雪雲が垂れこめる冬の間のうっぷんが夏に爆発するのかもしれません。

さて、債権と債務ですが、これはコインの裏表のような関係であって、大屋氏が言われるように同じものを別の方向から見ているだけですね。
そして債権債務の発生原因のうち、一番重要なのは契約であり、かつ契約は大多数が双務契約ですから、当事者の双方が債権者であり、かつ債務者という関係が非常に多く見られます。
売買契約だったら、売主は目的物の引渡し義務(債務)を負い、代金請求権(債権)を持つことになり、買主は逆に目的物の引渡し請求権(債権)を有し、代金支払い義務(債務)を負担することになります。
これが賃貸借契約とか雇用契約とかの継続的契約になると、双方に無数の債権債務が次から次へと生じてくることになりますね。
債権債務の束が契約関係だということもできます。
こう考えると、債権者は強者、債務者は弱者だから、債務者を保護しなければいけませぬ、債権者と債務者は共存しなければなりませぬ、というような井原氏の発想は、債務者と債権者の関係を固定的に捉えている点だけをとっても、ずいぶん奇妙な感じがします。
井原氏は独自の正義感・倫理観に溢れていて、債権債務という一般的・抽象的・技術的レベルで自己の正義感・倫理観を貫こうとするのですが、それぞれの正義感・倫理観を持った普通の人はそんなことは考えず、誰のどういう債権を保護すべきか、逆に誰のどういう債権は権利行使を抑制せねばならないか、という発想をしますね。
労働者の賃金債権は重要だから国が企業に働きかけて確実に弁済されるようにしなければいかんとか、下請けの中小・零細業者が大企業にいじめられないようにするため、その手形債権(大企業の手形債務)の弁済期はあまり長期ではいかんとか、社会的に重要な債権は現行法でもいろんな形で保護が図られている訳ですね。
他方、例えば消費者金融業者の債権は立法や判例によって様々な制約を課せられています。
債権債務は多種多様、債権者・債務者も多種多様だから、誰のどういう債権を問題とするのかという観点を抜きに、広く債務者一般を保護しようなどと考えると、ずいぶん奇妙な帰結が生じてきます。
私も野球賭博のことなど良く知らないので、下の設問は適当に考えたのですが、要は債権者・債務者は別に固定的な関係ではなく、また債務者が常に弱者である訳でもない(債務者である暴力団は弱者とはいえないし、かといって高額のあぶく銭を賭け事に使う相撲取り側が弱者ともいえない)という当たり前の事実を確認してみたかった訳です。

>筆綾丸さん
>公序良俗違反の法律行為
契約が無効というのは契約に基づく債権債務は発生しないという意味ですね。
外形的には債権債務のようなものがあったとしても、国家はそれを債権債務とは評価しない、従って債権者を称する者が裁判所に訴えても、裁判所はその債権の実現に協力しない、ということですね。
とはいっても、暴力団などはそもそも国家の助力を得ようとは思っていないのですから、理屈を言っても仕方がないといえば仕方ないですね。
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身近な応用問題

2010-08-02 | 井原今朝男『中世の借金事情』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2010年 8月 2日(月)00時38分17秒

[設問]
暴力団の構成員であるAさんは、所属暴力団が行っている野球賭博において、顧客の注文を胴元に取り次ぐ大切な仕事をしています。
あるとき、大口顧客の相撲取りであるBさんが、300万円分の賭けを携帯メールで申し込み、胴元側も承諾して、賭博契約が成立しました。

(1) Bさんは賭けに負けましたが、約束した金員を支払おうとしません。
この場合、債権者である胴元側、またはAさんは債務者であるBさんに対して、どのような手段により債権の回収を図るべきでしょうか。

(2) Bさんは賭けに勝ち、1000万円の払戻し金を受け取る権利を得ましたが、胴元側およびAさんは、約束した金員を支払おうとしません。
この場合、債権者であるBさんは胴元側、またはAさんに対して、どのような手段により債権の回収を図るべきでしょうか。

(3) 上記(1)(2)の場合において、「債務者と債権者が共存しながら債務紛争を解決していく」ためには何をしたらよいでしょうか。

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身近な応用問題

2010-08-01 | 井原今朝男『中世の借金事情』
[設問]
ある日突然、A氏が歴史学者のB教授を訪問したとします。
A氏は、「自分はあなたの父親の友人で、30年前、あなたの父親に1年後に返済するとの約束で1000万円貸したが、返済されていない。そこで相続人であるあなたに元本と1年分の利息、そして29年分の遅延損害金合計3000万円を全額支払ってもらいたい」と、B教授の父親の署名捺印がある借用書を出して迫ったとします。
古文書学の権威であるB教授が当該借用書をじっくり観察したところ、署名は父親のものに間違いなく、印影も父親の実印に間違いないと思われました。
返済すれば借用書は返してもらうのが普通だから、A氏が持っているということは、本当に返済されていなかった蓋然性が高いように思えましたが、事情を聞こうにも父親は死んでしまっているのでどうにもなりません。
さて、この状況で、B教授はA氏に弁済しなければならないのでしょうか。

[回答]
友人間の金銭消費貸借ということなので、10年権利行使しなければ時効で消滅します。(民法167条1項)
従って、時効を援用して弁済を拒否できます。
ちなみに商行為によって生じた債権であれば消滅時効は5年です。(商法522条)
債権の種類によっては、もっと短い期間で消滅するものもいっぱいあります。(短期消滅時効)

「子供電話相談室」に毛が生えた程度のレベルの回答ですが、時間の経過で証拠が散逸してしまう可能性は刑事手続きと同様、民事でもありますから、民事にも当然ながら消滅時効制度はありますね。
一般の市民にとって殺人事件に巻き込まれることはめったにないでしょうが、領収書の紛失や毀損はごく当たり前に起こり得ます。
仮に民事の消滅時効の制度がなかったら、市民生活に大混乱が生じるでしょうね。

井原氏は、「人類は核兵器の危機、地球温暖化の環境危機とならんで、債務危機という三大苦悩にみまわれている。債務者と債権者が共存しながら債務紛争を解決していく原理を現代人はみつけだせないでいる」(p2)という深遠な危機意識を持たれていて、中世を研究する過程でその危機を克服する貴重なヒントを発見されたんでしょうね。
そして自分の発見が、「二一世紀の人類社会」が必要とするところの「債務者と債権者の権利保護を両立した循環型再生産経済原理」(p219)の確立につながりそうなのですから、興奮を禁じえない気持ちは分からないでもないですね。
ただまあ、「債務者と債権者の共存」が本当によいことなのかは慎重に考える必要があります。
(続く)
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