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研究対象としての<服藤早苗>

2018-06-11 | 『増鏡』を読み直す。(2018)

投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2018年 6月11日(月)09時37分25秒

>筆綾丸さん
>鈴木涼美氏への言及
『中世の<遊女>─生業と身分』の「序章 <遊女>を理解するために」は問題点が明確に整理されていて良いですね。
特に「第三節 本書の視角と課題」の「(二)買売春研究の動向」は至るところで、なるほどな、と思いました。
私が特に自分の無知を知らされたのは「②セックスワーク論」ですが、その基礎・前提として「①通説的買売春論」から少し引用してみます。(p37以下)

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【前略】バハオーフェンやエンゲルスの説は、売春を婚姻制度・社会構造の問題とみなすことで買売春史の地平を広げ、また売春の起源や売春婦への非難・差別を説明した点に意義を有する。一方で、既に触れたように、これらの説は、婚姻論・家族論として展開されるため、性(特に性交)を重視し、売春を婚姻・家族からの逸脱として特殊視する傾向にある。また、基本的な視座を男女の権力関係に置いているために売春や売春婦の実態にはさほど関心を向けない、といった傾向を有している。
 このように婚姻の側に立って売春・売春婦を特殊視し、売春の現場に目を向けないという傾向は、近代の買売春批判の言説に通底するものである。女性を「主婦」と「娼婦」に二分するエンゲルスらの枠組み自体、近代家族制度の影響下に置かれたものであるため、近代家族制度の枠組みに立って売春を批判し、否定する言説とは親和性を有している。赤川学によれば、日本では明治二〇年代頃になって、売春は通常の職業ではなく「醜業」であり、「買売春は悪いことだ」という観念が一般化する。以後、恋愛中心主義の立場からは売春が愛のない性交であって「女性の玩弄物視を招く」とされ、貞操観念を重視する立場からは「買売春が婚姻外性交だから悪い」、純潔教育の立場からは「性は人格の中心であり、それを金銭で売買することは人格を売買することと同じだ」といった非難が繰り返し主張されてきた。こうした買売春批判のレトリックは、フェミニズムにおける<性の商品化>批判にも流れ込んでいるのだが、そうした言説はそもそも売春を悪とする前提に立っているため、女性の自由意思による売春を認めず、女性が社会的弱者であることを強調して「本人が自由意思で選んだように見えるときでも、売春は実は何らかの強制の結果なのである」というレトリックをとるようになり、強制性や人身拘束・搾取状態を裏書きするような悲惨な事例が強調されるようになっているという。
 このように近代においては、学問上でも、社会運動上でも、買売春は婚姻の対立物とみなされ、逸脱したもの、非難されるべきものとして扱われてきたといえよう。
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歴史科学協議会の大幹部・女闘士である服藤早苗氏などはこうした旧来型フェミニズムを代表する歴史研究者といえそうですね。
「八世紀から十一世紀を主たる守備範囲とする」服藤氏は、久我家の位置づけなど基礎的な部分でも従来の国文学者の『とはずがたり』研究を鵜呑みにしており、遊女に関する部分は加賀元子氏の「『とはずがたり』における『遊女』」(『武庫川国文』42号、1993)という論文に全面的に依拠しています。
従って、服藤氏の『とはずがたり』論は『とはずがたり』自体の研究水準を高めるものではないのですが、旧来型フェミニズムの限界を考える上では非常に良い研究材料ですね。

「夏のバカンスの北欧旅行から帰国して」(by 服藤早苗氏)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/1421478cb6ceddbfc75dcba9cb949a12

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。

閑話 2018/06/10(日) 15:00:03
小太郎さん
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%9A%E6%9C%88%E8%A3%95%E5%AD%90
辻浩和氏『中世の遊女』を入手したものの、柚月裕子氏の検事物シリーズから抜け出せず、なかなか読めません。「あとがき」によれば、氏は隆慶一郎の『吉原御免状』や『かくれさと苦界行』を愛読されたようですね。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%88%B4%E6%9C%A8%E6%B6%BC%E7%BE%8E
鈴木涼美氏への言及もありますが(40頁)、氏の著作も読もうかな、と考えています。
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