学問空間

『承久記』『五代帝王物語』『とはずがたり』『増鏡』『太平記』『梅松論』等を素材として中世史と中世文学を研究しています。

石光真清がスピノザ?

2014-01-01 | 佐藤優『国家の罠』&モロゾフ・野坂参三
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2014年 1月 1日(水)12時40分6秒

『知の武装 救国のインテリジェンス』では手嶋・佐藤の両氏が石光真清を次のように絶賛しています。

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手嶋 一方で、日露戦争をかろうじて勝ち抜いた日本人には、インテリジェンスの豊かなDNAが脈々と受け継がれている。これもわれわれの共通認識です。従って「日本は情報小国なり」と絶望の唄を歌うのはまだ早いのです。明治という時代が生んだインテリジェンス・オフィサー群像は、当時の世界的水準から見ても、超一流だといっていいでしょう。

佐藤 これも、異論はまったくありません。

手嶋 これら明治期の青春群像のなかで、好きな人物をひとりあげよと言われれば、やはり石光真清ですね。自らを律するに厳しく、いかにもあの時代の青年らしい。明治という時代がもっていた凛とした空気が、どこか伝わってきます。

佐藤 『城下の人』をはじめとする『石光真清の手記』四部作の著者ですね。これは公刊することを想定せずに書かれたメモワールなのですが、この類稀な著作が残されたことで、明治という時代を駆け抜けた情報仕官の素顔を知ることができました。(中略)

佐藤 『坂の上の雲』では、明石元二郎が対露謀略の元締めとして描かれているけれども、この時期の情報仕官としては、石光真清の方が圧倒的に質が高かったと思います。(中略)

どうやら、明石ってひとは政治家であり、講談師でもあったんですね(笑)。インテリジェンス・オフィサーとして名前が残っている人には、講談師の要素が少なからずあったのでしょうが、石光真清にはそうしたヤマ師的な要素が驚くほど稀薄です。(中略)

気質といえば、石光の手記を読んで思ったのですが、西洋だったらこの人はスピノザですよ。スピノザのようにレンズを磨いていて、静かな生活を送っている。しかし自分で記録はきちんとつけていて、様々に思索は巡らしている。それに対して、白洲次郎や明石元二郎は、さしずめライプニッツでしょう。あっちこっちと動いて、膨張と収縮を繰り返す。非常に活動的でした。

手嶋 スピノザとライプニッツ。面白い見立てだなあ。どうやら僕はスピノザのようなタイプに心惹かれるようです。義和団事件で列強に「柴五郎あり」と言わしめた、柴五郎も大好きですね。石光真清の精神の師でもあったのですが、『ある明治人の記録』からは、その人柄がよく伝わってきます。(後略)
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石光真清については熊本大学教授・小松裕氏の『「いのち」と帝国日本』を素材にして少し検討したことがありますが、いくらなんでも「西洋だったらこの人はスピノザ」は誉めすぎじゃないですかね。
ヤマ師的・講談師的な要素が驚くほど濃厚な佐藤優氏に比べれば、まあ、石光真清にはヤマ師的・講談師的な要素が比較的稀薄ですが、それでも変なところは結構ありますね。
石光四部作に登場し、小松裕氏がやたら感情移入して描いている水野福子は講談の登場人物のような感じもします。

「茶碗を投げつける女」
http://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/ff75538c5f903de31ce7c6e3290b0704
カテゴリー: 小松裕『「いのち」と帝国日本』
http://blog.goo.ne.jp/daikanjin/c/ccbb3ee7bfdf0d329c6403b9562f3582
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「佐藤劇場」のその後

2013-12-30 | 佐藤優『国家の罠』&モロゾフ・野坂参三
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2013年12月30日(月)14時49分57秒

>筆綾丸さん
ご紹介の手嶋龍一・佐藤優氏の共著、『知の武装 救国のインテリジェンス』(新潮選書、2013)を読んでみましたが、p90に次のような手嶋氏の発言がありますね。

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十七世紀にヨーロッパでウェストファリア条約が結ばれて、ネーション・ステート(国民国家)ができる遥か昔から、中国には祖国を捨てる意を表す「亡命」という言葉がありました。祖国を去ることとは即ち命を亡ぼすことを意味したのです。スノーデンがどこまで自覚しているのかはわかりませんが、彼はいま、亡命の恐ろしさ、その深淵を覗き見ていると言っていい。
-------

これも新田一郎氏の言われる「通俗的」な文脈での話ですが、ウェストファリア条約の締結=主権国家成立=国民国家成立、と簡略化して理解している人は多いですね。

『国家の罠』を素材に佐藤優氏について検討したのは5年前、2008年の暮でしたが、その時に一番ブキミに感じたのは、佐藤氏を取り巻く編集者のうち、最も佐藤氏の信頼が篤かったという岩波書店・馬場公彦氏の「佐藤劇場」発言でした。

カテゴリー「佐藤優『国家の罠』&モロゾフ・野坂参三」
「編集者」
「佐藤劇場」

あれから佐藤氏をめぐる状況もずいぶん変化しましたが、検索してみたら馬場氏は去年6月に「大平正芳記念賞」を受賞し、その時点で「編集局副部長」だそうなので、着々と出世しているようです。

「公益財団法人大平正芳記念財団」

他方、岩波書店でたった一人の反乱を敢行していた金光翔氏は5年後の今も会社と厳しく対立中のようで、人生いろいろですね。

「首都圏労働組合 特設ブログ」

佐藤優氏は埼玉大学名誉教授の鎌倉孝夫氏と『はじめてのマルクス』(金曜日、2013年)という共著も出したそうですね。

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マルクスの『資本論』の方法に基づいた社会分析は、われわれが置かれている社会的位置を客観的に認識するために重要だ。しかし、現在、このような視座から作られた経済学の入門書が少ない。それならば自分で作ってみようと思って、この本ができた。鎌倉孝夫先生(埼玉大学名誉教授)は、私が高校生時代に『資本論』の読み解きを手引きしてくれた恩師である。

荘園制の研究者に鎌倉という名字の女性がいて、鎌倉は意外に少ない名字なので、もしかしたら鎌倉孝夫氏の娘さんかな、と思ったことがあるのですが、数年前に出された著書の「あとがき」を見たら、特定はしていなかったものの、やっぱりなという書き方をされていました。

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。

遅れて来た老人 2013/12/23(月) 12:37:18
小太郎さん
東島氏ほどの俊才になると、一部の東大教授に対しても、なんて寝惚けた奴なんだ、てなことになるのでしょうね。
『中世的世界の形成』は、歴史に何の知識もない二十代の或る冬、お茶を飲みながら炬燵で読み耽りましたが、物凄くよく出来た『小説』のように思われたものです。いま読み返せば違うはずですが、再読することはもうないでしょうね。
あるノーベル賞作家に「遅れて来た青年」という小説がありますが、丸島氏にはそこはかとなくそんな面影が漂っていて、失礼な言い方ながら、どうにも古臭いタイプんですね。べつにモダンである必要はないけれども。

http://www.shinchosha.co.jp/book/610551/
手嶋龍一/佐藤優『知の武装ー救国のインテリジェンス』を読むと、第二次世界大戦時のイギリス国内のファシズム運動に触れた箇所がありますが(186頁)、イギリスもかなり危ない綱渡りをしていたようですね。

佐藤 最近、史料を調べていて驚いたのですが、第二次世界大戦が始まると、祖国イギリスを裏切ってドイツのスパイになる怖れがあるというので、英仏海峡に浮かぶマン島に潜在的なスパイとされる人々を強制移住させたんですね。そうした疑わしい連中は「第五列」と呼ばれたのですが、対象になったファシスト党員は一体どのくらいいたと思いますか。
手嶋 ざっと、数千人くらいでしょうか。
佐藤 なんと九万人ですよ。労働党のかなり上質な部分がファシストになると考え、その社会的影響力を怖れて隔離したというわけです。
手嶋 いやあ、それほどの人々が「第五列」として扱われたんですか。意外だなあ。
佐藤 イギリスの強制移住の話、ほとんど知られていませんね。「第五列」という意味では、アメリカでも、日系アメリカ市民の強制収容キャンプ送りがありましたが、イギリスは、ファシズムにつながる危険性があるとして、ごく一般のイギリス市民を強制移住させた事実があるんです。イギリス人というのは、そんな乱暴な部分も含めて検討に値しますね。(後略)

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%B3%E5%B3%B6
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC%E4%BA%94%E5%88%97
マン島は独特な歴史を有する島のようですが、「英仏海峡」ではなく「アイリッシュ海」に浮かぶ島ですね。
俄然、マン島に行ってみたくなりました。
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直江君、ふたたび。

2009-09-08 | 佐藤優『国家の罠』&モロゾフ・野坂参三
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2009年 9月 8日(火)20時06分27秒

私が『天地人』を見ると、最高レベルのデジタル画像処理技術によって、妻夫木聡の顔がすべて「ねずみ男」に置き換えられているわけですね。
なかなか面白い体験です。
ま、いろいろ書いておいてなんですが、私は決して直江君が嫌いではありません。
直江君も、仮に私の文章を読んだとしても、Cheshire catのようにニヤニヤ笑うだけだと思います。

>筆綾丸さん
共通一次試験を生物と地学で受けた私にも『磁力と重力の発見』と『一六世紀文化革命』計5巻は何とか読めたので、次は『熱学思想の史的展開』全3巻に挑戦しようかと思いましたが、ちょっと気分を変えてブライアン・グリーンの『宇宙を織りなすもの』を眺めることにしました。

http://soshisha.cocolog-nifty.com/blog/2009/02/post-d69f.html

>八海山
修験の聖地で、登山道にはけっこう恐い箇所があるようですね。
私は上越の山が好きで、周辺にはけっこう行っているのですが、八海山の山頂は踏んでいません。
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直江君の思い出

2009-09-04 | 佐藤優『国家の罠』&モロゾフ・野坂参三
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2009年 9月 4日(金)18時45分7秒

私はもともとNHK大河ドラマにそれほど興味がないのですが、今年の『天地人』の場合、ちょっと特別な理由があって、全く見ていません。
というのは、私の大学時代の登山仲間に直江君という人がいて、「ナオエ」と聞くとどうしても彼の顔を連想してしまうからです。
彼は非常に頭が良く、特に記憶力が優れていました。
高山植物に関して該博な知識を持ち、彼と一緒の山行では珍しい植物に出会うと彼がたちどころに詳細に解説してくれて、大変便利でした。
彼はよく笑う人でしたが、妻夫木聡のような爽やかな笑顔の持ち主ではなく、どちらかというとへらへらした笑顔でした。
風貌にも妻夫木聡のような爽やかさは全くなく、本当は清潔好きで潔癖な人でしたが、どことなく『ゲゲゲの鬼太郎』に出てくるネズミ男を連想させるところがありました。
また、彼は思想的な面で若干変わった人で、難解な左翼的言辞を好み、普通の話題を変に政治的な方向に曲げて、周囲を困惑させることが得意でした。
ところで今年初め、この掲示板で佐藤優氏の『国家の罠-外務省のラスプーチンと呼ばれて』が話題になりましたが、私が佐藤氏の本をいくつか読んで非常に奇妙に思ったのは、佐藤氏が浦和高校、同志社大学神学部、同大学院神学研究科時代に学生運動にかかわっていたことを自慢そうに書いていたことでした。
そして、浦和高校時代、佐藤氏が所属していた新聞部の部室には赤や青や黒のいろんなセクトのヘルメットが転がっていた、という記述を読んだとき、私の頭の中には直江君のへらへらした笑顔が浮かんできました。
直江君も浦和高校出身なのですが、彼に関する断片的な記憶をつなぎ合わせると、どうも直江君は浦和高校新聞部で佐藤氏の後輩だったようです。
浦和高校の一角には既に10年以上前に終息していた全共闘運動の残り火がチラチラと燃えていて、佐藤氏も直江君もその火種を守って生きてきた変人たちの仲間だったのだろうなあ、などと勝手に想像してしまいます。
直江君は今は大学の先生となって、相変わらず難解な文章を書いているようです。
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トロ様

2009-01-12 | 佐藤優『国家の罠』&モロゾフ・野坂参三
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2009年 1月12日(月)20時59分49秒    

>筆綾丸さん
佐藤優氏についてのまとめなど、いくつか書きたいことがあるのですが、今日も休日出勤しているような状況で、なかなか書けません。
あしからず。

>トロ
スティーブン・ソダーバーグの映画では、『トラフィック』で強烈な存在感を出していましたね。
映画自体はもう一度見たいとは思いませんが。
http://en.wikipedia.org/wiki/Traffic_(2000_film)
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「葛野友太郎」の仕事

2008-12-30 | 佐藤優『国家の罠』&モロゾフ・野坂参三
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2008年12月30日(火)23時49分49秒

今までのモロゾフ関係の投稿は、基本的にはモロゾフ家側から書いたので、モロゾフ社にとっては愉快でない内容だったと思います。
しかし、モロゾフ社を近代企業に育て上げたのはひとえに葛野友太郎氏の功績であって、モロゾフ家が中心にいたら今のような規模の会社にはなっていなかったでしょうね。
『大正ロマンをチョコレートに包んで-モロゾフ文化を創った「葛野友太郎」の仕事-』(井上優著、オリジン社、1993)は、いかにもモロゾフ社らしい洒落た装丁の本で、なかなか面白いですね。
この本はマーケティングのコンサルタントとしてモロゾフ社に関与した人が書いたもので、「葬儀を行わないこと」を遺言とした葛野友太郎氏の意向を尊重し、「偲ぶ会」の開催に代えて出版されたのだそうです。
そこには以下のような記述があります。

-------------
 (自分のこと)については寡言であった「葛野友太郎」は、京都時代については、ことさら寡言でした。
そして、その寡言であることが、いろいろな憶測を呼んで、いろいろな(伝説)を生み出します。そして人生の後半には、その(伝説)が、不思議な意味を持ち始めます。(p36)

 「葛野友太郎」が(社会主義的)なのか(資本主義的)なのかという論議や推測は、「葛野友太郎」の周辺に、生涯、ついて回りました。「葛野友太郎」の(神秘性)や(カリスマ性)が高まるにつれて、この論議や推測は、ますます多くなりました。
 しかし、これは、それほど難解な問題ではなさそうです。
 明治の終わりに生まれ、大正に教養を身につけて、大正デモクラシーを築いた大正リベラリストの共通の性向だといえます。
 この時代の、すべての若者たちは、社会主義や共産主義の洗礼は多かれ少なかれ受けてますし、一方では、近代的な資本主義の教養を体験しています。社会主義と資本主義の双方を、兼ねて、持っていることのほうが、大正デモクラシー的であったといえます。もし、社会主義か資本主義の、いずれかの一方を表明し支持しても、これは、一方の選択であって、他方の否定でないことが、大正デモクラシーの特徴といえます。大正リベラリストが、頑なに対峙し、否定し、拒否し続けたのは、むしろ、台頭する軍国主義でした。社会主義の支持を選択したひとも、資本主義の支持を選択したひとも、共通して拒否したのは、軍国主義でした。
 しかし、日本の近代思想史のなかにおいて、大正リベラリストたちが生まれ、育ったのは、非常に短い時代です。このため、日本の社会では、大正リベラリストは、常に(少数派)です。文学や芸術の世界では、辛うじて(大正ロマン)として目立った存在の大正リベラリストも、日本の経営の社会では、全くの少数派です。

 第二次世界大戦の終わった後の日本の経営の社会で、「葛野友太郎」は、少数派の、大正リベラリストの経営者でした。
(企業の社会的役割)を、次第に確信していく「葛野友太郎」の仕事には、社会への思いと社員への思いが、いつも大きい比重を持って、(社会派)的な経営の様相が目立ち始めます。
 そして、一方、(企業の経営的対応)では、構造変化の基本の手法としては、(近代的な経済学による手法)を基盤にします。
そのときには、いつも、(銀行)の協力を図ります。そして、その都度、資本の再構築を行います。ここでは、(資本派)的な経営の様相が目立ち始めます。(p71-72)
-------------

葛野友太郎氏は単に会社を大きくしただけでなく、独自の企業文化を育て、従業員を大切にし、業界全体の発展にも多大な貢献をした人で、経営者としては本当に立派な人物ですね。
ところで、葛野友太郎氏は平成4年(1992)8月5日に亡くなったそうですが、これはかなり微妙な時期です。
というのは、『闇の男 野坂参三の百年』の元となる『週刊文春』の記事は、同年9月3日号から11月5日号にかけて連載されており、これがきっかけとなって野坂参三は日本共産党の名誉議長を解任され、更に党を除名される訳ですが、この記事の中には葛野友太郎氏の叔母である野坂龍(旧姓・葛野)についての、相当ショッキングな記述もあります。
葛野友太郎氏がこの記事を見る前に亡くなったことは、ある意味、幸せだったのかなと思います。

野坂参三
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8E%E5%9D%82%E5%8F%82%E4%B8%89
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世界は二人のために

2008-12-30 | 佐藤優『国家の罠』&モロゾフ・野坂参三
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2008年12月30日(火)22時34分5秒

>筆綾丸さん
>ただのコドモ
そうですね。
「とにかくこっちは人を疑うのが仕事なんだ。あなたを信頼していて、もし裏切られたら、僕は傷ついてほんとうにどういう暴れ方をするかわからないからね。お金が鈴木さんのところにいっていたら、ほんとうに教えてね」(p396)なんていう発言は、子供を通り越して、幼児的な感じすらしますね。
佐藤氏は「読者はこれまでの記述で、西村氏が『難しいお客さん』から供述をとる能力に、どれほど長けているかがわかっていただけたと思う」(p348)などと西村氏を随所で褒めまくっていますが、取調べの中でも、旧ソ連で鍛え上げた手腕で西村氏のプライドを巧妙に刺激し、西村氏にまるで自分が佐藤氏と同レベルの知識人であるかのような錯覚を抱かせることに成功してますね。
また、佐藤氏のような「難しいお客さん」は自分でなければ供述を取れないんだ、という錯覚を抱かせることにも成功してますね。
p415の記述は両者の関係の最終段階を示しているように思えます。

-----------
西村氏も私も基本的に黙っているのであるが、ときどきこんな会話をした。
「佐藤は頑強に否認するのでこちらは机を叩いてガンガン取り調べている」
「そうそう。検察庁とは基本的利害関係が対立しているので、ひじょうに険悪な雰囲気だ」
「そうそう。いかなる利害の一致もない。険悪な雰囲気だ」
「しかし、西村検事に対してはほんのちょっとだけ信頼関係がある」
西村氏は右手の親指と人差し指の間に数ミリの隙間を作ってこう言う。
「そうそう。佐藤優との間にはほんの少しだけ信頼関係がある」
「しかし、それは僕にとって本質的な問題ではない。検察庁とは基本的利害が対立している」
「そうそう。だからガンガン机を叩いて取り調べている。しかし、もしかすると調室の中にいる僕たち二人がいちばん冷静なのかもしれないね」
「そうだね。どうしてなんだろうね」
「よくわからないね」
-----------

BGMには、古い歌ですが、いずみたく作曲の「世界は二人のために」が似合いそうですね。
西村氏は客観的には検察内部情報の被疑者への漏洩を行っていますが、本人にはその自覚が最後の最後までありません。
エージェントとしての自覚なきエージェントの育成、しかも検察官のような「むずかしいお客さん」を素材としてのそれは、佐藤氏にとってもかなり珍しい経験であり、西村氏は佐藤氏の最高傑作のひとつなんじゃないですかね。
そして、『国家の罠』は、西村氏が抱いた錯覚をそのまま読者がリアルに追体験できるよう構成された迫真の心理劇であり、『罪と罰』に匹敵する文学作品として、また、情報操作の教材として、末永く読み継がれて行くことになるでしょうね。
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ロシアンサウナ的存在

2008-12-27 | 佐藤優『国家の罠』&モロゾフ・野坂参三
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2008年12月27日(土)00時42分20秒

>筆綾丸さん
いえいえ。
急ぐ必要は全くない話ばかりなので、適当に休んでください。
私は今日、『大正ロマンをチョコレートに包んで-モロゾフ文化を創った「葛野友太郎」の仕事-』(井上優著、オリジン社、1993)を読んでいました。
葛野友太郎氏は経営者としては本当に立派な方ですね。
後で少し紹介したいと思います。

>『罪と罰』
全体的な雰囲気や語り口が、確かに『罪と罰』を連想させますね。

さて、佐藤優氏は大変な人物ですが、特に私がすごいなと思ったのは「クオーター化の原則」を守ったことです。

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 さらに私が要請したのはクオーター化の原則である。この原則は情報の世界では当たり前のことであるが、全体像に関する情報をもつ人を限定することである。知らないことについては情報漏れはないので、秘密を守るにはこれが最良の方法だ。檻の中にいる者には極力情報を与えず、檻の中から得る情報については弁護団だけが総合的情報をもつようにするという考え方である。
 弁護団は「ふつう中にいる人は外の様子を少しでも多く知りたがり、自分の置かれた状況について全体像を知りたがるんですが、ほんとうにクオーター化してよいのですか」と念を押すので、私は「獄中という特殊な状況に置かれている以上、この方法しかないと思います」と答えた。
クオーター化の原則を貫いたことで、結果として余計な情報が検察に抜けなかった。そもそもこの種の国家権力を相手にする闘いで被告人側の勝利ということはありえないのだが、少なくとも「マイナスのミニマム化」には成功した。(p290)
-------------

私は「クオーター化の原則」という言葉自体を知りませんでしたが、仮に知識として知っていたとしても、とても実行はできそうにありません。
こんなことをごく自然にできるのですから、佐藤氏は化け物のような人物ですね。
これだけの知識・経験と覚悟を持った人間に比べると、「こっちは組織なんだよ」といった陳腐な脅し文句といい、お涙頂戴話にすぐウルウルするナイーブさといい、西村氏のやることなすことすべてトンチンカンで、何だかなー、という感じがします。
部屋を暗くして怒鳴りつけるなど、コントとしか思えず、最初から佐藤氏に舐められてしまってますね。
「僕がその銀行員を怒鳴りあげたときは、隣の調室の検察官が『西村、いったいどうしたんだ』と心配したくらいだ」との点も、同僚に頭がおかしくなったのではないかと思われるほどひどく怒鳴りつけて供述を強要したら、特別公務員暴行陵虐罪(刑法第195条) に該当し、西村氏自身が立派な犯罪者です。
被疑者に捜査上の秘密をベラベラしゃべりまくっている点は、もちろん国家公務員法違反(第100条1項・109条12号、秘密漏洩罪)ですね。
何でも曝け出してしまうのだから、西村氏にとって佐藤氏は、エリツィンが好んだというロシア製サウナ風呂のような存在ですね。
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「ガキの使い」

2008-12-24 | 佐藤優『国家の罠』&モロゾフ・野坂参三
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2008年12月24日(水)00時12分43秒

『国家の罠』の書評を見ると、佐藤優氏と西村検事の関係について、極限状況での男と男の友情、みたいなことを言っている人が多いですね。

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「結果的に我々読者が読むことになるのは、不思議な魅力に満ちた、本質的に敵同士であることを運命づけられている検事と容疑者の友情の記録だ。」
「二人とも互いが基本的に敵であることを明晰な頭脳で意識しながら、同時にぎりぎりの敵対的関係の中で友情が深まっていく。まるで小説か映画を見ているような錯覚に陥る。」
http://d.hatena.ne.jp/taknakayama/20080102/p1

「鈴木宗男、佐藤優、西村尚芳――大衆の支配に屈従するを良しとしない常識人、大衆社会の愚劣さを告発できる真正の知識人は、まだ死に絶えてはいなかった。彼らの命がけの闘いを記録した本書は、正気でありたいと願う我々にとって必読の一冊といえるだろう。」
http://blog.livedoor.jp/shizenha/archives/50046913.html


しかし、佐藤勝氏の解説を一旦遮断して、西村氏の発言のみを読んでみると、まず、語彙の幼稚さが目立ちます。
また、クロノロジーにしてみて驚いたのは、わずか一ヶ月にも満たない期間の中で、二人の関係がここまで劇的に変わっていることですね。
『国家の罠』p351には、

---------
ところで、読者は、これまでの記述で、西村氏の鈴木宗男氏に対する呼び方が、当初の「鈴木」という呼び捨てから、「鈴木さん」、「鈴木先生」と変化したことに気付いていると思う。
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とありますが、この過程は西村氏の佐藤氏への評価が「佐藤」から「佐藤さん」、「佐藤先生」と変化している過程でもあります。
西村氏は確かに検察という組織の「ガキの使い」ではないでしょうが、佐藤先生に一言注意されると部屋を飛び出して、同一組織のメンバーを問いつめ、帰ってくると組織の秘密を佐藤先生に報告する訳ですから、佐藤先生の「ガキの使い」になっているように見えますね。
この過程は「洗脳」と呼ばれる現象と共通点がありそうです。
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クロノロジー

2008-12-23 | 佐藤優『国家の罠』&モロゾフ・野坂参三
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2008年12月23日(火)23時00分15秒

『国家の罠』から西村氏の発言内容を抜き出して、クロノロジーを作ってみました。

-----------
2002年5月14日
(背任容疑で逮捕)

5月15日
「私はあなたのことについては、誰よりもよく知ってますからね。このことだけはよく覚えていてね。それから(検察)事務官には席をはずしてもらうことにします。その方が話しやすいでしょう」

5月16日
「こっちは組織なんだよ。あなたは組織相手に勝てると思っているんじゃないだろうか」
「勝てるなんか思ってないよ。どうせ結論は決まっているんだ」
「そこまでわかっているんじゃないか。君は。だってこれは『国策捜査』なんだから」

5月17日
(部屋の電気を消し、ノートパソコンの灯りのみ。強圧的にどなりあげる。)
「世の中それじゃ通らないぜ」
「調べはついているんだぜ」

5月18日
(打って変わって紳士的。)
「そろそろ僕も調書をつくらないと困るので、あなたと対立していない部分について調書を作るのに協力してください」

(日時不明)
「あんたはわかっていると思うが、これは鈴木宗男を狙った国策捜査だからな。だからあんたと東郷を捕まえる必要があった。前島君はそれに巻き込まれた。東郷は逃げた。全体の作りがどうなっているか、あんたにはわかるだろう。こっちは組織だ。徹底的にやるぜ」

(日時不明)
「西村さんは怒鳴ることはないのかな」
「あるよ。僕だってものすごい勢いで怒鳴ることもある。以前、背任事件で銀行員が帳簿に書いた数字が目の前に突き出されているのに嘘をつき通すんで、僕が本気で怒鳴りあげたことがある。これは相手が嘘をついているという絶対的確信があるからだ。それで調書が取れないと検察庁の操作能力が問われることになる」
「よくわかるよ。僕に対しても部屋を暗くして怒鳴りあげたことがあるよね」
「あれは怒鳴ったうちには入らない。それにあなたがどういう人かよくわからなかったから、ああいう訊き方をしてみただけだ。僕がその銀行員を怒鳴りあげたときは、隣の調室の検察官が『西村、いったいどうしたんだ』と心配したくらいだ」

5月31日
「西村さん、外交官というのは一旦、交渉のテーブルにつくとどんな交渉でもまとめたくなるという職業病があるんだよ。西村さんと話をすれば、それはどこかで落とし所が見つかるということなんだ。僕の関心は政治的、歴史的事項にある。この事件関連の資料は、外務省が資料を隠滅しない限り、二十八年後に公開される。そのとき、僕の言っていたことが事実に合致していたことを検証できるようにしたい。供述調書や法廷での発言もそこに最大の重点を置きたい。それならば法的な点については譲ろう」
「その取り引きならばこっちも乗れる。供述調書にはできるだけ政治的、歴史的な内容についても盛り込むようにする」

(日時不明)
「鈴木先生の対露外交はしっかりしているという話をしたら、うち(特捜部)の連中から 『西村は佐藤に洗脳されている。大丈夫か』と言われた」

(日時不明)
私は幹部との具体的なやりとりを西村氏に説明した。それは次のようなものだった。
(中略)
「これも仕方のないことなのでしょう。僕や東郷さんや鈴木さんが潰れても田中(真紀子外相)を追い出しただけでも国益ですよ。僕は鈴木さんのそばに最後までいようと思っているんですよ。外務省の幹部たちが次々と離れていく中で、鈴木さんは深く傷ついています。鈴木さんだって人間です。深く傷つくと何をするかわからない。鈴木さんは知りすぎている。墓までもっていってもらわないと困ることを知りすぎている。それを話すことになったら・・・・」
「そのときはほんとうにおしまいだ。日本外交が滅茶苦茶になる」
「僕が最後まで鈴木さんの側にいることで、その抑止にはなるでしょう」
「それは君にしかできないよ。是非それをしてほしい。しかし、僕たちにはもう君を守ってあげることはできない」
「大丈夫です。そこは覚悟しています。これが僕の外交官としての最後の仕事と考えています」
「やめるつもりなのか。その必要はない。やめてはいけない。君が活躍するチャンスは必ず来る」
(中略)
ここまで話してから、最後に私は西村検事にこう言った。
「西村さん、僕は外務省員として最後の仕事をしているのですよ」
「汚ねぇー。何て汚ねぇー組織なんだ。外務省は」
西村氏は吐き捨てるように言った。私の見間違えでなければ、西村検事の眼に涙が光った。
それから西村氏は、私との会話では、鈴木宗男氏に敬称をつけるようになった。

6月10日
「土曜(六月八日)の日経新聞に、僕が三井物産に入札価格を漏らしたという記事が出ているんだけど、新聞に出すのは最終段階だよね。これが特捜のやり方なのかな」
西村氏は怪訝な顔をして「なあに、その話」と答える。私が記事の内容について述べると、西村氏は事務官を呼び、一時退席した。戻ってきた西村氏は、憤慨した口調でこう言った。
「ほんとうに知らなかった。いまディーゼル班に文句を言ってきた。『僕はいま、佐藤に日経新聞の記事についてどうなっているのかと詰め寄られているんだぞ。いったいどうなっているんだ』と。あなたには正直に言うが、ディーゼルと僕のやっている外務省関連事件は班が違うんだ。僕は完全情報をもっていない。だからどういう構成で事件を作ろうとしているかわからないんだ。僕だって『ガキの使い』じゃないんだから、こんな取り調べはやらない」
事実、その後、一週間、西村氏は三井物産絡みの尋問をしなかった。私は、「任意取り調べ期間に、西村さん以外の検察官から要請が来ても断る。再逮捕になった場合も西村さん以外が担当ならば、房篭もり、仮に強制取り調べになっても、完全黙秘をする」と伝えた。西村氏は「そういうこと言わないで。別の検事が話を聞きたいと言ってきても、一回だけは取り調べに応じて。そうじゃないと僕があなたを囲い込んでいると思われる」と冗談半分に答えた。
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組織

2008-12-22 | 佐藤優『国家の罠』&モロゾフ・野坂参三
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2008年12月22日(月)16時26分25秒

>筆綾丸さん
自分の投稿を読み直したら、筆綾丸さんが「大変優秀な検事ですね。」と言われているのに、何だか感じの悪い書き方をしてしまいました。
特捜検事だから頭が良いのは当然なのですが、筆綾丸さんが「検察という組織の中では、あまり出世できないような気がしました。」と言われているように、この人は組織にとっては非常に困る、というか最悪の人物ですね。
取調べの状況を正確に上司に伝えないのみならず、組織内の秘密情報を容疑者にベラベラしゃべりまくっているのですから。
後でもう少し詳しく自分の考え方を述べます。
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モロゾフ財閥

2008-12-21 | 佐藤優『国家の罠』&モロゾフ・野坂参三
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2008年12月21日(日)08時42分13秒

>筆綾丸さん
「帝政ロシアのモロゾフ財閥も分離派で、モロゾフ一族の一人が日本に亡命し、お菓子屋を作った(213頁)」とありますが、『大正十五年の聖バレンタイン』(川又一英、1984)を見たところ、神戸に来たモロゾフ一家はヴォルガ河畔のシンビルスク郊外にあるチェレンガという町の出身で、モロゾフ財閥とは関係ないですね。
従って、美術品のモロゾフ・コレクションとも無関係です。
シンビルスクはレーニンの出身地であり、レーニンの死去に際し、ウリヤノフスクと改称されてしまったんですね。

http://en.wikipedia.org/wiki/Ulyanovsk

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。
「ドストエフスキー」
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/4842
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川上弘美氏の誤読

2008-12-21 | 佐藤優『国家の罠』&モロゾフ・野坂参三
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2008年12月21日(日)02時12分46秒

『国家の罠』の新潮文庫版には、小説家の川上弘美氏が「解説」を書かれています。

--------
 さて、わたしはこの本を読んで、はじめて「外務省キャリア」と「外務省ノンキャリア」という言葉を知りました(意味をはっきり知った、というのではなく、そもそもそのような言葉があることを、はじめて知った、のです。)
 国策捜査、というものが存在することも、はじめて知りました。
 人が逮捕状を読み上げられて逮捕される時に、その様子が「弁解録取書」という書面にまとめられる、ということをはじめて知りました。
 また、その文案に対して、逮捕された人は押印をするのだけれど、その際もう印鑑は使えず、指印を押すのだ、ということを、はじめて知りました。
 また、その時に使う朱肉は朱色のものではなく、黒い、ということも、はじめて知りました。
 情報。官僚と政治家。検察。外交。そんなふうな言葉が具体的にあらわれる世界について、ものを書く、ということを職業とする者の中で、わたしほど通暁していない人間は、なかなかいないと思います。自慢しても、いいくらいです。
 それなのに、今、身のほどしらずにもこの本の解説を書いている。(p541以下)

 本というものは、それがいい文章で書かれていれば、おおかたの読者は語り手に感情移入する、の法則があります。
 けれど、わたしは読みながら、
「それはそうだろうな。でもわたしは、ここに書いてあることは、全部うのみにしないでいよう。うのみにするかわりに、しっかり覚えておこう。そして時々思い出そう。新聞を注意して読んでみよう。そうすると、いつか本当にわたしにもいろいろなことがわかるかもしれない」
と思ったのでした。(p545)

 もっと言うならば、この本ぜんたいが、美学に貫かれているのです。拘置所で作者と対峙する西村検察官。盟友鈴木宗男。ソ連時代の共産党高官イリイン。登場する主要な人たちは、みな、自己憐憫におちいらず、感情におぼれず、自分の仕事の目的を遂行することに関してゆるぎがありません。
 いさぎよい。(p548)

 最後に、わたしと同じことが心配でたまらない読者のために。
 東郷元外務省欧亜局長は、2006年の控訴審において、弁護側証人として出廷してくれています。それから、西村検事は、2006年が現在、水戸地方検察庁から最高検察庁検事に異動になりました。(『獄中記』岩波書店 佐藤優著より)。さらに、本文庫の「文庫版あとがき」にも、このことに関する経緯はくわしく述べられています。
 ほんとうに、ほっとしました。(p549以下)
-----------------

私は川上弘美氏の作品を読んだことがなく、ずいぶん幼い感じの文章なので若い人かと思ったら、1958年生まれだそうですね。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B7%9D%E4%B8%8A%E5%BC%98%E7%BE%8E

まあ、お茶大のような名門女子大を出て小説家として著名な方に言うのも何ですが、『国家の罠』は非常に複雑な作品なので、川上氏が「解説」を書くのは、もともと無理があるんじゃないかなと思います。
川上氏が根本的に誤解しているのは、西村尚芳(ひさよし)検事の位置づけですね。
東京地検特捜部検事という肩書があり、また、佐藤優氏も随所で西村検事の知的能力が極めて高いことを強調していますから、川上氏が西村検事についても佐藤優氏と同等の知性の持ち主で、「自己憐憫におちいらず、感情におぼれず、自分の仕事の目的を遂行することに関してゆるぎ」がない人物と評価するのも無理はありません。
しかし、西村検事が自ら認めているように、西村検事は非常に狭い専門分野の「職人」にすぎず、総合的な知的能力において、佐藤優氏と西村検事との間には大人と子供ほどの圧倒的な差があることは明らかです。
この基本的な関係について、佐藤氏の説明を「うのみにしないで」いれば、この本は川上氏のような素朴な読み方とは全く違った読み方が可能になりますね。
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名文家

2008-12-21 | 佐藤優『国家の罠』&モロゾフ・野坂参三
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2008年12月21日(日)01時24分48秒

>筆綾丸さん
野坂参三の自伝『風雪のあゆみ』(1)をパラパラめくってみたら、葛野友槌とその妻・つるのことがしっかり書いてありました。
モロゾフについては、迷惑をかけないよう配慮したためか、特に言及はないですね。
私は『闇の男―野坂参三の百年』など、野坂参三を批判する本はいくつか見ていましたが、肝心の本人の自伝は読んでいませんでした。
実際に『風雪のあゆみ』を手にとってみると、一読して大変な名文家であることが分かりますね。
ま、凄まじい世界を生き抜いてきた人ですから、半端な才能ではないのは当然のことですが。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8E%E5%9D%82%E5%8F%82%E4%B8%89

>和歌浦事件
1906年生まれの田中清玄は昭和5年(1930)当時、若干24歳ですから、共産党幹部といっても本当に未熟な存在ですね。
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苦いチョコレート

2008-12-19 | 佐藤優『国家の罠』&モロゾフ・野坂参三
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2008年12月19日(金)01時08分48秒

>筆綾丸さん
『実録野坂参三―共産主義運動“スパイ秘史”』(マルジュ社、1997)を図書館で見つけ、少し読んでみました。
山口県萩に生まれた野坂参三(1892-1993)には19歳上の兄、小野友槌(1873-1943)がいて、この人が神戸の葛野作次郎という材木商の長女と結婚して婿養子となり、兄を頼って神戸に移った野坂参三は葛野作次郎の五女・龍(りょう.1996-1971)と結婚したのだそうです。
兄弟が姉妹と結婚したという珍しい関係で、葛野(くずの)は兄の家であり、妻の実家でもあったわけですね。
もっともこれは別に秘密でもなんでもなくて、人名辞典の類をいくつか見れば出ていることでした。
同書は「編著:近現代史研究会」となっていますが、会員の名前はなく、どうも匿名の個人の著作のようです。
著者(の一人?)は原稿をある歴史学者に見せたところ、学問的価値はないと言われたそうで、あとがきでその怒りをぶちまけていますね。
ま、なぜそう言われたかは、読めばわかりますが。
また、同書のモロゾフ家関係の情報は『大正十五年の聖バレンタイン-日本でチョコレートをつくったV.F.モロゾフ物語』(川又一英、PHP研究所、1984)で入手したそうで、私はこの本は未読ですが、下記ブログに概要が出ています。

http://www.doblog.com/weblog/myblog/32682/2620454#2620454

まあ、葛野家側にも言い分はあるのでしょうが、ロシア革命を逃れて言葉も分からない異国に辿り着き、やっと商売に成功したのに、事業拡大のために出資者を募って株式会社を設立したところ、間もなく会社から追い出され、モロゾフの名前も商標としては使えなくなってしまったというのですから、ずいぶん気の毒な話ですね。

>台形史観
莫迦ですね。
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