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「撰要目録」を読む。(その2)

2018-03-02 | 『増鏡』を読み直す。(2018)
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2018年 3月 2日(金)12時27分11秒

続きです。

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南家の三の位、風月の家の風にうそぶきて、春の園に桜をかざし、花を賦する思を述べ、足引の山の名を、うとき国までにとぶらひ、なほなほ年中に行ふ事態(ことわざ)、霞みてのどけき日影より、霜雪の積る年の暮まで、あらゆる政につけても、君が御代を祝ふ。
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「春の園に桜をかざし、花を賦する思を述べ」は巻一の「花」、「足引の山の名を、うとき国までにとぶらひ」は巻五の「山」、「年中に行ふ事態、霞みてのどけき日影より、霜雪の積る年の暮まで、あらゆる政につけても、君が御代を祝ふ」は巻五の「年中行事」を指し、この三曲には「藤三品作 明空調曲」と記されています。
「藤三品」は早大本が紹介されるまでは誰だかはっきりしていなかったのですが、これは藤原広範で確定しています。

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涼しき泉の二の流れには、龍田河名取河に、恋の逢瀬をたどり、
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「涼しき泉」は冷泉家のことで、巻三を見ると「龍田河恋」に「冷泉武衛作 明空調曲」とあり、「宴曲抄中」の「名取河恋」に「冷泉羽林作 明空調曲」とあります。
新間氏は「冷泉武衛」に「藤原為家(野間光辰博士説)・為相(竹柏園本撰要目録)など」と注記していますが(p40)、これは早大本で阿仏尼の子の冷泉為相に確定ですね。

冷泉為相(1263-1328)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%B7%E6%B3%89%E7%82%BA%E7%9B%B8

「冷泉羽林」については「宴曲抄中」の「名取河恋」に「冷泉羽林作 明空調曲」とあり、新間氏は「入江羽林と同一人で、京極為兼かその一族(吉田博士説)」と注記しています。(p42)
外村久江氏は吉田説とは異なる説を立てていたのですが、早大本に接して、

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(一〇) 宴曲抄中の名取河恋の冷泉羽林には「為通朝臣」の朱書きがあって、この人については、「藤原隆賢」を比定者として出したが、以上の朱注の為通はまことによくあっている事からみて筆者の比定は誤りであるので撤回したい。為通は和歌の家で関東とも密接な関係の藤原為氏の孫ではあるし、時期的にも正安三年(一三〇一)八月上旬までに撰集された宴曲抄にのる作品が、正安元年五月左中将で没している為通の作品であることもよくあっている。彼がまた、関東下降している点もうなずける史料となって、柴田氏の説に賛成である。
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と改説されています。(『鎌倉文化の研究』、p291)
二条為道(為通、1271-99)は京極為兼の宿敵、二条為世の息子ですね。

二条為道(水垣久氏「千人万首」サイト内)
http://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/tamemiti.html

さて、序文に戻ると、六人目として「或女房」が登場します。

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藻塩草かき集めたる中にも、女のしわざなればとて漏らさむも、古の紫式部が筆の跡、疎かにするにも似たれば、刈萱の打乱れたる様の、をかしく捨てがたくて、なまじひに光源氏の名を汚し、二首の歌を列ぬ。
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「二首の歌」とは巻三の「源氏恋」と巻四の「源氏」で、この二曲には「或女房作 同調曲」とあります。
明空以外の六人のうち、「或女房」以外の五人は作詞だけでしたが、「或女房」には作曲の才能もあります。
明空は、この人の作品を女であるからといって外してしまうのは古の紫式部の筆の跡を疎かにするのと同様であるとして、「なまじひに光源氏の名を汚し」あたりには若干の屈折を感じさせるものの、それでも「或女房」の才能を非常に高く評価していることは明らかです。
早大本が紹介されるまでは、「或女房」は未詳としか言いようのない存在でした。

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残りは事繁ければ、心皆これに足りぬべし。よりて今勒する所、撰要目録の巻と名づけて、後に猥りがはしからしめじとなり。此外に出で来り、世にもてなし、時に盛りならむ末学の郢作、善悪の弁へ、人のはちに顕れざらめや。
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曲目のリストを見ると、巻一には「郭公」に「漸空上人作 明空調曲」とあるなど、他の人物も登場していますが、残りは面倒なので省略するという扱いです。
「序」はこれで終わりで、この後に曲目のリストが続きます。
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