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『古典の未来学』を読んでみた。(その1)

2020-12-17 | 征夷大将軍はいつ重くなったのか
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2020年12月17日(木)10時12分11秒

先月14日の投稿で触れた『古典の未来学』を今ごろやっと入手して、読んでみました。

荒木浩編『古典の未来学 Projecting Classicism』(文学通信)
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-909658-39-5.html

日文研シンポジウム「投企する太平記―歴史・物語・思想」
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/da9d7cd6c627aa7d42306b2c13c72d96

といっても、870ページの大著なので、今のところ私が読んだのは『太平記』に関連する呉座勇一氏の「Column 5 宣伝される大衆僉議―中世一揆論の再構築」と、和田琢磨・谷口雄太・亀田俊和氏の三論文だけです。
呉座氏の論考は何故かコラム扱いですが、一揆の呪術的性格を強調する勝俣鎮夫氏の一揆論を批判した『日本中世の領主一揆』の「問題意識を引き継ぎ、嗷訴の神秘性を過大評価する通説の再検討を行う」(p407)もので、いかにも呉座氏らしい怜悧な論文ですね。
和田琢磨氏の「点描 西源院本『太平記』の歴史―古写本から文庫本まで」は日文研シンポジウムの内容から私が予想したものよりはかなり狭い範囲を対象とする論考となっていて、松尾葦江氏のブログ記事に出ていた和田氏の「西源院本『太平記』の基礎的研究─巻一・巻二十一の書き入れを中心に─」(『国文学研究』190号、2020)をベースに、「なぜ西源院本がここまで高い評価を得るようになったのかということについて考えてみたい」(p672)との趣旨の論文ですね。

史料編纂所蔵の西源院本『太平記』は「きわめて精確な影写本」なのか。
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/18df59761a3720db615b4d2a59071683

まあ、私のように『太平記』諸本の異同に関する細かい議論ですらついていけない人間にとっては、西源院本だけの超微細書誌的事項に特化した論文はなかなか読むのが大変で、とりあえず私が現在取り組んでいる巻十二に影響する問題はなさそうだな、と確認できた時点で、「あっしには関わりのないことでござんす」(by 木枯らし紋次郎)という心境で、一時離脱することにしました。
順番は前後しますが、亀田俊和氏の「『太平記』に見る中国故事の引用」は非常に高度な内容を平易な文体で説明されていて、分かりやすいですね。
私もいつか『太平記』の怪異譚・怨霊話をまとめてみたいと思っているので、論文の構成、分析手法等、とても参考になりました。
ところで、「六、おわりに」には、

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 そもそも筆者がこの問題に関心を抱くきっかけとなったのは、観応の擾乱期における中国故事の引用が異様に見えたことである。特に巻二七「廉頗藺相如の事」の「完璧」説話の引用の意図がまったくわからなかった。こうした引用について、かつて筆者は「『太平記』は事象をうまく説明できない場合、中国の歴史を長文で記してごまかす傾向があるようだ」と述べ、山田徹に「意外にも国文学の『太平記』研究をあまり参照していない」と酷評された。
 ただし山田の批判には、参照すべき研究についての具体的な指摘や、山田自身のこの問題に対する対案は見られない。そこで自分なりに改めてこの問題を検討したわけであるが、率直に言うとやはり「ごまか」しているという印象はぬぐえない。否、『太平記』作者の漢籍に対する理解に限界面を見いだす近年の研究動向は、私見とむしろ親和性が高いとさえ言えるのではないだろうか。
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との山田徹氏に対する手厳しい反論があります。
山田氏の「書評 亀田俊和著『観応の擾乱』」(『ヒストリア』268号、2018)は私もつい最近読みましたが、亀田氏が指摘される部分はやはり少し軽率な書き方だったようですね。
ただ、もちろん山田氏の書評全体が『観応の擾乱』の「酷評」になっている訳ではなく、『観応の擾乱』を高く評価した上で、山田氏にとって気になった点をいくつか論じておられる訳ですね。
たまたまツイッターで、おそらく山田氏の書評を読まないまま、亀田氏の厳格な学問的態度を賞賛されているツイートを見かけたので、そこは少し違うなと思いました。
さて、谷口雄太氏の「「太平記史観」をとらえる」についてはいくつか疑問を感じたのですが、少し長くなりそうなので、次の投稿で書きたいと思います。
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