書く仕事

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「東京ダモイ」鏑木蓮

2015年12月06日 22時30分06秒 | 読書
「東京ダモイ」鏑木蓮



平成18年(2006年)の江戸川乱歩賞受賞作

あらゆる文学賞の中で,この賞の受賞作が一番私の好みに合っている.

基本的にミステリーだが,単なる探偵小説ではなく,社会性やメッセージ性を兼ね備えた上に娯楽性も持った作品が選ばれているからだ.

この「東京ダモイ」 は太平洋戦争終結後,満州からの引き上げ前にロシア軍に捕虜にされ,シベリアでの抑留・強制労働生活を送る兵士たちの悲惨な状況から物語は始まるが,その中である日本人将校が殺される.鋭利な刃物で首を切られるという事件だったが,収容所中ということもあって,捜査はいい加減で,犯人も捕まらないままとなる.

そして,現在の日本に舞台は移り,京都の舞鶴で起きたロシア人女性殺人事件とそれの捜査にあたる警察官,独自の調査を行う出版社の社員の奮闘の物語に転じる.

シベリア収容所内の殺人事件と,現代の日本でのロシア人女性殺人事件が,どう交差するのか...というお話.

シベリアでの抑留生活の悲惨さは,時々文章で読む機会はあったが,これほど悲惨なものとは思わなかった.

栄養失調,凍傷,ロシア兵の残忍な行為等,極限状態での終わりの見えない生活の中で,精神の異常を来すものも数多くいたという.

物語としての面白さ以外に,戦争という異常事態での人間のふるまいをきちんと残すことの重要性を感じる.
こういうことが過ちを繰り返さないために必要だろうと思うからだ.