書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「おやすみラフマニノフ」中山七里

2010年12月18日 11時38分40秒 | 読書
「おやすみラフマニノフ」中山七里




時価2億円のストラディバリウスのチェロが密室状態の保管庫から忽然と消えた.
主人公は音大のバイオリン科の4年生晶(あきら).
保管庫は彼が通う音大の中にある.
発見者は晶のガールフレンドの,チェロ科の初音.

犯人は誰か?だけでなく,何のために盗んだのかが不明.
というのも,もしお金が目当てなら,そんな有名な楽器を換金してくれる業者など存在しないことは誰でも知っているし,その楽器を自分のものとして演奏することが目的なら,盗んだ楽器で人前で演奏したらすぐにばれてしまう.

動機が不明なら手段も不明.
というのは保管庫は,日中は出入り口に警備員が立っており,夜間は24時間カメラで監視され,不審なものの出入りは全くなかったことが証明されている.

と,ここまでの説明だと,本格推理ものに思えるかもしれないが,物語は,むしろ音大生達の生き様がメインで進んでいく.

世の中の多くの音大生は自分の才能に対する不安と将来の生活に対する不安のサンドイッチ状態にあり,苦悩の学生生活を送っている.

高校までは,楽器が巧いとおだてられ,一生懸命練習して,将来のソリストを目指して音大に入った.
しかし,入ってしまうと,回りは自分より巧いのがゴロゴロしている.
その中には国内,外国のコンクールに優勝・入賞したものさえいるわけね.

そんな中で,どうやって自分のモチベーションをキープしていくか,それは並大抵の精神力では無理.
そして頑張ったあかつきに,居酒屋のバイトしか残されていないということもあり得る.

そんな中で起こった事件ということで,その解決は困難を極めると同時に,晶や初音など,関係した学生達の苦悩も倍増する.

ま,ネタバレを避けるために内容の説明はこれくらいにします.
事件の探偵役として,ピアノ科の非常勤講師,岬洋介が活躍する.

彼は父親が検察官関係の人らしく,事件の推理も得意だし,人を見る目も確か.

この岬先生がかっこいいんだけど,実は彼も,音大生とは別の苦悩を抱えていることが後でわかる.

この物語のモチーフとして,夭折の天才チェリスト・ジャクリーヌデュプレの話が出てくる.

デュプレファンの私にはたまらない話です.
たまらない,というのは「つらい」という意味ですけどね.

巧ければ巧いで,天才なら天才で苦悩というのは襲ってくる.
人生というのは皮肉なものです.

なぜ,こんな不幸が自分に起きるの?なぜ私なの?というセリフが胸を打ちます.

最も印象に残った岬先生のセリフは,
『災いは人を選ばない. しかし,災いの後,どう生きるかは人が選べる』

著者の中山七里は2010年デビューの新鋭.
処女作の「さよならドビュッシー」は第8回このミス大賞受賞.

早速そっちも読んでみるつもりです.


最新の画像もっと見る

コメントを投稿