書く仕事

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「イン・ザ・プール」奥田英朗

2008年03月14日 10時12分19秒 | 読書
「町長選挙」に続き,奥田英朗さん2冊目.
はちゃめちゃ精神科医師伊良部一郎さんに,はまってしまいました.

本当は,「空中ブランコ」を読もうと思ったんですけど,図書館で貸し出し中だったので,急遽,戻っていた「イン・ザ・プール」を借りてきたというしだい.

太った中年精神科医,伊良部センセのシリーズです.
長嶋監督のような甲高い声,診察とは思えない,めちゃくちゃな会話,注射フェチ,巨乳を誇示する無愛想な看護婦,あまりの異様さに,どの患者も最初は腰が引けてしまうのです.
当然ですね.
でも,なぜか,そのめちゃくちゃぶりが,患者の悩みを少しずつ少しずつ解決し,心の病も快方に向かわせてくれる.

「町長選挙」では,大会社の社長とか有名女優とか,セレブ系の人物が患者として登場し,『こんなリッチな人でもこんな悩みがあるんだ』的な面白さがありましたが,この「イン・ザ・プール」では,患者はすべて庶民.
サラリーマン,高校生,ルポライターやコンパニオンもいますが,基本的には無名の人たち.
無名の人たちの,よくある心の悩み.

不定愁訴,自意識過剰,ケータイ中毒,強迫神経症

病名はいろいろですが,誰にも多かれ少なかれある症状.
私なんか,これ私だよ,と思ったのが,強迫神経症.

家を出る場合,ガスの元栓を締めたか?
ファンヒーターのコンセントは抜いたか?
気になってしょうがない.
全部確認して,一度家を出て鍵を閉めた後に不安になり,鍵を開けて確かめるっていうあれです.

この小説の場合,普通の人より,少し(いや,かなりかな?)症状がきついだけで,ちょっと状況が変われば誰にでも起こりうる話かもしれません.

伊良部さんの診察の特徴は,基本的に,「患者の話を聞かない」
これは,慣れてくるほどおかしさがこみ上げてきます.
昨今,インフォームドコンセントとか言って,「患者と医師が会話を通して信頼関係を築く」,ってな世の中の風潮ですよね.

ところが,この伊良部センセ,自分が言いたいことだけ言って,「さあ,注射しましょ」!
ところが,不思議なことに,患者は,「こんなめちゃくちゃなヤツでも,医者が務まるんだな」という,妙な安心感を感じちゃうんですね.

つまり,自分の一生懸命さが,なんだかバカバカしくなっちゃうんですよ.
脱力してしまうのです.
これが,治療の第一歩になるというパターンです.

このシリーズ小説の特徴ですが,毎回主人公は患者さんの方です.
だから,主人公は毎回変わる.
伊良部先生には,それほど重要な立ち回りやセリフがあるわけじゃなくて,なんというか,狂言回しと言うか,「トリックスター」のような立場ですね.

どのストーリーも,いったいどうやって解決するんだろうと思うんですが,"逆転満塁ホームラン"ではないんですよ.
むしろ,"意表をつくスクイズ"みたいな感じかな?違うかも.
でも,ホッとする感じが良いです.

「空中ブランコ」はまだ貸し出し中なので,また後日に,ということで.


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