書く仕事

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「誰か Somebody」宮部みゆき

2006年10月07日 23時38分50秒 | 読書
ジャンルは間違いなくミステリーです.
意外な犯人,意外な動機,それに何よりも「隠れた意外な犯罪」まで出現します.
推理小説ファンの肥えた目を充分に満足させられる一級品のミステリーといえると思います.
しかし,この本を読んだあと,ああ面白いミステリーだったと言う人はおそらくいないと思います.
浅薄な謎解きなんかとは,はるかに次元を超えた哲学,もう少しわかりやすく言えば「人が幸福に生きるとはどういうことなのか?」をつくづくと考えさせられる物語なのです.
あなたは幸福ですか?と聞かれて「はい」と答えられるための条件は何か?
人が幸せに生きるために必要なものは何でしょうか?
お金?,才能?,美貌?,あるいは運?
答えはいずれもNO.
一般的な観点から見ると不幸な状況が,本人にとっては意外に幸福だったりするわけです.
例えば,今まで企業の第一線でバリバリ活躍していた営業部長が,人事異動で社史編集担当部長になってしまったとしましょう.
おそらく,多くの同僚はとうとう彼の出世もこれまでかと,同情半分,優越感半分で酒の肴にしてしまうのが落ちでしょうね.
しかし,当の本人は本当にがっかりしているのでしょうか?もちろん,気落ちして人生の目的を失ってしまう人もいるかもしれません.
でも,そうじゃない人もいるはずなんです.
閑職になり,時間の余裕ができたため,好きな写真に打ち込み,有給休暇をたっぷりと取って,世界中を飛び回って写真を撮りまくる人もいるかもしれません.
あるいは昔取った杵柄で,ピアノ演奏の腕を磨き,全国の老人ホームでボランティア演奏会を開いて回るかもしれません.
また,苦労をかけどおしだった奥様のために夫婦で世界旅行に行くという人もあるでしょう.
いかがですか?
それでも,営業部長のままの方が幸せですか?
別に,この小説の中でそんな話が出てくるわけではありませんが,そんなことをつい思ってしまいます.
結局幸福であるかどうかを決めるのは自分自身なのです.少なくとも他人ではない.
しかし,我々は毎日毎日他人に対する怒りや憤りを感じ,それが自分の不幸の元であると思っている.
実際そういう事例も否定はできません.
でも,本当にそれが不幸のもとなのか?
自分の不幸は,相手の言動がきっかけとなっているかもしれないが,不幸と言う感情を作っているのは自分自身ではないのかと気が付かされるのです.
この小説の主人公はお金もあり家族にも恵まれて幸せな人生を送っています.
その主人公に対し,犯人(とは厳密には違うけど,立場的には犯人)が,「何の苦労もしないで贅沢に暮らしてて,他人のこと見下してとやかく言って.何様だと思ってんのよ!」と罵倒する場面があります.あきらかに逆恨みなんですが,本人は気付いていない(という役)わけですね.
同じような境遇にあっても,いやもっと悲惨な苦労をしていても,明るく堅実に生きている人もいるわけです.
自分の弱さと,自分の罪を棚に上げて,恵まれた生活をしている主人公を恨む気持ちは,明らかに犯人自身が自分に対して不幸を与えているという事実を示しているような気がします.
なんだか,読後感想とは全然違うものになってしまいましたが,幸福に関する作者(主人公)の考え方に大変共感してしまったので,こんな文章になってしまいました.

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4 コメント

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お邪魔します (ego_dance)
2006-10-10 10:29:04
coollifeさん、こんにちは。トラックバックありがとうございました。というわけで、私の方もトラックバックさせていただきました。



幸福とは何か、というのはなかなかに深遠なテーマですね。宮部みゆきは確かにそういうテーマをいつも抱えている作家だと思います。幸福でなければならないと考えるのを止めた時から私は幸福になった、と誰かがどこかに書いていたような気がしますが、そういうこともあるような気がします。
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>ego_danceさん (coollife)
2006-10-10 22:35:26
「幸福でなければならないと考えるのを止めた時」,ふうむ,それもありえますねえ.

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Unknown (もりちえ)
2006-10-13 12:13:21
宮部さんの作品ってミステリーというジャンルでは括りきれないものが多いですよね。この作品もそうだと思います。

読んだのはかなり前なんですが、運転手の過去が徐々に明らかになってきた時の不思議な感覚を思い出しました。一見平凡な人に色んな過去があって、その過去が現在を決定してるという事実。。。当たり前のことですが、人生って積み重ねなんですよね。
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>もりちえさん (coollife)
2006-10-14 20:15:25
宮部みゆきさんは,作品のプロットというかストーリーの斬新さもすばらしいですが,一人の登場人物を丁寧に書き込んで,しかも読者を飽きさせることなく,深い味わいを感じさせてくれますね.すばらしいと思いました.
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