書く仕事

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「本日、サービスデー」朱川湊人

2010年01月26日 10時54分27秒 | 読書



分類するならファンタジーなんでしょうが,ユーモア小説集という言い方もできる.
1本の中篇と,4本の短編で構成.

最初が同じ題名の「本日,サービスデー」で,これのみが中篇.
この作者は初めてですが,うれしい発見.
いいですね.
こういうのを真のユーモアというのだろうな.
知らず知らずに笑顔になっていく自分に気がつくはず.

2本目の「東京しあわせクラブ」はちょっとブラックな話で,他の4本とはかなりテイストが異なります.
5作の中では,最もミステリー要素が強い.
ミステリー大好き中年の私ですが,この作者の良さは必ずしも,この手の小説では発揮しづらいんじゃないかな?

3本目の「あおぞら怪談」,古いアパートにすむ内気な青年が,昔そのアパートで不遇の死を遂げた若い遊女の幽霊に気に入られてしまうというお話.
内気な青年も,その幽霊のことが気に入ってしまい...
っていうユーモアたっぷりのお話.
わっはっは,というおかしさじゃないんだけど,心を湯煎にしてくれるようなほのぼのとした雰囲気の小説.佳作ですね.

4本目は「気合入門」
小学生の男の子が主人公.
彼はいつもお兄ちゃんから馬鹿にされ,いつか見返してやりたいと思っている.
彼は,釣るのが難しいと言われているアメリカざりがにを独力で釣り,兄の鼻を明かそうとするが...
これも,いいですね.
最後の1文が,人生を「肯定」してくれる.

最後は「蒼い岸辺にて」
蒼い岸辺とは,三途の川のほとりのことです.
つまり,まさに死のうとしている人が,最後(?)の数分間で経験したことを見つめた小説.
これは深い話です.そして,とても良い話でもある.
ある意味,この小説にこの作者の本意が込められている気がします.
人が死ぬことの意味.
天寿をまとうすることの大事さ.
精一杯生きていれば,若くして死のうが,100歳まで生きようが関係ない,という気にさせられる.

全編に流れるコンセプトは「人生肯定」.
ポジティブに生きることの気持ちよさを教えてくれます.
同時に,明るく生きるための示唆に富んだ素晴らしい小説集でした.

落ち込んでる学生に読ませてみようかな?