暗き夜の星のやうなる我なれどいのちの尽きるまで光るなれ
介護する苦をさまざまに言ひ書けりさるることなきおめでたきひと 星河安友子
睡蓮の葉に裂(きれ)あるを冬のわがほころびとして見て過ぎゆけり
傘さしてかちわたりけり極月のそのうらがはにともる水無月
ほのしろく枇杷は咲きたり僧院の出入りわづかにふゆるこの頃
うすずみの葉陰をさして枇杷の木に入りゆくものの鳥かわかたず 岩岡詩帆
樹の音を聞きつつなでるぱさぱさの犬の毛なみのしをれゆくまで
穴うさぎもふかく眠らむ みづの無き月のやうなるうすみどりの目
クレゾールで腐臭を拭ふ 炊飯の湯気がよぢれる朝がきてゐる
夢のなかわたしは空へ投げながらひとつの石を名づけてゐたりき 木下こう
政治への思ひはそれぞれ異なりて日本の国の行く末憂ふ
再三の県民の意志踏みにじる豊けき辺野古の類なき海を
万物の命育む大浦湾サンゴ群落に舞ふ熱帯魚
命にも換へてサンゴを守りたく海に潜りゆく海洋学者あり 新城裕子
ものがたり皆ひめをりて人は掌の見えなき瑕にそつと触れゐつ
つる籠の中に寂しき空ありてわれもたゆたふ冬陽の中に
一生とふ一つうねりの中にして牡蠣のアヒージョ白ワイン今宵 後藤雪乃
日本とは海に浮きたる小さき島五十四基の原発かかえ
怪しいを変だとおもわず過ぎてゆくかまわないのかあなたはと楓
強い支持あると思うは錯覚かとなりもとなりも無関心なり
落ちゆかば浮上することむつかしくなれば底辺散策しよう 町田良子
すこしづつトランス脂肪摂りて日本の平和を暮してゐます
たましひのほおと抜けゆく口に似る靴を買ふため脱ぎたる靴は
冬の雨まっすぐに落ち底面のアスファルトまたは傘にて曲がる 谷とも子
聚落の暮らしの破片積まれゐし校庭に声なき饒舌ありき
身のうちに風吹きやまぬ校舎ありて解体さるるを告げられてをり
方形に切られし窓の洞とふも 無韻なる空(クウ)にまぎれゆかなむ
怠惰なる現実主義のおほふ国風化の灰は降りやまずあり 佐々木喜代子
昏き実をくすの大木が降らせいる新月の刃わが首にあたりつつ
朱の空にひとりひとりの砂時計ながるる様をましらと見あぐ
あめつちの交わるところ坂上にあわれ人影のせり出づる見ゆ
うら荒(さ)びてしし狩るわなを見にゆけど凍て星ひとつ空にかかれり 佐々木漕
いいがたくひとが羨ましき夕暮れは内なる白き蛾を愛でている
この扉開ければ溶けるものがある 私か君かいずれも淋し 津田雅子