団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

歯の詰め物

2020年06月02日 | Weblog

  先週の金曜日だった。その日妻は有給休暇を取っていた。天気予報で日中暑くなると言っていたので、私は早いうちに散歩をすませたいと言った。妻も賛成してくれた。私は散歩する支度を終えていた。妻は洗面所にいた。「とれちゃった!」と大きな声。妻が突然大きな声を出すのは、ゴキブリかムカデなどの虫を見つけた時だ。でも「とれた」と確か言っていた。すると妻が私の所にやって来た。手に何か持っている。妻が「ほら、歯の詰め物が取れちゃった」 妻の手のひらの上でオーストリアのウイーンの歯医者で詰めた銀色に光る塊が乗っていた。「詰め物がフロスに引っかかって取れたみたい。困るな~。仕事…。」

 さあ、どうしたらよいのか!以前妻は東京の勤務先の病院の近くの歯医者に診てもらっていた。妻の話を聞いているとどうも腕の良い歯医者でないようだった。私は塾で教えた生徒の一人が歯医者になっていた。S君という。彼が歯科大学に合格した時、「歯医者になったら、先生の歯を治療します」と言ってくれた。嬉しかった。私はその事を忘れなかった。妻と13年間妻の海外勤務に同行して帰国した。妻の赴任地のどの国でも歯の治療に苦労した。妻が外務省の医務官を辞めて、日本に帰国した。80-20(80歳になっても20本が自分の歯でいることを目指す啓蒙活動)を願って歯医者探しをしようとした時、S君の言葉を思い出した。

 S君を探し出して手紙を書いた。すぐに返事が来た。終の住処として住み始めた町の近くの歯科医院を紹介してくれた。S君は横浜の大学病院に勤めていたが、田舎に戻って開業するので直接診ることはできないが、同僚の歯科医に連絡を取ってくれた。通い始めた歯科医院は、歯科医が20名近くいる。診療に満足した。インプラント2本入れた。歯科衛生士も仕事が丁寧だ。そこで去年、歯の痛みで悩んでいた妻を私が通う歯医者に連れて行った。あれほど悩んだ歯の痛みも、治療後なくなった。夫婦二人で通院することになった。

 歯科医院から定期的に定期健診の葉書が来る。私は4カ月に一度、妻は6カ月に一度。その葉書が4月半ばに私に届いていた。新型コロナウイルス感染が拡がり、緊急事態宣言で自宅待機の自粛が始まっていたので、予約を取らないでいた。歯医者だけではない。床屋、眼科、脚の血管外科へも行かなかった。

 時間はまだ午前8時過ぎで、歯科医院はまだ電話受付をしていない。決断した。妻は普段歯医者に行くことは難しい。何カ月も前から自分の予定に合わせて有給休暇を取っての治療となる。その日は金曜日。歯医者はやっている。以前から担当の歯科医から、「急な痛みや問題が起こったらいつでも来てください」と言われていた。そうだ、途中から電話すればいい。「行こう」 車で行けば、新型コロナウイルスに感染する確率は低められる。歯医者も危険だが、今回は緊急事態。妻の歯の詰め物を何とかしなければ。私は65歳過ぎてから長距離運転を控えている。そんなことを言っていらない。

 高速道路を使った。何年ぶり。恐かった。9時に車から携帯電話で歯科医院に連絡。最初「今日は5時半しか空いていません」と言われたが、「歯の詰め物が取れてしまった」で受診可能になった。一時間半で無事到着。妻の詰め物は、そのまま再び装填された。ついでに私の定期健診もできた。火事場の馬鹿力ではないが、何とかこの難を乗り切れた。今のところ新型コロナウイルスの感染の兆候は出ていない。妻は、歯の詰め物が取れたことなんてなかったように今朝も出勤して行った。メデタシ。

 


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