団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

花のプレゼント

2016年07月01日 | Weblog

  用事で外出した。家に戻ると留守番電話の着信があったことを知らせるランプがパカパカ点滅していた。1月に1回あるかないかのことである。小心者の私はいつも悪い知らせではないだろうかと恐る恐る“再生”のボタンを押す。そんな時にかぎって保険や光配線方式の勧誘だったりする。留守番電話はオレオレ詐欺やしつこい勧誘を回避する方法として重宝している。電話嫌いの私は特に私用でない見ず知らずの他人とちゃんと話すことができない。留守番電話を再生する前はいろいろな妄想が浮かんでは消える。だからか電子メールは私にとって郵便の次に気に入っている通信手段である。

  「○○です。庭のグラジオラスが咲いたのでお持ちしたいと思っています。連絡ください」録音された声を聞きながら「なんだ、もっと早く教えてよ」と訳の分からない独り言を私は発して留守電を聞く前の自分の恐怖心をかき消そうとした。急に花が咲き乱れる花畑の中心に立った気分に包まれた。

  電話をかけてくれた友人は近くに住む。素敵な奥さんと広い庭で花を育てたり野菜を栽培するgreen fingers(園芸愛好家)である。3度の大病を克服している。つい最近も奥さんが転倒、骨折して1箇月入院した。一人で家を守っていた。夫婦仲が良い。淡々と胆を据えて生きる彼の姿に敬服している。私と違ってスマートで着るもののセンスもずば抜けている。

  届けてもらうなんてとんでもない。私は電話をしていただきに行くことにした。彼が家の門の前に立って待ってくれていた。切り取ったばかりと言って大きな花束を降ろした車の窓を通して手渡たされた。いつも奥さんも出てくるのにどうしたのかと思った瞬間「女房は今スイミングにジムへ行っています」と言われた。心を読まれている?でも安心した。スイミングに行けると言うことは骨折の経過も順調だということだ。少し世間話をしておいとました。

  助手席にグラジオラスを注意深く置いた。運転も慎重。家に帰ってグラジオラスを一時的に代用の器に入れ流しに置いた。妻が帰宅すれば花に見合った花器を選んで活けてくれる。迷いのない強い赤、白にもやったような妖艶なオレンジがかった肌色とでも言えばよいのかの色気に圧倒された。グラジオラスの名前にその秘密があるかもと植物図鑑を調べた。アヤメ科で外来種だが別名が唐菖蒲またはオランダ菖蒲。原産地はアフリカ・地中海。葉が古代ローマの剣グラディウスに似ていることからが語源。花言葉は“勝利、密会、用心”。“密会”に心臓がドキドキ。

  妻は帰宅してグラジオラスを見てとても喜んだ。そしてセネガルで私が妻の誕生日に贈った花瓶にグラジオラスを近づいたり遠のいたり首をかしげたりしながら活けた。セネガルで私はイタリア人の陶芸家に出会った。彼の花瓶の青が私の心を捉えた。この花瓶を見るとセネガルの海、空を思い出す。グラジオラスの花赤、白、オレンジ肌色、葉の緑と花器の青が良く合っている。花の、特に切り花の命は短い。それでも花は私たちをしばし幸せと密会させてくれる。グラジオラスを届けたいと私たちを頭に浮かべて、電話して届けたいと行動を起こしてくれた友の気遣いが嬉しい。


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