① ロンドン ハロッズ
② 横浜 そごう
③ 上田 ほていや
① ロンドンのハロッズは、ジェフリー・アーチャーの小説『チェルシー・テラスへの道』の舞台になったと言われる。私が初めてロンドンのハロッズへ行ったのは、妻が英国へ留学した時だった。店そのもの建物、内装、商品陳列、にも感心したが、店員の客対応に驚嘆した。商品知識がロンドンのタクシー運転手がロンドン中の道路に精通しているのと同じくらい豊かで専門的だった。店員の心の中は読めないが、ヨーロッパのどこでも感じる白人以外の者への上から目線を感じなかった。内心、彼らは我慢しているのかと猜疑心を持つが、権威ある対応にイチコロになってしまう。彼らの客対応の原点は「この商品を理解して買ってくれるなら、客の人種、宗教、肌の色、外見と財布の中身は、関係ない」であるようだった。食品売り場、文房具売り場、家具売り場、食器売り場、どこも夢のような空間であった。日本の多くのデパートは現在凋落の一途をたどっている。店員の表情態度にも覇気がない。昨日の経済指標でも前年度の売り上げの減少が発表された。日本のデパートでは店員は、まず客の品定めをする。デパートで優遇されるのは、外商を通す客だけだ。店に来る客には心のこもらないマニュアル式で対応する。試しにデパートの入り口に設けられた案内所へ行ってみるがいい。特に横浜高島屋の案内女性は、あからさまに見た目や身なりで態度が変わる。あれではデパートの凋落は、止められない。商人ではない。せいぜい『チェルシー・テラスへの道』を精読して、客商売のイロハを学び直おしたらどうだろう。私は自分の見た目が、けして彼女たちのお目に適うとは思わないが、デパート好きで結構な買い物をする爺さんであることは自負している。
② 高島屋のローズサークルに入会して毎月積み立てると1年後に1ヵ月分の掛け金が加算されたカードを受け取れる。今時これだけの金利は、銀行預金ではつかない。これに魅かれてローズサークルに入っている。しかし私は横浜そごうの方が好きだ。店員に大差はないが品揃えと出店している店に良いものが多い。案内所の対応も高島屋よりはマシである。
③ 生まれて初めてエスカレーターという動く階段に乗ったのは、上田にただ一軒のデパート『ほていや』だった。友達と一緒にエスカレーターに乗るためだけに出かけた。記念すべき第一歩を折りたたまれた板に置いた。文明開化の鐘が頭の中で鳴り響いた。折りたたまれて平だった板の次の板が垂直に折れ階段状になり上の階に近づくと再び私が立っていた板の次の板が平行に戻り吸い込まれていく。この動きが魔法のようだった。何回も謎を解き明かそうと上り下りを繰り返した。エスカレーターを設置できるデパートという存在が『ジャックと豆の木』の豆の木のように天高く感じた。あこがれた。デパート好きになる予感があった。これと同じ光景をネパールのカトマンズのスーパーにネパールで初めてエスカレーターが設置された時見た。多くのネパール人客が、10代だった私と同じ表情でエスカレーターに乗っていた。その“ほていや”もすでにない。
栄枯盛衰。永遠に繁栄を続けられる組織形態はないだろう。私が生きてきたこの70年の間でも多くの企業、店が消えた。デパートの凋落は、止まりそうにない。デパートへ実際に買い物に行って、店員の商品知識のなさ、プロ意識の欠乏、客扱いの下手さに愕然とする。経営悪化の影響による正社員の雇用減少とパート派遣の増加。これでは店員教育がおろそかになって当たり前である。ジリ貧の悪の渦巻きは勢いを増すばかりか。武田信玄は『人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、あだは敵』と言った。『人』を店員に置き換えて、捲土重来を期して欲しいものである。特に案内の女性には『情けは味方、あだは敵』を忘れないでいただきたい。