団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

エベレストとZoom

2020年12月09日 | Weblog

私のパソコンのモニターには、文章だけでなく、画像も映る。昨日、一枚の写真とZoomでの動画が、映し出された。

 一枚の写真は、カナダに住む知人からだった。彼女とは妻がネパール在任中に知り合った。彼女はネパールのエベレストを望む「ホテル・エベレストビュー」を立ち上げた宮原巍さんの下で働いていた。宮原巍さんは、昨年11月24日カトマンズで亡くなった。遺体はエベレストビューで荼毘にふされた。彼女からのメール:「…昨年エベレストビューの元ボス宮原さんが亡くなり丁度11月で1年でした。日本で手術されたのですが、スキルス胃がんで痛みの症状がなく発見された時はステージ4でした。私も看病に数か月通いましたが最後はネパールへ戻りカトマンズの病院で亡くなりました。遺体をエベレストビューまでヘリで上げてそこで火葬にしましたが、亡くなれば全てが「無」だと昇って行く煙を見ながら感じた事がついこの間の事のようです。…」 添付されていた写真は、息が止まるほど、綺麗だった。そしてそこに煙がヒマラヤの高い峰々のトンガリを押さえ宥める様に立ち昇る。

 宮原巍さんは、上田市の近くの青木村で生まれた。私たち夫婦と同じ上田高校出身である。当時カトマンズの日本人会の会長でもあった。ネパールで暮らした3年間、大変お世話になった。思い出はたくさんある。写真の中の立ち昇る煙に、私の想いを込め、頭を垂れる。

 その後、今度は高校の同級生の友人N君からメールが来た。N君からZoomをやってみようと誘いを受けていた。しかしこの1カ月、良く眠れず、頭痛や風邪で体調がすぐれず、Zoomデビューを先延ばしにしていた。私は録音された自分の声、撮影された自分の顏、姿が嫌いだ。恥ずかしいこともあるが、とにかく好きでない。

 N君は優しい。メールで何度も丁寧にZoomの使い方を教えてくれた。12月8日午前10時にZoomで会うことを決めた。ついにその時がやって来た。私はパソコンの前に座った。画面にはポストイット。「入れ歯を忘れるな!」 そうだ、入れ歯を入れなければ、洗面所に走る。鏡で入れ歯の具合を点検。O.K。パソコンの前に戻る。まごまごしているうちに10時4分になった。携帯電話が鳴った。同時に画面にN君が大写しで登場。指示通りに操作して、画面を2分割に…。できた。二人が画面の半分半分にいる。N君「顔が半分しか映っていないんだけど、もっと上にできる?」と言う。座高が子供の頃から高い私である。どこがいけないのか!そうだ。使っているバランスボールだ。バランスボールはゴム製で空気を入れてある。体重で沈む。背筋を伸ばして、顔を上に向けた。「良くなりました」

  こうしてあれほど敬遠してきたZoomなのに、気が付いたら1時間以上N君と会話を楽しんだ。終わった。今日は記念すべきZoom初挑戦の日となった。持つべきは良き友である。こうしてパソコン音痴の私が何とかZoomを使えるようになった。はやぶさ2号も凄いが、私のZoomデビューもそれに匹敵するぐらいの事件だ。

 綺麗なエベレストビューの荘厳な景色に立ち昇る尊敬する宮原巍さんの荼毘の煙。画面に2分割されたN君と私の動く顏、届くリアルタイムの声。写真と動画が、私の喜怒哀楽を優しく揺すって覚醒させた。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする