東京へ行く用事ができて上京した。ついでに金券ショップで西武鉄道の以前から持っている株の株式優待券を現金化しようと思った。新宿駅界隈には多くの金券ショップがある。以前入ったことがあるDという金券ショップに入った。2階に買取カウンターがある。客は私以外だれもいなかった。女性店員が応対した。ツケマツゲが落ちそうなくらい重そうに目に乗っていた。言葉、身のこなしが日本人女性とは思われなかった。西武鉄道の乗車券10枚と西武グループの優待券1冊、割引券1冊を出した。「これだめ。買わない。捨ててもいいか?」と優待券と割引券をカウンターの脇によけた。グリルのアルミ製のアブラよけに三方囲まれたパソコンを操作した。ずいぶん時間がかかった。「一枚220円ね」と電卓を叩いた。おかしい。私は「今日はやめます」と店を出た。背後から「チッ」と舌うちが聞こえた。
そこから10メートルも離れていないところにAという金券ショップがあり、カウンターが道路に面していた。「ここなら何かあっても人通りが多いので安全かな」と私は神経質になっている自分を笑った。さきほどの優待券を3つ並べて示すと2つを抜き取り1つは「すみません、こちらは買取できません」と丁寧に両手を使って差し出すように戻してくれた。計算機を叩き、乗車券の枚数を確認して「合計で9400円になります。よろしいですか?」と言った。さっき売っていれば9400円-2200円で7200円をパーにした。確か去年もこのくらいだった。「よろしくお願いします」と9400円をいただいた。
東京は恐いところだ。油断も隙もありやしない。あの手この手で騙そうと虎視眈々と獲物を狙っている。そんな中で人間のあくどさを超えて、制御された誠意に接する清々しさに崩れ落ちそうになった私の気持は救われた。やはり私は都会には住めない。部屋にこもって読んだり書いたりしているのが、身の丈に合っているようだ。人間嫌いと人間大好きに揺れる自分に呆れている。