奈良の正倉院に玉虫の厨子が展示されている。テレビの特別番組でその玉虫の厨子を補修する様子を観た。初めてあの美しい色が虫の甲羅であることを知った。なんと6600枚の玉虫の羽が使われたという。あの色が虫の自然な色で、人工色でないことに衝撃を受けた。どんなに見ていても飽きないことベストスリーは①海②火③川だという。私は④に綺麗な虫を加えたい。子どもの頃、家の電灯に飛び込んできたコガネムシ、昆虫採集に出かけ捕まえたタマムシ、オオムラサキ、どれほどの長い時間、その神秘的な色の世界にいたことか。
今回、西表島でそんな子どもの頃の興奮を彷彿させるできごとがあった。西表島から400メートルの浅瀬を水牛に引かれた車で渡ると由良島だ。生暖かい温室の中、熱帯の柑橘系の植物、蝶が好んで食べ、産卵する種類が多く植えられている。その植物に埋もれておじさんは、手入れにいそがしい。誰に話しかけているのかな、と最初いぶかった。生来の内気な性格なのだろう。手と目は作業を続行、口で観光客に説明解説をしているとのだとわかった。観光地で働くと、どこのだれかもわからない人々と毎日接しなければならない。広い植物園の中の少し奥まったところに隠れ家のようにポツンとある蝶々園はある。きっとここを訪れる客は、少なからず蝶に興味を持っていて、おじさんと同類の人間とおじさんは、勝手に決め付けて、精一杯の歓迎しているに違いない。
「オオゴママダラのサナギは金色だ。ほら、ここここ」おじさんの指差す木の葉の下の枝にツタンカーメンの金の像を小さくしたような金色と黒のサナギがあった。(写真参照)その日はあいにく雨模様で、西表島の強い陽射しはなかった。それでも温室の高いガラスの天井からの薄い光がサナギを金色に照らしていた。「何て綺麗なの!」と妻がつぶやいた。私は言葉が見つからない。きっと私のいつも眠そうな腫れぼったいマナコは、大きく見開いていたに違いない。立ちすくむ二人に「こっちへ来なさい」とおじさんが誘導する。木の葉の上にいた7センチぐらいの青虫をグリーンフィンガー(園芸家の苔や草で緑色になった指)で指差し「息を吹きかけてごらん」とおじさん。顔は仮面のように表情がない。が、おじさんの植物や昆虫への愛情が自然に伝わる。
妻が「フッ」と青虫にご挨拶。すると青虫が音もなく瞬間的に、まるでアフリカで見たコブラのように頭をもたげ、攻撃態勢に入った。「これはツマベニチョウの幼虫で蛇に擬態して身を守ってる。みんな自分でいろいろ工夫してる」おじさんそう言うと新たに入ってきた観光客の方へ長靴を、パタパタ音を立てながら移動して行った。妻が時計を見て、「あら大変、もうバスに戻る時間よ」 あちこちのツマベニチョウの幼虫に何回も息を吹きかけまわる私をせかせた。離れがたかった。夢のような時間だった。おじさんに「ありがとうございました」と言ったが、おじさんから声の返答はなかった。
家に帰ってから、本屋で福岡伸一著『ルリボシカミキリの青』文藝春秋1200円を見つけた。一気に読んだ。また西表島の蝶々園のおじさんに無性に会いたくなった。
今回、西表島でそんな子どもの頃の興奮を彷彿させるできごとがあった。西表島から400メートルの浅瀬を水牛に引かれた車で渡ると由良島だ。生暖かい温室の中、熱帯の柑橘系の植物、蝶が好んで食べ、産卵する種類が多く植えられている。その植物に埋もれておじさんは、手入れにいそがしい。誰に話しかけているのかな、と最初いぶかった。生来の内気な性格なのだろう。手と目は作業を続行、口で観光客に説明解説をしているとのだとわかった。観光地で働くと、どこのだれかもわからない人々と毎日接しなければならない。広い植物園の中の少し奥まったところに隠れ家のようにポツンとある蝶々園はある。きっとここを訪れる客は、少なからず蝶に興味を持っていて、おじさんと同類の人間とおじさんは、勝手に決め付けて、精一杯の歓迎しているに違いない。
「オオゴママダラのサナギは金色だ。ほら、ここここ」おじさんの指差す木の葉の下の枝にツタンカーメンの金の像を小さくしたような金色と黒のサナギがあった。(写真参照)その日はあいにく雨模様で、西表島の強い陽射しはなかった。それでも温室の高いガラスの天井からの薄い光がサナギを金色に照らしていた。「何て綺麗なの!」と妻がつぶやいた。私は言葉が見つからない。きっと私のいつも眠そうな腫れぼったいマナコは、大きく見開いていたに違いない。立ちすくむ二人に「こっちへ来なさい」とおじさんが誘導する。木の葉の上にいた7センチぐらいの青虫をグリーンフィンガー(園芸家の苔や草で緑色になった指)で指差し「息を吹きかけてごらん」とおじさん。顔は仮面のように表情がない。が、おじさんの植物や昆虫への愛情が自然に伝わる。
妻が「フッ」と青虫にご挨拶。すると青虫が音もなく瞬間的に、まるでアフリカで見たコブラのように頭をもたげ、攻撃態勢に入った。「これはツマベニチョウの幼虫で蛇に擬態して身を守ってる。みんな自分でいろいろ工夫してる」おじさんそう言うと新たに入ってきた観光客の方へ長靴を、パタパタ音を立てながら移動して行った。妻が時計を見て、「あら大変、もうバスに戻る時間よ」 あちこちのツマベニチョウの幼虫に何回も息を吹きかけまわる私をせかせた。離れがたかった。夢のような時間だった。おじさんに「ありがとうございました」と言ったが、おじさんから声の返答はなかった。
家に帰ってから、本屋で福岡伸一著『ルリボシカミキリの青』文藝春秋1200円を見つけた。一気に読んだ。また西表島の蝶々園のおじさんに無性に会いたくなった。