団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

尺取虫

2010年05月17日 | Weblog
 妻と散歩中、私は道路のアスファルトの上に異様な動きをする虫を見つけた。カックン、ダーッと小さな細い体を規則正しく、連続してカギテ状に曲げては延ばす。私は歩くのをやめて、屈みこんで観察を始めた。知らずに先を行く妻は、私がすぐ後ろを歩いていると思って、話しかけている。しばらくして気づいたらしく「どうしたの?ケイレン起こしたの」と急坂の12,3メートル上から叫ぶ。誰も歩いていない。家もない。ちょうどお昼時で、車も通らない。私は目の焦点を尺取虫の動きに合わせている。手のひらを波立たせ「おいでおいで」と合図を妻に送った。

 「何なの?」と坂の傾斜に体重移動を助けられスピードをつけた妻が駆けつけた。「何かあるの?」と私の見ている地面を覗き込む。私「尺取虫」 妻「ほんと?どこどこ、どこに」 尺取虫は、私たちのやりとり騒ぎを気に留めることもなく、カックンと体の中央部をカギテ形に折りたたみ、ダーとのばす。いつしか妻も夢中になってじっと見ている。「杓子定規な動き、おもしろいね。ちゃんと間隔測って動いているみたい」私「こんな動きをして地面を這いつくばっていても、そのうちにこの虫は、羽化して飛べるようになる。そう思うと不思議で、また夜も眠れなくなるな」妻「毎晩、良く寝ているわよ」

 私たちが、そんな他愛もない会話をしていても尺取虫は、カクン、カクン、ダーと道路を渡ろうと懸命に全身を縮めては伸ばす。車に轢かれないように、しゃくとり虫を葉っぱに乗せて、道路を渡り、草むらに置いた。出しゃばりかもしれないが、車に轢かせるのは忍びない。

 私は幼い時から、道草を食う天才と呼ばれた。虫、草花、鳥、小動物、魚、イモリ、ヤモリ、好奇心旺盛にじっとどこでも場所を選ばず観察した。そんな子ども時代が戻ってきたように、今住む町でも散歩に出て、道草を食って楽しんでいる。私があちこちで道草を食えるほど、ここの自然が豊かなことが嬉しい。家の中にナメクジやゴキブリがいれば、まるで狂人の如く声を張り上げ、大騒ぎする妻も、散歩で野外に出ると虫にも優しくなる。

 そろそろ家の前の桜並木も葉桜になり、緑のトンネルをなしている。木陰が気持ちよい。この季節になると、そろそろサワガニが道路に出てくる。車に魅かれないよう、見つけては道路横断の手伝いをする。車に轢かれたペチャンコのカニを見ると、落ち込んでしまう。私だけの手助けで、どうにかなることではないが、そうせざるをえない。生きたまま、轢かれる瞬間を想像するのが辛い。

 5月の連休後半に行った沖縄県の西表島では、西表ヤマネコ、ハコガメを守るために、道路の下にヤマネコトンネルを通したり、道路わきの側溝をハコガメが落ちないよう浅い渡りやすい構造に変えていた。天然記念物に指定されているからだろう。西表島出身のガイドの「この島で一番偉いのがヤマネコ、以前二番が人間だったけれど、最近はハコガメがランクアップされて、とうとう人間は三番になりました」の冗談が冗談に聞こえなかった。

 尺取虫の観察をして道草食いながら、私はいろいろなことを考えた。妻ともたくさん話せた。その日も良い出会いがあり、感謝な気持ちで散歩を終えた。
 (写真:道路横断中のしゃくとり虫)

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