備前焼 やきもん屋 

備前焼・陶芸家の渡邊琢磨(わたなべたくま)です。陶芸、料理、音楽、路上観察……やきもん屋的発想のつれづれです。

流雫へ その1 ~ 伊部手の黒はどこから? ~

2020-06-25 18:54:49 | 陶芸


今回の個展では『流雫(るな)』シリーズを始めています。それらについて少し……。
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◆そもそもの自分の製作スタイル◆

備前焼の伝統技法を現代的視点で解体・リミックスすることで、 今を生きる焼締め陶の在り方を模索しています。

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◆技法のシリーズ化◆

昨年より実験的に展覧会に出品していたモノをシリーズ化しました。
具体的には、鉄と泥漿による彩色です。

昨年のタカシマヤ新宿店でのモノ


筆描きせずに、垂らしたり飛ばしたりして自然に出来る文様を旨としています。
アメリカの画家ジャクソン・ポロック氏のpouring、河井寛次郎氏の打薬、濱田庄司氏の流描、弥七田織部などに類するものです。
差しあたって備前において技法名がないために『流雫(るな)』としました。作業的部分にフォーカスした命名です。

泥彩では鉄に言及出来ないし・・・・・・。
抽象的イメージである巌と波から『山雲濤声(さんうんとうせい)』由来の『山濤文(さんとうもん)』も考えたのだが、「伝わりにくい」&「箱書き大変!」。

よって、新しい技法名は『流雫(るな)』であります。(元号発表的)


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◆製作の前提◆

●白について
今まで象嵌で使っていた備前の一次粘土を使う。

●黒について
まずは、材料を決めなければならない。
以前より江戸期の備前焼にある伊部手の『黒』の発色に興味がありましたので、それを一考する事にします。
主に細工物や献上手に見られる色で、藩の特産品として上手なモノが求められたのか、焼き方にも随分と気遣いが見られます。
その裏面を見ると時折、極薄い塗膜での黒が見られます。小さなヘラ目の溝も埋まっていません。(墨はまた別)
つまりポテッとした釉薬のような濃度ではなく、薄くて黒く発色するもの……。(すべての細工物がそうではありません)

さて、その原料はどこから?

古今東西、人は人力だけで何かをするには出来るだけ楽な方法を考えます。
重いものの運搬などもってのほかで、そういうものは権力の誇示として使うべきものです。城、石垣、古墳などがその例です。

先人の陶工たちも身の回りの素材を利用して陶器を作ってきた事でしょう。
山や平地から粘土を採取し、木を切って燃料とし、地形を利用して窯を築き、溶着防止に稲ワラを使ってきました。
(ヒダスキは本来、重ね焼きでの溶着防止が目的。緋色はその結果として生じたもの)

生産地が異なれば材料も変わりますが、陶工がする事は同様で「手に入りやすいもので作る」のが基本です。
溶着防止材は備前焼では稲ワラですが、海に近ければ貝殻や海藻などを使います。
土地によって粘土の母岩である火山岩の組成が異なる(花崗岩、安山岩、流紋岩等)ので、出来る粘土の性質も異なります。
これらの結果として、産地の特徴が自然と出来上がります。
同じような無釉焼締め陶であっても、越前、常滑、信楽、丹波、備前……と特徴が出ます。

さてさて、話を戻して……黒の原料はどこから?

つまりは、簡単に身近で手に入って安定的に黒く発色をするもの・・・とは。

ひとつの仮説を立てました。
それは田んぼや用水に溜まる生物由来の鉄ではないか?
ヒダスキの稲ワラ同様、半農半陶の備前では田んぼは身近なフィールドです。
鉄をエネルギー源とする鉄バクテリアによって代謝される鉄。
つまり、ソブです。

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◆湖沼鉄=祖父(ソブ)の発見◆

事の端を発したのは、近所で『湖沼鉄』を発見した事によります。


『湖沼鉄』の名称は様々で、
●環境土壌学:斑鉄、褐鉄鉱、酸化鉄黄土
●地質学:鉄バイオマット、鉄バイオフィルム
●生化学:バイオ酸化鉄
●考古学:パイプ状ベンガラ
●工芸:ソブ

と呼ばれます。
異業種交流した場合、同じものがイメージ出来るのかしら?

ちなみに土地の名前を見ると「おや?」という発見もあるけれど、そこはまた別の機会に。
まぁ、山師の世界ですな。

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これを自分で精製すると間違いなく『備前産の鉄』が出来上がります。

「備前の素材で作りました」と言える部分で、ちょっとここは大事にしたいところ。


(その2へ、続きます)



ちょっとCM~~~~!
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◆流雫シリーズは下記で展覧中◆

タイトル : Sturm und Drang 2020
会期 : 6/26(金)~7/1(水) 11:00~19:00
会場 : 備前焼ギャラリー夢幻庵 銀座店
       〒104-0061 東京都中央区銀座5丁目6−10
       TEL 03-3289-8585

※在廊しませんが、会場からZOOMでウチと繋いでお話できるようにしています。ご希望ありましたら是非!

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