おっさんひとり犬いっぴき

家族がふえてノンキな暮らし

二枚目な俳優

2020-02-21 11:19:37 | 日記

 図書館から借りて来た「私の愛した渥美清」(秋野太作著)を読んだ。ある人物を取り上げた評伝としては、久しぶりに面白い本だった。ごく親しい人が書いたものだと、客観的な人物像が見えてこないし、研究者が書いたものはその人物の仕事や業績を中心にしたものになるので、的外れなこともある。

 その点、秋野太作さんの書いたものは、適度な距離を持って書いているのに加え、演劇やテレビ業界については、ここまで書いて役者人生大丈夫かと心配になるくらいおもねることなく筆を進め、読後感は一本の良質な映画を見終わった時のような爽やかな感動があった。

 若い頃は「男はつらいよ」のどこが面白いか全然わからなかった。今でも正直ゲラゲラ笑って観るということはないのだが、渥美清という人物に対する興味は尽きない。秋野さんが役者の目から見た渥美清のお芝居について書いているが、渥美さんの演技はどこまで行っても一人芝居なのだという。普通の役者が、共演する人との掛け合いの中で演技するのとは別次元にあり、相手が大根役者だろうが名優だろうが関係なく、自分ひとりの芝居をするだけだという。おそらく、その辺のところが「男をつらいよ」を観ても、興味が渥美さんにしか行かないところなのだろう。

 「男はつらいよ」は連作の予定がまったくないところから始まっているため、すぐにスタッフも役者もマンネリ化してしまったという。だから、「男はつらいよ」が映画として元気なのは5、6作目くらいまでだという。秋野さんは5作目を山田監督が一番力を発揮した作品ではないかと書いている。渥美さんに関しては「寅さん」のイメージを大切にするために、歳を重ねると他の作品にも出演しなくなったが、渥美清が演じた作品では、「拝啓天皇陛下様」が最高の作品らしい。

 というので、早速2本とも観てみた。「男はつらいよ」はともかく、「拝啓天皇陛下様」は日本映画にこんなものがあったんだと新鮮な発見があった。タイトルからすると反戦映画かと思ったが、そうではなかった。カタカナしか書けない無学な男が、兵隊さんなら三食に困らないし、赤線も半額で行けると、戦争が終わってもなんとか兵隊として残してもらえないかと考えている。この主人公のような人間にとっては、社会で暮らすよりも兵隊さんのほうがよほど生きやすいのである。スタインベックを原作とした外国映画「二十日鼠と人間」と流れるテーマは同じものがあるが、弱者を描いた映画としては、僕はほかに知らない。

 渥美さんは自分の経歴をほとんど誰にも語らなかったそうである。そのためヤクザだったとか、大学出だとか様々な噂が絶えないが、本人は人生においても一人芝居を演じていたかのようだ。共演者としてもっとも身近な場所で渥美清を見ていた秋野さんは、渥美さんほどの二枚目はいないと感じていた。そして、チャップリン同様、二枚目だからこそ三枚目の役を演じて面白いという。

コメント
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