■不公正な改定促進手続き法案――熟議国民投票法案を
安倍内閣の実態は国民に知られて支持率の低下が止まらず不支持率が支持率を上回るに及んで、安倍首相は開き直り、当初のソフトムードを捨てて、居丈高に国民投票手続き法案を強行しようとしつつある。この法案は、もちろん、憲法改定への布石であり、憲法改定自体の前哨戦と言うことができよう。
しかし、その内容たるや、不公正極まりない。国民投票法案制定の是非自体については、現行憲法を擁護する論者の間でも賛否両論がある。一方で、憲法改定の布石という政治的文脈に基づく反対論があるが、他方では「改憲の手続きを定めるのは主権者の意思行使の手続き制定だから論理的には正当である」という意見も存在する。しかし、共和主義的な人民主権の観点から後者の論理に立っても、現在の国民投票手続き法案は、主権者の理性的な意思行使を妨げて改憲を強行しようとする政治的法案であるが故に、反対せざるを得ないのである。
例えば、自民党案(以下、昨年12月の修正案による)では周知期間が発議から「60日以降180日以内」しかなく、僅か3ヶ月で国民投票が行われることが可能である。さらに、最低投票率や有効投票率が定められていないから、周知期間が短く国民が十分に考える時間を持たなかったために投票に行く人が少なくとも改定は成立してしまう。さらに、投票総数を「賛成票+反対票」と規定しているから、白票など無効票が投票総数に入らず、“改定には投票総数の過半数が必要”という規定は実際には有効投票の過半数という意味となってしまい、改定派に極めて有利な規定である。このような「投票総数」の規定は、通常の用法に反しており、詐欺同然である。
そもそもは、硬性憲法の趣旨から言えば、「改憲には有権者数の過半数50%)が必要」という規定でも不思議ではない。これに対し、例えば、周知期間の短さなどのために国民投票の重要性が浸透せず、通常の選挙の場合と同じように、60%が投票し、6%が無効投票だったとしよう。そうすると、僅か27%の賛成で改憲が成立してしまうのである。
また、周知期間の間、公務員や教育者に対して地位を利用する運動を(訓示規定ながら)禁止し、(組合などを含めて)組織にする多数の投票者に対する買収と利害誘導を禁止する。前者は訓示規定ながら服務規程違反による懲戒処分の危険を孕むし、後者は、構成要件が曖昧だから利害誘導という名目で罰則適用が可能になりかねず、現行憲法を擁護すると思われるグループの運動に対して萎縮効果を持つ。
他方で、政党などの無料意見放送・意見広告を定める広報協議会は、各会派の所属議員数の比率によって構成されるから、発議がなされている段階では、3分の以上が改憲派で占められる。そうすると、修正案では賛成派・反対派に同等の無料放送・広告を認めることになったものの、なお改憲派に有利な扱いがなされる危険がある。また、例えば法曹団体など政党以外の団体には無料放送・無料広告が認められず、メディアを通じた有料広告は自由だから、資金的に圧倒的に豊富な資本家団体や保守的団体に有利であり、改憲派は徹底した改憲キャンペーンをメディアによって自由に行うことができる。
そして、発議の内容自体も、「内容において関連する事項ごとに区分して発議」することになっているが、規定が漠然としていて、別々に投票すべきものが一括される危険性がなお残る。個別に投票すると整合性を欠く場合を除き、条文ごと、項目ごとに投票するように明確に定めるべきである。
以上を要するに、この手続き法案は、発議後は国民に憲法改定について熟考する機会を与えずに、しかも憲法改定反対派を罰則などで萎縮させて反対運動を行い難くさせ、改定派には有利な形で無料放送・無料広告を行わせる危険性が残り、さらに豊富な資金力によって有料キャンペーンを自由に行うことを可能にする。そして、投票者が少なくとも改定を可能にし、有権者の過半数はおろか、実際の投票総数の過半数の賛成がなくとも、有効投票の過半数があれば改定を成立させる。これが、改定を容易にするための不公正な手続き法案でなくて何であろうか。
憲法改定は、主権者たる国民にとって最も重要な主権行使の機会であり、従て、もっとも徹底した十分な理性的熟議が保証されなければならない。しかるに、この法案では、周知期間が短いから、理性的議論は行われず、しかも無料・有料双方の手段でメディアによる改定促進キャンペーンを大々的に行うことを可能にするら、非理性的かつ扇動的な手法で改定を強引に実現することを可能にする。
もし国民投票法案を実現するならば、現行案とは逆に、硬性憲法にふさわしく周知期間を1年以上とって、国民が十分に徹底した理性的議論を行うことを可能にする必要があろう。いわば「熟議国民投票」を可能にする公正な「熟議国民投票案」を作る必要があるのである。現在のような不公正な改憲促進国民投票法案を作ろうとしているところに、安倍政権の危険な非理性的性格が如実に現れている。
このような法案が成立すれば、肝心の国民投票という決戦の時の前に、その戦いは改定派に著しく有利になってしまう。いわば、大阪の陣のように、最終決戦の前に城の内堀までも埋められてしまうことになる。改定派は家康のように腹黒く謀略に長けているので、人々はそれを見抜いてその企みを阻止することが重要である。
安倍内閣の実態は国民に知られて支持率の低下が止まらず不支持率が支持率を上回るに及んで、安倍首相は開き直り、当初のソフトムードを捨てて、居丈高に国民投票手続き法案を強行しようとしつつある。この法案は、もちろん、憲法改定への布石であり、憲法改定自体の前哨戦と言うことができよう。
しかし、その内容たるや、不公正極まりない。国民投票法案制定の是非自体については、現行憲法を擁護する論者の間でも賛否両論がある。一方で、憲法改定の布石という政治的文脈に基づく反対論があるが、他方では「改憲の手続きを定めるのは主権者の意思行使の手続き制定だから論理的には正当である」という意見も存在する。しかし、共和主義的な人民主権の観点から後者の論理に立っても、現在の国民投票手続き法案は、主権者の理性的な意思行使を妨げて改憲を強行しようとする政治的法案であるが故に、反対せざるを得ないのである。
例えば、自民党案(以下、昨年12月の修正案による)では周知期間が発議から「60日以降180日以内」しかなく、僅か3ヶ月で国民投票が行われることが可能である。さらに、最低投票率や有効投票率が定められていないから、周知期間が短く国民が十分に考える時間を持たなかったために投票に行く人が少なくとも改定は成立してしまう。さらに、投票総数を「賛成票+反対票」と規定しているから、白票など無効票が投票総数に入らず、“改定には投票総数の過半数が必要”という規定は実際には有効投票の過半数という意味となってしまい、改定派に極めて有利な規定である。このような「投票総数」の規定は、通常の用法に反しており、詐欺同然である。
そもそもは、硬性憲法の趣旨から言えば、「改憲には有権者数の過半数50%)が必要」という規定でも不思議ではない。これに対し、例えば、周知期間の短さなどのために国民投票の重要性が浸透せず、通常の選挙の場合と同じように、60%が投票し、6%が無効投票だったとしよう。そうすると、僅か27%の賛成で改憲が成立してしまうのである。
また、周知期間の間、公務員や教育者に対して地位を利用する運動を(訓示規定ながら)禁止し、(組合などを含めて)組織にする多数の投票者に対する買収と利害誘導を禁止する。前者は訓示規定ながら服務規程違反による懲戒処分の危険を孕むし、後者は、構成要件が曖昧だから利害誘導という名目で罰則適用が可能になりかねず、現行憲法を擁護すると思われるグループの運動に対して萎縮効果を持つ。
他方で、政党などの無料意見放送・意見広告を定める広報協議会は、各会派の所属議員数の比率によって構成されるから、発議がなされている段階では、3分の以上が改憲派で占められる。そうすると、修正案では賛成派・反対派に同等の無料放送・広告を認めることになったものの、なお改憲派に有利な扱いがなされる危険がある。また、例えば法曹団体など政党以外の団体には無料放送・無料広告が認められず、メディアを通じた有料広告は自由だから、資金的に圧倒的に豊富な資本家団体や保守的団体に有利であり、改憲派は徹底した改憲キャンペーンをメディアによって自由に行うことができる。
そして、発議の内容自体も、「内容において関連する事項ごとに区分して発議」することになっているが、規定が漠然としていて、別々に投票すべきものが一括される危険性がなお残る。個別に投票すると整合性を欠く場合を除き、条文ごと、項目ごとに投票するように明確に定めるべきである。
以上を要するに、この手続き法案は、発議後は国民に憲法改定について熟考する機会を与えずに、しかも憲法改定反対派を罰則などで萎縮させて反対運動を行い難くさせ、改定派には有利な形で無料放送・無料広告を行わせる危険性が残り、さらに豊富な資金力によって有料キャンペーンを自由に行うことを可能にする。そして、投票者が少なくとも改定を可能にし、有権者の過半数はおろか、実際の投票総数の過半数の賛成がなくとも、有効投票の過半数があれば改定を成立させる。これが、改定を容易にするための不公正な手続き法案でなくて何であろうか。
憲法改定は、主権者たる国民にとって最も重要な主権行使の機会であり、従て、もっとも徹底した十分な理性的熟議が保証されなければならない。しかるに、この法案では、周知期間が短いから、理性的議論は行われず、しかも無料・有料双方の手段でメディアによる改定促進キャンペーンを大々的に行うことを可能にするら、非理性的かつ扇動的な手法で改定を強引に実現することを可能にする。
もし国民投票法案を実現するならば、現行案とは逆に、硬性憲法にふさわしく周知期間を1年以上とって、国民が十分に徹底した理性的議論を行うことを可能にする必要があろう。いわば「熟議国民投票」を可能にする公正な「熟議国民投票案」を作る必要があるのである。現在のような不公正な改憲促進国民投票法案を作ろうとしているところに、安倍政権の危険な非理性的性格が如実に現れている。
このような法案が成立すれば、肝心の国民投票という決戦の時の前に、その戦いは改定派に著しく有利になってしまう。いわば、大阪の陣のように、最終決戦の前に城の内堀までも埋められてしまうことになる。改定派は家康のように腹黒く謀略に長けているので、人々はそれを見抜いてその企みを阻止することが重要である。