吉田君は、今までも通学する姿を見たことはないけど、これからもないでしょう。居場所が分かると、こんないなかでもパニックになるから、両親が車で送り迎えしている。それは本当だった。嶋崎さんが言うから間違いない。
地元の人間のうち女性は、アイドルを見るハートの目で見るし、男は速球の可能性に大きな夢を見る。誰も彼もがナマの吉田君に会いたいのだ。
さて、その吉田君に金農祭で会う事は出来ません。無理です。しかしたったひとつ、合法的に敷地内に入る方法はあります。
これは秘中の秘なので、秘密に願います。正門がある道路沿いに、あぐり交流館という施設があります。農産物を売ったり、選挙の際は投票所になります。5台ばかり駐車スペースのあるところです。
ここが当日、地元町内会の呈茶会が開かれる場所になります。この前の公民館まつりでも抹茶が提供されましたが、カフェインに弱い私は残念ながら頂きませんでした。
敷地内とは言っても、あぐり交流館と本校舎はかなり距離があります。ここを、とがめられずに通過することは出来ません。
校内の様子を想像しながら、吉田君がああしてこうしてと考えめぐらして、お茶を飲む。
これが市民が出来る最大限の、幸福な過ごし方でしょう。