黄昏どきを愉しむ

傘寿を過ぎた田舎爺さん 「脳」の体操に挑戦中!
まだまだ若くありたいと「老い」を楽しんでま~す

ゴッホは、ほんとうにピストル自殺をしたのか? NO.20

2021-07-26 | 日記
エレナの告白

 サラ いとしい子、たったひとりの私の娘

 知っていたわ。教室に掛けていた<あの絵>を、あなたがずっと
 模写し続けていたこと。    
        
あなたにそうさせていたのは、あなたの中にタヒチ人の血と
 画家の血が――ポール・ゴーギャンの血が流れていたかもしれない。
          

 私はタヒチで生まれて、17歳で父と一緒にフランスに渡るまで、
 タヒチで両親と共に暮らしていたの。

 私のお父さん――あなたのおじいちゃんは、ギュスターヴ・ジラールは
         フランス人入植者で、貿易商をしていた。
 私のお母さん――あなたのおばばちゃんは、フランス人の父と、
         生粋のタヒチ人の母を持つ混血児だった。
         名前は、タウッアヌイ。
         フランス名はレア
         20歳の時ギュスターヴと結婚した。
         そして生まれたのが、
         私(エレナ)だったの

 画家になりたいと強く願うようになり、17歳の時に、なんとしても
フランスにと思い、父がフランスに帰国すると決めたのを折りに、
必死になって頼んだの・・・。

 父は「ウイ」と言ってくれたので大喜び。
 当然、母も一緒に。
 ところが、母は残ると言う。 私はびっくりして声も出なかった。

 母が言うには、
このパリ行は、あなたのたったひとつの望みだったんでしょう?
美術学校に行って、画家になるんでしょう?
それともあきらめるの?
ここで一生暮らしていくの?

母を置き去りにしてまで…私の心は引き裂かれそうに~
悩み、悩んで・・答えは出ず、出発の日はどんどん近づく。
とうとう熱を出してベッドに伏せってしまったの。

ふと気がつくと、母の声が。
エレナこの絵をごらん
       
 
 これはね、エレナ

 私のお父さんが‥‥お前のおじいちゃんが描いた絵。
 そして、この女の人は、私のお母さん‥‥お前のおばあちゃんよ。

  私の…おじいちゃんが描いたの?
  そう。彼の名は、ポール・ゴーギャン

 フランスから来て、この島で暮らした画家よ。
 母さんの名前はヴェエホ。
 14歳で父と出合い、妻になった。そして、をお腹に宿しながら
 父と別れた。母は実家に戻り、私を生んだ。
 父は、その翌年に一人ぼっちで死んでしまった。

 私は、母と祖父母に育てられ、父の顔を知らずに育った。
 その母も、私がギュスターヴと結婚する前に、病気になって
 天に召されてしまった。

 この絵はね、エレナ。
 私の母が天国へ逝ってしまう少し前に見せられたものなの。
 <レア、お前に渡したいものがある。
     お前だけに話しておかなければならないことがある>って。

 そのとき初めて、私は倒産の名前を聞かされたのよ。
 エレナ、いいこと? 
 お前の中にはこの画家、ポール・ゴーギャンの血が流れているのよ。
 だからフランスへ行きなさい。
 行って、画家になりなさい。
 それがお前の運命なのだから。

 お前が決心したら、そのときに教えましょう。
 私が母・ヴァエホから伝えられた「真実の物語」を、
 そして渡しましょう。
 この絵<ヴァエホの肖像>と、母から手渡された「お守り」を…。

 出発前日、最後の夜。部屋で母を待っていた。
 少し離れたところに立っていた。

 黒い瞳でじっとわたしを見つめると、後ろ手に持っていた何かを
 私に向かって突きつけた

       
        
     ~鈍い銀色の光を放つリボルバーの銃口を

 私は息を止めたわ。 だけど怖くはなかった。
 母が私に伝えなければならない「真実の物語」、その口火を切るために
 それが必要なんだと直感したから

 やがて、母はゆっくりとリボルバーを握る手を下した。
 そして、私をみつめたままで、唇が動き始めた‥‥
 母の口からこぼれ出た言葉。
 最初は静かに、次第に熱を帯びて…。

 ・・・私。 私の名前は…ヴァエホ
 私には男がいる。
 男の名前は、ポール・ゴーギャン。
 フランス人で、画家だ。

 彼は私を見つめていた。全身を目にして~
  私の目、唇、胸、腕、足、歩き方、スカートの裾…
 彼のがっしりとした樹木のような姿。
 日に灼けた肌、
 帽子のつばの下の血走った目。
 じっとりと粘っこい視線。  
        

 ある日、突然、彼は私の家へやって来た。
 そして両親に言った。

 <あなたがたの娘を私に下さい
  
 私は怖くて、自分の部屋に隠れたしまった。
 けれど、両親は私に言った。
 <ヴァエホや、あの人のところへ行きなさい。
  あの人と一緒になれば、きっといい思いをするだろう、
  そう、私たちも>

 ・・・そうするほかはない。

 彼は私を両腕に抱き上げて、馬の背に乗せて
      

 風通しのよさそうな 草葺屋根の家。<愉しみの家>へ着いた。

      

最初は怖かった。次第にそれは私にとっても愉しみに変わっていった。

 彼が「アトリエ」と呼んでいた部屋には、木枠に布張りした 
 「カンヴァス」がいっぱいに並んでいた。 
     
        

彼はその部屋で私にいろんなポーズをとらせ、絵を描いた。
彼が描いた。私の姿。はっとするくらいきれいで謎めいていた。

私以外の少女を描いた絵もあった。
薄い胸をあらわにした浅黒い肌の少女たち。     
濡れた瞳、くちづけを待ちわびる唇。
いくつもの私じゃない顔。
     

裸で横たわったり、立膝をしたりして‥‥

     

 誰なんだろう。絵の中の少女たちを見ていると、胸がむかむかしてきて
壊してやりたい気持ちになる。

我慢できなくなって、私は彼に言った。
 <ねぇお願い。 もっと私を描いて。
   私の知らない女の子を描かないで> 

 彼はこう答えた~
 <私にはいま、ほかに描きたいものがある。
  もうすぐフランスからくるはずだから、それを待っているんだ>

 なんだろう。
 何がやって来るんだろう。私は彼と共にその日を待った。

 ある日の午後、郵便配達人がやって来て、小さな封筒を届けた。

 <待っていたものが>
  それは植物の種だった。

 私は全身の力が抜けてしまった。
 そんなものにおびえていたなんて。
 (もしかすると、私にとって来ては欲しくないものが来るかもしれない。
   彼の家族とか、彼の妻とか…嫌な予感が私を怯えさせたの。)

 彼は種を蒔いた。 
 <毎日水をやってくれ>そう頼まれて・・水やりを続けていた。

  近くの泉まで水汲みがおっくうだった。食欲もなかった。
  新しい命の宿りに気がついたのは、緑色の双葉が伸び始めた日の
  ことだった。
       

いく枚もの葉が日に日に大きくなっていくのに合わせるように
私のお腹もだんだん、膨らんでいった。
私は彼に身ごもったことは言わなかった
彼は気づいているのに何も言わない~
変化に気づいているのに目を背けていた。

彼の視線が追いかけているのは…どんどん育っていくみしらぬ植物だった。
それは天に向かって挑みかかるようにまっすぐ伸びていった。

 どのくらいの日数が過ぎただろう~

 私を迎えたのは、金色に輝く大きな花だった。
 黄色い縮れ毛をなびかせて、まん丸で平べったい黒い顔が
 じっと私を見下ろしている。
       

 私は彼を呼びにいった。
 彼は裸足で駆け出し・・・花の前に立った。

 半開きになった彼の口から言葉にならないうめき声が漏れた。

 <咲いた>  彼はつぶやいた。<ひまわりが>

 
 それから何日かして
 <花を切ってアトリエに持ってきてくれ~ 色々合わせて15本>

        
 
  イーゼルとカンヴァスが横向きに置かれていた。
 
 <よし> 彼は両手をパンと叩くと私の方を向いた。

 そして、当たり前のように言った。  <出ていってくれ>
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続 黄昏どきを愉しむ

 傘寿を超すと「人生の壁」を超えた。  でも、脳も体もまだいけそう~  もう少し、世間の仲間から抜け出すのを待とう。  指先の運動と、脳の体操のために「ブログ」が友となってエネルギの補給としたい。