これまた、歌って踊って延々と続くメロドラマではないかと、インド映画をそんな風に見ていたが、この作品だけは違った。
先入観なしで楽しませてくれる。
ド派手なアクションも控えめだし、歌とダンスもちょっぴりあるが、それもほんの微妙なサジ加減で、実に軽やかで明るく、特に女性に元気をくれる作品だ。
インド映画、侮るなかれである。
新人女性監督ガウリ・シンデーは、1974年生まれの39歳、彼女が手がけた初長編作品だ。
世界中の女性たちが共感したといわれる作品だ。
日本での人気も凄いようで、上映館も限られているせいか、1ヵ月にもわたるロングランとなっている。
あまりの観客の多さ(といっても女性が95%くらい!)に、補助椅子を用意しても足りず、立ち見まで出る始末に、上映館はもうニンマリで笑いが止まらないといったところだ
インドのありふれた主婦シャシ(ジュリデヴィ)は、二人の子供と夫と暮らしていたが、家族で自分だけが英語を話せず悩んでいた。
夫や子供たちからからかわれるたびに、ひとり心は傷ついていた。
ある日、アメリカのニューヨークで暮らす姉マヌ(スジャータ・クマール)から、娘の結婚式の手伝いに来てほしいと頼まれる。
シャシは単身ニューヨークに旅立つも、英語が話せないためにに、カフェでコーヒーの注文ひとつできず落ち込んでしまう。
そんな彼女の目に飛び込んできたのは、「四週間で英語が話せる」という英会話学校の広告だった。
シャシは内緒で学校へ通い始め、仲間の生徒たちと英語を学んでいくうちに、夫に頼るだけの主婦から、ひとりの人間としての自覚や責任感に欠けている自分を責め、卒業を前に学校に通うことをあきらめてしまうのだった。
それでも学校の仲間たちは、彼女とともに卒業しようと様々な方法で協力する。
ところが、最終試験の日が、姪の結婚式の日と重なってしまって・・・。
シャシという女性は、英会話を学ぶという小さなきっかけを通して、それまで抱いていたコンプレックスをはねのけていく。
そこがいいところだ。
覚えたてのたどたどしい英語が、思うように相手に伝わらないシーンには笑わせられるが、彼女はそうして徐々に女性としての誇りと自信を取り戻していく。
料理は上手で、家族と幸せに暮らしているだけの、専業主婦のここでの“成長ぶり”が見ものである。
ヒロインのジュリデヴィは、インドでは国民投票ベスト1の女優さんで、今回の出演まで10数年間のブランクがあったが、それを全く感じさせない演技も素晴らしい。
ガウリ・シンデー監督のインド映画「マダム・イン・ニューヨーク」は、監督自身が自分の母親を想いながら脚本を書いたそうで、ヒロインが成長して目覚めていく過程に身近なエピソードをいっぱいに散りばめており、シャシの揺れ動く心象風景とともに、大都会ニューヨークを闊歩するサリー姿もまた誇らしい。
映画ロケの大半をニューヨークで敢行しただけあって、近代的な映像の中にインドの美がうまく溶け込んでいるように見える。
女性にエールを贈る普遍的なテーマが、観る者に清々しい余韻を残してくれる、洒落たタッチの作品だ。
上映時間2時間14分は、少しも長さを感じさせないし、シンデー監督の女性らしい繊細な演出も光っており、15年ぶりに復帰した国民的女優ジュリデヴィの知的な美しさは、どこか日本の原節子を想わせる感じもあって・・・。
騒々しく、うんざりさせるようなインド映画とは反対に、最後まで飽きさせないところがいい。
インド発の好感度ムービーではある。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)
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英語はまあ,みんな話せないから劣等感にはならないでしょうが,最近ならICT。
ICTが使えない程度で劣等感を抱いて欲しくはないかなぁって。そう思います。
外国語を巧みに操る人を見ると、羨ましい限りです。
まあ、日本人ですから、せめて日本語ぐらいは正しく使いたいものです。(笑)