公園のベンチに、若い母親と幼い男の子が腰かけていた。
人のよさそうな小母さんが通りかかった。
「あら、可愛いお坊っちゃまだこと!」
その声に、母親は、小母さんの方ではなく、息子の顔を見た。
「色が白いのね。ハンサムだわ」
「・・・」
「そうだわ。これをあげるわ」
そう言って、小母さんは子供に飴玉を手渡そうとした。
若い母親は、それを制した。
「あ、結構です。・・・すみません、この子、甘いもの駄目なんです!」
「は?」
「甘いものは駄目なんです。ごめんなさい」
その言葉で、小母さんはすべてを了解したようだった。
「あら、そうでしたか。ごめんなさいね」
「いいえ、どうも」
男の子は、残念そうな顔をして母親を見つめた。
小母さんは言った。
「おいくつですか?」
「まだ二歳です」
「そうですか。あなたも、とってもいいお母様ね。元気な子に育つとよろしいわね」
「はい」
「じゃあ、ごめんください。失礼しました」
小母さんはそう言うと、立ち去っていった。
若い母親は、ほっと胸をなでおろした・・・。
母親の気持ちは理解できる。
この母親の家では、日ごろから、子供に甘いものを与えないようにしていた。
ジュース類や果物はもちろん、クッキーなども禁じていた。
父親は、そこまで徹底している彼女を見ても、何も口には出さなかった。
彼女は、育ちゆく子供に、甘いものの取りすぎはタブーだと決めつけていた。
健康のことを考えるあまり、それは当然のことだった。
虫歯にならないようにとの配慮もあった。
親心であった。
母親は、自分自身も甘いものはひかえていた。
子供の嗜好は、母親に似るとも言われる。
親が甘いものを好きだと、子供までが甘いものを好きになるそうだ。
つまり、親の嗜好が子に影響を与える。
このことは、あながち見当違いなことではない。
親は、だから気をつけなくてはいけない。
幼い頃から甘いものばかり与えていると、虫歯も増えるし、肥満も心配だ。
食事にしても、親の好き嫌いで調理される食べ物を、子供は口に入れるわけだ。
親は、自分の好きなものを調理しがちだ。
人間は万能ではないのだから、好き嫌いはある。
母親が、自分の好きなものばかり作って子供に与えていたら、子供はその食べ物以外の食べ物を知らないままに年をとっていくのだ。
よそで口にした料理の味を知って、はじめてこんなに美味しいもの(?)があったのかと知らされることだってある。
親は、自分の好き嫌いを早いうちになくした方がいい。
そうしないと、子供たちは偏食がちになる。
偏食は、いずれ多くのリスクを負うことになる。いいことはない。
それが怖い。
年をとってからでは遅い。
生活習慣病の予備軍にならないためにも、子供のときの食生活はおろそかにできない。
好き嫌いのない子に育てるには、親が好き嫌いをなくすことだ。