「封印」の理由としてもっとも多いのが、「差別」に関わるもの。
1冊目の『封印作品の謎』では、被爆者に対する差別的表現が含まれるとして「封印」された「ウルトラセブン」第12話及び映画「ノストラダムスの大予言」、精神障害者差別だとされた「怪奇大作戦」第24話及び手塚治虫の「ブラックジャック」第41話・第58話が取り上げられています。
『2』では、藤子不二雄の「ジャングル黒べえ」が黒人差別による「封印作品」として紹介されています。「ジャングル黒べえ」って、実はあまりよく覚えていないのです。テレビアニメとしては、1973年放映、放送局は現テレビ朝日の日本教育テレビ系ということなので、青森では放映されていなかった可能性もあります。この作品は、藤子不二雄作品ということになっていますが、実際は、アニメの先行企画で、「アニメの設定を生かす形で」漫画が連載されたということです。
物語は、アフリカのジャングルから日本にやってきた「黒べえ」が「しし男」の家に住みついて、数々の騒動を巻き起こしていくという、ドラえもんやオバケのQ太郎と同じような「異分子住みつき型」です。問題とされたのは、主人公「黒べえ」の風貌や行動が、いかにも原始的で「ステレオタイプな黒人」的な描き方だったということらしい。「らしい」というのは、出版社が「ジャングル黒べえ」を絶版にしたり、テレビ局がアニメの放映を自粛した理由がはっきりしていないからです。
『2』によれば、黒人差別だと指摘されたのは、実は「オバケのQ太郎」の中の「国際オバケ連合」という一話であり、「ジャングル黒べえ」は「出版社の判断により、副次的に回収の途をたどっ」たのではないかということのようです。「国際オバケ連合」というのは、世界各地のオバケが正ちゃんの家に集まって総会を開くというストーリーですが、「ボンガ」という黒人っぽいオバケの描き方が黒人への偏見をあおるとして抗議を受けたのです。
抗議したのは、「黒人差別をなくす会」という団体。あの「ちびくろサンボ」を、一時軒並み廃刊に追い込んだ団体です。彼らの標的は、日本国内において、黒人を差別的に扱っている本、キャラクター、マーク、商品などあらゆるものに及びました。黒人のマネキン、サンリオの人気キャラクター「サンボ・アンド・ハンナ」、玩具メーカー「タカラ」のマーク「だっこちゃん」、カルピスのマーク(黒人がストローでカルピスを飲んでいる絵)、これらはすべて、「黒人差別をなくす会」の抗議によって使用中止や変更となったものです。漫画でも、手塚治虫の「ジャングル大帝」や鳥山明の「Dr.スランプ」、秋本治の「こちら葛飾区亀有公園前派出所」などの一部が問題ありとして抗議を受け、該当部分が変更されたり出荷停止となったりしています。
こりゃすごい巨大な圧力団体だ、と思ってしまいますね。しかし、同会の実態は、大阪のある家族3人(両親と当時小学4年の息子)による会だとのこと。彼らは、「標的」を見つけると、会社や出版社に抗議の手紙を書く。抗議を受けた会社は、それが差別にあたるかどうか深く検討もせずに、「臭いものにフタ」スタイルで、すぐに抗議に従う。こうして、「黒人差別」的な商品は姿を消していったのです。「差別を意図したものではない」と言いながらも、あまりの反響の大きさに、事態が拡大することを恐れたのです。
「黒人差別をなくす会」の活動のきっかけは、1988年7月にワシントンポストに掲載された「黒人マネキン」への批判記事、そしてその翌日の自民党の渡辺美智雄政調会長(当時)の「"アッケラカのカー"発言」でした。「黒人マネキン」とは、そごう東京店に展示されていた黒人の顔を大きくデフォルメしたマネキンのことです。そごうはあわてて売り場からマネキンを撤去、マネキン製作会社も製造を中止する決定を下しました。
ワシントンポストの記事は、米国ではとっくに滅んだ黒人のステレオタイプな描き方がまだ日本で行われていることを批判するもので、「ちびくろサンボ」にも言及していました。「黒人差別をなくす会」の家族は、この事件をきっかけに「黒人商品」探しをするようになったのだということです。
彼らの華々しい「戦果」の陰には、実は「解放運動」の力があったのではと著者の安藤氏は記しています。「黒人差別をなくす会」のバックに直接くっついていたとは言えないものの、出版社などが早々に抗議に従って「敗退」していったのも、差別的な表現の糾弾に努めていた解放同盟の運動の後押しがあったからではないかというわけです。
「ジャングル黒べえ」が果たして本当に「黒人差別」に当たるのか。「黒人差別」は、日本人にとって決して身近な問題ではないのでとても難しい問題ですが、そのことも含めて、もう少し考えてみたいと思っています。
1冊目の『封印作品の謎』では、被爆者に対する差別的表現が含まれるとして「封印」された「ウルトラセブン」第12話及び映画「ノストラダムスの大予言」、精神障害者差別だとされた「怪奇大作戦」第24話及び手塚治虫の「ブラックジャック」第41話・第58話が取り上げられています。
『2』では、藤子不二雄の「ジャングル黒べえ」が黒人差別による「封印作品」として紹介されています。「ジャングル黒べえ」って、実はあまりよく覚えていないのです。テレビアニメとしては、1973年放映、放送局は現テレビ朝日の日本教育テレビ系ということなので、青森では放映されていなかった可能性もあります。この作品は、藤子不二雄作品ということになっていますが、実際は、アニメの先行企画で、「アニメの設定を生かす形で」漫画が連載されたということです。
物語は、アフリカのジャングルから日本にやってきた「黒べえ」が「しし男」の家に住みついて、数々の騒動を巻き起こしていくという、ドラえもんやオバケのQ太郎と同じような「異分子住みつき型」です。問題とされたのは、主人公「黒べえ」の風貌や行動が、いかにも原始的で「ステレオタイプな黒人」的な描き方だったということらしい。「らしい」というのは、出版社が「ジャングル黒べえ」を絶版にしたり、テレビ局がアニメの放映を自粛した理由がはっきりしていないからです。
『2』によれば、黒人差別だと指摘されたのは、実は「オバケのQ太郎」の中の「国際オバケ連合」という一話であり、「ジャングル黒べえ」は「出版社の判断により、副次的に回収の途をたどっ」たのではないかということのようです。「国際オバケ連合」というのは、世界各地のオバケが正ちゃんの家に集まって総会を開くというストーリーですが、「ボンガ」という黒人っぽいオバケの描き方が黒人への偏見をあおるとして抗議を受けたのです。
抗議したのは、「黒人差別をなくす会」という団体。あの「ちびくろサンボ」を、一時軒並み廃刊に追い込んだ団体です。彼らの標的は、日本国内において、黒人を差別的に扱っている本、キャラクター、マーク、商品などあらゆるものに及びました。黒人のマネキン、サンリオの人気キャラクター「サンボ・アンド・ハンナ」、玩具メーカー「タカラ」のマーク「だっこちゃん」、カルピスのマーク(黒人がストローでカルピスを飲んでいる絵)、これらはすべて、「黒人差別をなくす会」の抗議によって使用中止や変更となったものです。漫画でも、手塚治虫の「ジャングル大帝」や鳥山明の「Dr.スランプ」、秋本治の「こちら葛飾区亀有公園前派出所」などの一部が問題ありとして抗議を受け、該当部分が変更されたり出荷停止となったりしています。
こりゃすごい巨大な圧力団体だ、と思ってしまいますね。しかし、同会の実態は、大阪のある家族3人(両親と当時小学4年の息子)による会だとのこと。彼らは、「標的」を見つけると、会社や出版社に抗議の手紙を書く。抗議を受けた会社は、それが差別にあたるかどうか深く検討もせずに、「臭いものにフタ」スタイルで、すぐに抗議に従う。こうして、「黒人差別」的な商品は姿を消していったのです。「差別を意図したものではない」と言いながらも、あまりの反響の大きさに、事態が拡大することを恐れたのです。
「黒人差別をなくす会」の活動のきっかけは、1988年7月にワシントンポストに掲載された「黒人マネキン」への批判記事、そしてその翌日の自民党の渡辺美智雄政調会長(当時)の「"アッケラカのカー"発言」でした。「黒人マネキン」とは、そごう東京店に展示されていた黒人の顔を大きくデフォルメしたマネキンのことです。そごうはあわてて売り場からマネキンを撤去、マネキン製作会社も製造を中止する決定を下しました。
ワシントンポストの記事は、米国ではとっくに滅んだ黒人のステレオタイプな描き方がまだ日本で行われていることを批判するもので、「ちびくろサンボ」にも言及していました。「黒人差別をなくす会」の家族は、この事件をきっかけに「黒人商品」探しをするようになったのだということです。
彼らの華々しい「戦果」の陰には、実は「解放運動」の力があったのではと著者の安藤氏は記しています。「黒人差別をなくす会」のバックに直接くっついていたとは言えないものの、出版社などが早々に抗議に従って「敗退」していったのも、差別的な表現の糾弾に努めていた解放同盟の運動の後押しがあったからではないかというわけです。
「ジャングル黒べえ」が果たして本当に「黒人差別」に当たるのか。「黒人差別」は、日本人にとって決して身近な問題ではないのでとても難しい問題ですが、そのことも含めて、もう少し考えてみたいと思っています。