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キャンディの悲劇─『封印作品の謎2』

2006-03-25 | └人権教育・学習
ある意味でもっとも有名な「封印作品」とも言えるのが「キャンディ・キャンディ」です。

この作品については、「封印」されている原因は「謎」でもなんでもなく、大変明瞭です。漫画の「原作者」と「漫画家」の著作権をめぐる争いです。あまりにもわかりやすいので、この最初の章は読み飛ばそうと思ったくらいですなのが、読んでみると、最高裁まで行った裁判沙汰の陰に、人間関係の微妙なあやが見え隠れしているような気もしてきました。

この事件の発端は、原作者水木杏子氏が、漫画家いがらしゆみこ氏を訴えたことに始まります。いがらし氏が水木氏に無断で「キャンディ・キャンディグッズ」の販売を行ったことに対する民事訴訟でした。水木氏は、「キャンディ・キャンディ」の原作者である自分にも著作権は発生しているのだから、いがらし氏の行為は著作権侵害であるとしたのです。

漫画の「原作者」と「漫画家」の関係は、考えてみると大変微妙な関係にあると言えます。読者はもちろん漫画家の描く「漫画」そのもの、つまり絵のタッチや登場人物の表情、「吹き出し」で表されるセリフに惹かれて漫画を読むわけですが、いくら漫画自体が魅力的だったとしても、ストーリーがつまらなければ、読み続けたいとは思わないでしょう。漫画は、絵とストーリーの両方が「バランスよく面白い」ことが条件なのです。小説で「絵」に相当するのが「文体」なのかもしれませんが、漫画における「絵」ほどの力はないかもしれない。小説はやはりストーリーやプロットありきなのです。だから、小説には「原作者」と「文章を書く人」の分業はあり得ないことですが、漫画にはそのパターンがよく見られます。思いつく作品をざっと挙げてみても、このような原作者と漫画家の分業によるものが多いことがわかります。

「巨人の星」 原作:梶原一騎 絵:川崎のぼる
「あしたのジョー」 原作:高森朝雄(梶原一騎) 絵:ちばてつや
「タイガーマスク」 原作:梶原一騎 絵:辻なおき
「美味しんぼ」 原作:雁屋 哲 絵:花咲 アキラ

原作者が「原作」つまりストーリーやプロット、テーマを考え、漫画家はそれに沿って作画をするわけです。できあがった作品は、原作者と漫画家による合作となり、当然、著作権も双方に発生します。多くの場合、その仲介役をするのは雑誌の編集部なのだそうです。雑誌に漫画が掲載されるだけならまだそれほど問題にはなりませんが、アニメ化されたり、キャラクターグッズの販売が行われたりするようになると、著作権をめぐる様々な争いが起こったりすることもあるようです。

その典型例が「キャンディ・キャンディ」をめぐる争いでした。地裁から高裁、いがらし氏の上告と進んだ裁判の結果、2001年10月、最高裁は「原作者と漫画家には同一の権利があり、合意がないまま、原画の作成や複製はできない」としていがらし氏の上告を棄却、水木氏の最終的な勝訴が確定しました。

ところが、それでめでたくコトが解決したかというと、むしろ事態は悪化していきます。裁判が進む中で、いがらし氏が「そもそも水木氏は『キャンディ・キャンディ』の原作者なんかじゃない」と言い始めたこと、しかも、裁判係争中だというのに、いがらし氏は「キャンディ・キャンディ」の商品化と販売を続けたことが、水木氏の感情を逆撫でしてしまうのです。水木氏は、「これは著作権の問題というより、未だに解決していない詐欺事件」と語っているそうです。この問題が解決しない限り、「キャンディ・キャンディ」が日の目を見ることはない、ということのようです。

いがらし氏に非があったのはもちろんだと思いますし、最高裁の判断も「原作者に著作権はある」という当然とも言える判決でした。しかし、原作者にそこまで全面的に「著作権」を認めてしまうことに、なんとなく納得できないものも感じます。漫画はやはり「絵」あってこその漫画ですから。原作者である水木氏がどこまで「キャンディ・キャンディ」の誕生と成長に関わっていたのかはわかりませんが、やっぱり「キャンディ・キャンディ」があれほど人気があったのは、いがらし氏の描くキャンディや登場人物が極めて魅力的だったからこそと思います。「事件」が起きるまで20年間、いがらし氏と水木氏は、「6対4」の割合で著作権料を分けてきたそうです。決して「対等」ではなく、絵を描いていたいがらし氏の方が多い。それはとても納得できます。漫画は原作だけでは成り立つものではなく、漫画家のペンがあってこそ初めて成立するものなのです。

最高裁の判決は、むしろ、いがらし氏のあまりにもむちゃくちゃな主張を却下するものだったのかもしれません。

─キャンディの「2人のお母さん」はとても仲が良かった。ところがある日、子どもを取り合って喧嘩を始めた。仲裁する人もいなかった。おかげでキャンディは決してオモテに出られなくなってしまった。

…こんな状況、とても悲しいことです。

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