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やっぴBLOG

『4年1組 命の授業─金森学級の35人』

2010-07-10 | ■教育
2003年にNHKスペシャルで放映された「こども 輝けいのち」シリーズ第3集「涙と笑いのハッピークラス~4年1組 命の授業」。1年間にわたって「4年1組」に密着取材した番組ディレクターが「金森学級」を紹介しています。

「金森学級」とは、金沢市内の小学校の金森俊朗先生のクラス。当時56歳、あだ名はゴリラ。金森先生は、「学校に来るのはハッピーになるため」と言い切る。だから「金森学級」は「ハッピークラス」。番組は見ていませんが、この本を読んだだけでも、金森学級の生き生きとした様子にぐいぐい引き込まれてしまいました。ところどころでジーンとさせられながら一気に読み終わって、考えました。今、こういう先生って、「特殊」なのだろうか? それとも全国にはこういう先生が大勢いるのだろうか?

さて、金森学級の朝は、「手紙ノート」から始まります。1日3人ずつ、「なんでもいい」から「クラスのみんなに一番言いたいこと、伝えたいこと」を書いてきて発表する。だいたい2週間に1回は回ってくる勘定。子どもがつい、「ああ今日は書くことないなぁ」なんてつぶやこうものなら、即座に「2週間何の感動もなかったなんて、なんとかわいそうな少年少女よのぉ」と先生のゲキが飛ぶ。「教師のお小言ではなく、子どもの言葉で1日を始めたい」という金森先生の思いを反映した朝の会は、聞く側にも、一生懸命耳を傾けて聞くことが要求されます。いや、聞くだけではなく、感じたことや考えたことをその場ですぐ話すことも求められます。「大切なのは、手紙ノートがなければ知らなかった友だちの姿をどんなささいなことでも発見すること」だと金森先生は言う。だから、ちゃんと聞いていなかったりする子どもがいれば、金森先生は本気で怒る。算数の宿題を忘れてきてもそれほど怒らないのに。

「手紙ノート」から、いろいろなエピソードが紡ぎ出されていきます。肉親の死、いじめといった微妙な問題にも金森先生は正面から子どもたちと向き合う。子どもたちも、先生の「本気」を感じるから、彼らなりに真剣に考えて、解決しようとするのです。

これも手紙ノートがきっかけとなっているのですが、金森先生は学級通信「夢をはこぶ」で、「おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さんが私たちに何を残してくれたのか、残そうとしてくれているものは何だろうか?」と呼びかけています。子どもたちが、祖父母や両親の仕事や生き方について聞き取りをして、その結果を手紙ノートに書いてみようということです。「(新聞やテレビでは)大人のみにくさばかり目につく。せめてそれと同じほどに、大人のすばらしさ、美しさを子どもに見せてほしいと思う。」と先生は保護者にメッセージを送る。このとりくみを、金森先生は「形のない贈り物」という素敵な呼び方をしています。親から子へ、子から孫へと受け継がれていく「形のない贈り物」。それは生き方・働き方だったり、価値観だったり、習慣だったり…。まさに、「命のリレー」ですね。

金森先生の口からは、もちろん「キャリア教育」なんて言葉は一言も出てきませんが、これも、というより、これこそキャリア教育の原点だと思います。子どもたちにとって、もっとも身近な大人である親や祖父母が自分の仕事の内容とか仕事に対する思いを語る。もちろん、すべての親が自分の仕事に生き甲斐をもっているわけでもない。仕事はあまり楽しくない、と語る親もいる。それでも、子どもたちは、親が「働いている」こと、「社会の中で生きている」ことを実感していく。「当たり前」と思っていたことが、そうでもないらしいことに気づいていく。

小さい頃に父親を亡くした光芙由(みふゆ)という子がいます。彼女は、クラスの中で、父親がいないことに自分からはあまり触れないようにしてきました。ある日の手紙ノートで、おばあちゃんが亡くなったことを発表した子がいた。光芙由は、その発表に対する返答として、3歳の時にお父さんが死んだことをクラスのみんなの前で初めて話す。ぽろぽろ泣きながら。金森先生はそんな光芙由を抱きしめて語りかける。「…いつも心にしまっておくとつらい。な、光芙由。だから一度は光芙由がお父さんのことをみんなの前で言ったほうが気が楽になるだろうなと思っていたけども、今日そのことをしっかり言ってくれたのは、先生、とても嬉しかった。…」

光芙由は、その後、「命のリレー」の呼びかけの時、お父さんのやっていた仕事のことを母親から聞いてきています。お父さんはデザイナーだったこと、自分の部屋にもお父さんが描いた絵が飾ってあること、自分も素敵な絵が描きたいと思っていること…。

 金森先生がみんなを挑発する。
 「おまえら、この手紙ノート聞いて、なんも出んの?」
 子どもたちも敏感だ。すぐさま「その絵持ってきて」と声が飛んだ。
 「お母さんに聞いてみます」


翌日、光芙由はその絵を学校に持ってくる。誇らしげに父親の描いた絵を見せる光芙由に、金森先生は「絵が好きだという心、それをお父さんは光芙由に残してくれたんだね」と言う。

学校では、毎日毎日いろんな出来事があります。この本で紹介されているのは、そのほんの一部分でしかないでしょう。それでも、金森学級で起こったことは、すべてちゃんと「つながっている」と感じました。子どもたちの思い、願い、悩み、そして、金森先生の思い、願い、悩み。手紙ノートを核として、いつのまにか、みんな同じ方向を向いているのです。金森先生は、決して子どもたちに「何かを押しつける」ことがない。奇しくも、陽という男の子がインタビューに答えて言っているのですが、「教室では、先生がキャッチャーで、子どもがピッチャーやねんて」。往々にして、私たちは「先生がピッチャーで、子どもがキャッチャー」と考えがちですが、金森学級は、子どもたちが投げる様々なボールを、金森先生がちゃんと捕ってくれる。陽君は、他の先生は直球しか捕ってくれない、と言う。なるほど、子どもってすごく物事を本質的に捉えるのですね。

先日の短大の授業、教員についてのコマでこの本を紹介しました。そして、あなたにとって「良い先生」とはどんな先生ですか、という質問を投げかけてみました。何人かの学生に発表してもらい、それらにコメントする中で、私自身の考えも紹介しました。それは、「子どもから学ぶことができる先生」というものです。金森先生の1年間の最後に子どもたちに言ったのは、まさにそんな言葉でした。

 教職34年の大ベテランは、そんな彼らに最後に深々と頭を下げた。
 「私自身も、みんなからはたくさんのことを教えてもらったと思っています。本当にありがとう」



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4 コメント

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Unknown (ミジンコ)
2010-07-26 21:44:48
「絵が好きだという心、それをお父さんは光芙由に残してくれたんだね」

金森先生の一言に涙がこぼれました。心を残してくれたんだねー、なんてたいていの大人は言えないような気がします。
想いや願いや悩み、本当に大切なことは目には見えず形もないとは言いますが、命をリレーするってこういうことなんでしょうね。
素敵なお話をありがとうございます。
私も、どんな小さな赤ちゃんからも何かを学べるようなそんな大人でありたいです

私のブログでも紹介させて頂いていいでしょうか?
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ありがとうございます。 (やっぴ)
2010-07-28 12:34:53
ミジンコさん、まったく同感です。

目に見えないものをいかに伝えていくか、教員や親はもちろん、すべての大人に求められているような気がします。

ブログでの紹介、ありがとうございます!
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Unknown (ミジンコ)
2010-07-30 06:59:27
やっぴさん、ご紹介させて頂きました!
ありがとうございました!

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