十日町発16:13のワンマンカーが長野に着くのは19:06だから2時間53分かけて走ることになる。そのゆっくりした走りは昔から変わらない。
飯山線沿線の景色は未だ冬から覚めやらぬ風情だ。
信濃川に沿った段丘には随所に分厚い雪が残り、わずかに雪の融けた斜面は大量の枯れたススキに覆われているが、そこからフキノトウがようやく顔を覗かせているのがいかにも雪国らしく、去って行く冬を惜しむのにこれほどふさわしい場所はまたとない気がする。
花が一斉に咲き誇ってしまうと急につまらなくなるのは偏狭にすぎるかもしれないが、冬の名残りを留めて春がためらいがちにやってくるこの季節が一番いい。
おそらくそれは、最初の春を自分1人のものにしたいと言う独占欲の極まったものに他ならないのだと思うが、それを味わうのに最もふさわしいのが信濃川左岸を走る飯山線なのだ。
戸狩・野沢温泉発18:02。辺りが薄暗くなってきた。長野までもう1時間。