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月食が教えてくれる大地の形

2010年09月06日 | うんちく・小ネタ

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今回の話はグッと古く、紀元前 6世紀の出来事です。
 
                                                            ◇この世界は球

  「この世界は空間に浮かんだ球である」

紀元前 6世紀のギリシャで、こう言って聴衆を驚かせた人物がいました。
その名はピタゴラス。
ピタゴラスは世界を旅しながら、数学の分野で優れた業績を遺したギリシャの哲学者です。

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 「三角形の斜辺の二乗は、他の二辺の二乗の和に等しい」

というピタゴラスの定理でおなじみのあの方です。
「世界は宙に浮かぶ平らな円盤である」というのが、当時の他の大多数の哲学者の意見でしたが、ピタゴラスはこれに異を唱えた訳です。

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◇月食は大地の影
ピタゴラスをはじめとする当時の哲学者の幾人かは、月食が私たちの住む大地(地球)の影であると既に考えていました。
そうした目で月食の時の影の形を観察したピタゴラスは、こう考えました。

もし私たちの住む世界が円盤ならば、月に落ちるその影の形は私たちの世界と月の位置関係によって、その形が大きく変わるはずだと。

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お皿を真上から照らせばその影は円ですが、斜めから照らせば楕円形になり真横から照らせば、幅の狭い線になります。自分たちがそのさらの上に乗っていると考えると、月が真上に見えるときの月食の影は円形だが、斜めに見えるときや、月が昇るときや沈むときの月食の影は楕円や直線にならないとおかしいはず。

と、ピタゴラスは考えました。そしてどの角度から照らされても影が円形に見える形は何かと考え、「それは球である」と結論したのです。

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                                                                 ◇天体は完全な形のはず
ピタゴラスは天文学者というより数学者です。そしてその数学者であるピタゴラスは、もっとも完璧な幾何学図形は円だが、もっとも完璧な立体は球であると考えました。私たちの住むこの大地も、空に浮かぶ天体である月や太陽も神が作ったもの。神が作ったものが完璧でないはずはない。それならその形もきっと完璧なはず。

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月も太陽も見かけは円であるが、球を遠くから眺めてもそれは円に見える。
これだけでは天体が円形なのか球形なのかの判別はできない。

しかし月食を観測し、月に落ちる我々の大地の影を観察すると、それは天体が球形でなければ説明のつかないことから、

  この世界は空間に浮かんだ球である

と結論したのでした。

                                                                  部分月食を眺めて、「ああ、私たちの住む世界は球形なんだな」と2500年前のピタゴラスの気分に浸って感じてみてください。

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                                                                 「神が作った天体の形は完璧なはず」というピタゴラスや彼の後継者達の観念論はやがてヨーロッパに広く普及し、それから2000年あまり後のルネッサンス期の学者達を悩ませることになります。

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