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蚊取り線香

2009年09月09日 | うんちく・小ネタ

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9月に入っての話題としては、少し遅い感はありましたが、新型インフルエンザの感染が増え続ける中、忘れてはいけない、蚊によって広まるウエストナイル熱ウイルスという死に至る病が、この時期から流行る恐れがあります。 また、気温が25度から30度になると活発になる蚊にとっては、この時期は元気になる時期でもあり、同時に最も栄養を求めて吸血活動が盛んになる時期なのです。(気温が30度を超えると動きが鈍ります)

そこで、蚊の駆除方法として日本が誇る蚊取り線香について取り上げてみようと思いました。

蚊取り線香が作られるようになったのは明治時代のことです。
「金鳥」ブランドで知られる大日本除虫菊の創業者である、上山英一郎氏が、米国植物会社の社長であったH・E・アモア氏から、1886年(明治19年)に除虫菊の種子を入手し、翌年に第1回の収穫を行い、製粉したことに始まります。

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上山氏は和歌山県の旧家でミカン農家をしていました。
ミカンを輸出する一方でオレンジの栽培なども手がけていたとか。               同社の資料によれば、1888年に線香を販売していた伊藤氏と同宿した際に、初めて蚊取り線香を試作。1890年に棒状の蚊取り線香を完成させたそうです。
棒状の蚊取り線香はヒット商品となったのですが、持続時間がおよそ1時間と短いのが難点でした。

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悩んでいる英一郎氏に「渦巻き型にすればいい」とアドバイスしたのはゆき夫人。
1895年に試作を開始し、1900年には特許を出願、発売されたのは1902年のことです。
こうして現在でも使われている蚊取り線香が広く普及するようになりました。

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渦巻き型には金属製の線香立てがよく用いられますが、雰囲気を出すならやはり陶器製の“豚”でしょうか。
日本に長らく住んでいる人でしたら、一度は蚊取り線香を収納する陶器製の豚を目にしたことがあるでしょう。

さて、この豚のことをなんて呼ぶかご存知でしょうか?

正解は「蚊遣り豚」です。

蚊遣りとは蚊を追い払うために、草などを燻すことで、煙で追い払うという意味です。「蚊遣り」は除虫菊が日本に輸入される前から行われていたようです。
蚊遣り豚はかつて常滑焼きで多く作られていました。

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                                                               常滑に伝わる、蚊遣り豚の起源としては次のような話しがあります。
養豚場で大量の蚊が発生し、困っていた時代があります。
豚は体毛に覆われていないため、蚊に狙われやすいのだとか。
そこで蚊をおいはらうために、焼き物の筒で草を燻して蚊を追い払っていましたが、長時間にわたって煙が出るように口の部分を改良したところ、どこかその姿が豚に似ていたとかで、そのため、蚊取り線香用に豚の焼き物を作ったところ人気商品となったというのです。

もっとも「蚊遣り豚の謎」(著者:町田忍、新潮社刊)によると、それ以前に「豚器」と呼ばれた蚊遣りがあったようです。
ただし、町田氏によれば、豚器の豚は現在でいうところのイノシシだろうと推察されているようですが・・。

残念ながら、電子蚊取り器の普及で、蚊遣り豚の生産は大幅に縮小してしまったそうです。

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蚊取り器は進化を続けています。
「蚊取り器ブラックホール」は屋外での使用を想定した強力な電子蚊取り器で、光と熱と微量の二酸化炭素によって蚊の好む環境を作り出し、周囲の蚊をおびき寄せ、確実に捕獲するそうです。
時代とともに、ハイテクなものが登場し、その効果も大きく期待出来そうですが、大昔から変わらないはずの蚊の生体から、ここに来て、人は死を恐れなくてはいけないウイルスの発生に恐々とする時代を迎えてしまいました。

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さて・・・