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アンソニー・バークリー/毒入りチョコレート事件

2009年09月15日 23時51分52秒 | Books
 ちょいと前に「幻の女」の後に読んだもの。これを最初に読んだのは確か中3か高1の初読以来、カーの諸作品やなどと同様、もう何度読んだかしれない、私にとってのエバーグリーン的作品である。この作品の眼目は登場する6人の探偵たちが、様々な方法に立脚した推理合戦を行うところにあり、私はこのプロセスに異常に興奮した。ひとりの探偵から一見合理的で非の打ち所がない推理が披露されると、たちどころに他の探偵から難点や矛盾が指摘され、あっという間にその理論が瓦解したり、前の探偵が全く無視した手がかりから、意外な推理を導きだしてみたりと、大げさにいえば価値観の転換が連打するその展開は緩急自在、興奮しながら読みながら、「自分のこういう探偵小説が好きなのか」と妙に納得してしまったところすらあるくらいである。

 以来、私はこの種の推理合戦が火花を散らす作品が大好きになり、その後、「虚無への供物」や「匣の中の失楽」といった作品に遭遇、再び大興奮したりする訳だけど(順番違ったかな)、わたし的にはこの作品がそうした走りだったような気がする。ちなみにこの手の作品はその性格上、いわゆる本格物のパロディにならざるを得ないところがあり、この作品も多分にそういうところがある。「理論的に犯人の条件を満たすのは自分しかいない、しかし自分は犯人ではない」みたいなものである。そのあたり「虚無」だと文学性、「匣の中」はポストモダン的なペダントリーみたいなものが、本格推理が逸脱する領域に浸食したりするのだけれど、この作品は理論づくで推理していくプロセスをシニカルに眺めていて、まっとうな本格物にもかかわらず結果的にパロディになっているみたいなところが、今読むとよく分かっておもしろい。

 ちなみに、バークリーは第二次大戦前の本格が黄金時代だった頃の英国の推理小説作家だが、「ピカデリーの殺人」とかアイルズ名義の「試行錯誤」、「レディに捧げる殺人物語」、「殺意」といった、通常の本格物をひねりまくったような設定の作品が多く、個人的には大好きな作家だ。「試行錯誤」などパロディ的な側面からすれば本作を上回る作品だし、チタウィックがひょんなことから事件に巻き込まれる「ピカデリーの殺人」の冒頭部分の、英国的としかいいようがない雰囲気などもずいぶん楽しんで読んだ記憶がある。ふと気がついたので、検索してみたら、以前は翻訳されておらずタイトルだけ知られてた「最上階の殺人」とか「レイトンコートの謎」も、現在ではしっかり翻訳されているようだ。気がむいたら読んでみたい。

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