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中川右介/世界の10大オーケストラ:

2009年08月05日 22時33分02秒 | Books
 「カラヤンとフルトヴェングラー」、「カラヤン帝国興亡史」、「巨匠たちのラストコンサート」、「松田聖子と中森明菜」など執筆した中川右介の最新刊である。今回はタイトルからも分かるとおり、世界の有名オーケストラを十ほど選び、その権力闘争の歴史を辿りながら、ヨーロッパ近現代史を敷衍していくというものだが、前書きにあるとおり、この本にはまるで循環主題のようにカラヤンが登場し、直接、間接にそれらのオーケストラとどのように関わったかも記述されているのが特徴である。ベルリンやウィーン、フィルハーモニアにパリ管以外のオケまで、けっこうカラヤンと因縁づけているあたり、この本がカラヤン・シリーズと密接な関係にあり、著者にとってカラヤンは並々ならぬ興味の対照であり、大きなテーマになっていることをにおわせている。

 さて、内容だが十もオーケストラを扱っているせいで、分量的には膨れあがってしまったのだろう。同じ幻冬舎の新書だが、これまでの倍の厚さはあろうかというボリュームである。ただ、一冊の本に十もののオーケストラの歴史を近現代史を絡ませつつ、権力闘争の歴史として描くということは、「巨匠たちのラストコンサート」のようにアーティストの終末点にスポットをあてるのならともかく、今回はさすがに著者にとってその縛りが足かせになってしまったのかもしれない、結果的に権力闘争や歴史的な人物の意外な交錯といった著者らしい切り口が薄手になってしまい、時に歴史を素描しているだけみたいなところが散見する(ドレスデンのように歴史が長いオケだとそういう傾向が強い)。できるうることならば、この更に倍くらいの分量にして、著者らしい遊びを入れるか、思い切って省略を取り入れた方が、テンポ感の良い本になってのではないとも思う。

 とはいえ、私のような浅学な者には、有名オーケストラの成り立ちだの、歴史だのは初めて知ることばかりなので、いつも通り一気に読んでしまったというところだ。特におもしろかったのは、ニューヨーク・フィルの章で、愛好家クラブから同じエリア内の覇権争い、そしてマーラーやメンゲルベルクが関わり、やがてバーンスタインの登場するあたり、このオーケストラの持つ、意外にも「濃い歴史」がかいま見れて、実に興味津々であった。できれば、これだけて一冊の本にしてもらいたかったくらいである。また、レニングラード・フィルとムラヴィスキーのコンビをベルリン・フィルとカラヤンのライバルに位置づけているあたりの視点もなかなかのもの。イスラエルがカラヤンを拒否しつづけたエピソードなども、歴史の一断面を見る思いで興味深いものあった。

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