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ジョヴァンニ・フスコ/赤い砂漠

2009年11月13日 22時35分43秒 | サウンドトラック
 「赤い砂漠」は、「情事」「夜」「太陽はひとりぼっち」と続いた、いわゆる「愛の不毛三部作」に続いて発表された64年の作品。この作品も私は多分観ていないと思うが、そのポスターというか、広告だけはけっこう覚えている。これが公開された65年といえば、ビートルズ最盛期、愚兄がビートルズの記事目当てで購入してきた映画雑誌の裏表紙がこの「赤い砂漠」で、赤い扉枠に手をかけたモニカ・ビッティが何か思い詰めたような表情でこちらを観ているような構図だったと思うけれど、その赤....というか茶色のトーンが支配した独特の色調に写真は子供心にもかなり奇妙な印象を残したのだろう、今でもはっきり覚えているくらいだ。映画の内容は交通事故のショックから精神障害となった主人公(当然、モニカ・ビッティ)の孤独な心象風景を様々な形で描いているらしい(そういえば、アントニオーニの初のカラー作品がこれだったようだ)。

 アルバムに収録されたのは6曲。メインタイトルらしい「Astrale」はモロに現代音楽した音響の上に無調風な女声スキャットがのる非常に幻想的な音楽だ。昨日のところにジョヴァンニ・フスコという人は現代音楽畑の音楽家ではないか旨のことを書いたけれど、こういうトラックを聴くとますますそう思えてくる。「Nevrosi」も非常に幻想的な趣がある音響作品。こちらはボーカルもはいらず、ゆらゆらと漂うサウンドに時折メカニックな現実音が散りばめられたあたり、が離人症的な主人公の心象風景を表しているようで、こういう音楽をつけた画面というのはどんな風になっていたのか、とても興味深い。「Orgia」と「La Favola」は映画のセリフをそのまま収録したようなトラックだが、隙だらけの寡黙なセリフ(しかも奇妙な残響付き)の合間にやはり奇妙な現実音が入っていて、これまた非現実的な雰囲気と幻想味があり、聴いている質感としては、もはやミュージック・コンクレートの領域にはいったといってもいいトラックになっている。

 残り2曲はこれらの音楽とは全く対照的な通俗ダンス・ミュージックだが、他の2作が現音風音響的な作品とこうした通俗トラックがかろうじてバランスしていたのに比べると、さすがにこちらは前者の音響がエキセントリック過ぎて、まさに乖離してしまっているように聴こえる。これなどネオリアリズム出身のアントニオーニが本編で次第にイタリア的なもの、スタンダードな映画の作法から離れていく解体のプロセスをまさに音楽面で物語っているようで興味深い。ちなみにジョヴァンニ・フスコがアントニオーニの音楽を担当するのは確かこれが最後で、次からはもっと先鋭的な非映画音楽畑の人たちを起用していくことになる。

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