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アイリッシュ/幻の女

2009年08月21日 21時03分07秒 | Books
 以前にも書いたけれど、私は中学時代からひとかどのミステリー・ファン....いや、探偵小説ファンを気取っていた。高校時代ともなれば、探偵小説を読み漁るだけでなく、雑誌「幻影城」を定期購読したり、様々な評論を読んで読んでみたりと、今から思えばけっこう本格的なファンだったように思うが、やはり興味の中心は密室だの、アリバイ崩し、読者への挑戦....といった本格物にあって、サスペンス・ミステリ的なものにはほとんど感心がなかったし、あえて読んだとしても、自分的にはほとんど記憶に残らない作品ばかりだった。
 アイリッシュの「幻の女」はほとんど唯一、その例外といえる作品である。サスペンス・ミステリの古典ともいえる作品で、終戦直後にこれを読んだ乱歩が感激して「世界10傑に値する」とか激賞して、一躍知れ渡った作品だが、自分が読んだのはそういう理由によって、けっこう後、多分二十歳くらいの時だったように思う。当時の記憶はほとんどないが、トリックだのなんだのというより、独特の雰囲気と、死刑まであと何日というカウントダウンというせっぱ詰まったストーリー、そしてラストの大どんでん返しと....と、一気に読了し、「さすがにこれは名作だ」と膝を打ったことだけは覚えているのだが、それから約30年後の今日、ほとんど気まぐれこの本を読んでみた(よく自宅に残っていたよな)。

 さて、再読して感じたのは、冒頭の有名な書き出しに象徴されるように、この作品、ニューヨークの雰囲気がもうムンムンするように漂っていて、これがなんとも独特の雰囲気を醸し出している。作品のストーリーなどもさることながら、まずはこの雰囲気の中、かぼちゃ色の帽子をかぶった謎めいた女(この後「幻の女」ににる)に主人公が出会い、彼女とともにバー、食事、劇場、そして元のバーに戻るというエピソードが、様々な雑踏の描写ととも実にいい感じで描きだされている。私はニューヨークなど行ったこともないが、こういうストーリーはニューヨークであるが故のリアリティともいえそうで、実をいうと今回再読してこの部分にもっとも魅力を感じてしまった。
 ストーリー的には全く忘れていて、ほとんど初めて読むのとほとんど変わらないくらいだったが、主人公に変わって探偵役を務める親友、恋人が、やはりニューヨークを彷徨うように「幻の女」を探していくプロセスも、スリルとともにある種の詩情すら感じさせて読んでいて楽しかった。もっともラストは広げすぎた謎をちとまとめあぐねたようなところがないでもないし、「幻の女」の正体はそのままにしておいた方がよかったような気がしないでもないが....。いずれにしても、やはりこの小説、冒頭のエピソードがとにかく強烈に魅力的だ。
コメント (6)
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