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音楽全般について 素人臭い能書きを垂れてます
プログレに特化した別館とツイートの転載もはじました

坂本龍一/スムーチー

2009年08月16日 23時21分42秒 | JAPANESE POP
 この作品、基本的には前作「スウィート・リヴェンジ」に続編という、ポップな作品を作るというスタンスで製作されものだと思う。ただし、「スウィート・リヴェンジ」が音楽的にも非常に多彩で、全体にカラフルな仕上がりであったのに比べれると、こちらはそれが結果的にではあったにせよ、いささか生彩に欠く印象を受ける。なにやらしんみりした曲が多いし、アルバム全体がいささか低回気味なムードに支配され過ぎているような気がするのだ。1曲目の「美貌の青空」ではイントロで、いきなりインダストリー風にブチカマしてくれるが、曲自体はメランコリックな沈みがちなものであるし、2曲目「愛してる、愛してない」では、こともあろうに中谷美紀が呼んでおきながら、少女への憧憬が空転するような意味不明な作品になってしまっている。

 と、まぁ、万事こうした調子の曲が続く。豪華に装丁された高級書籍のような風情で発売されたこのアルバムを勇んで購入してきたこちらは、いい面の皮である(笑)。今回、久しぶりに聴いて、ハタと気がついたのだが、この時期の坂本は「未来派野郎」以来、かれこれ10年近く続けてきたシーケンサー、サンプリング、ループといったエレクトリック・サウンドにいい加減、飽きてしまっていたのではないだろうか。その証拠といってはなんだが、このアルバムの後発表された「1996」は坂本流の室内楽であって、その後もピアノ・ソロだの、オーケストラだのと、「生音指向」が強い作品を頻発していくのである。そう思えば、この作品は、むしろ「スウィート・リヴェンジ」から「1996」へと向かう狭間に作られた過渡期に作品と考えると、なんとなく坂本ヒストリーでもなんとなく「座りの悪い」この作品もすっきりとするような気もする。もっとも、私は坂本流の室内楽は、あまりおもしろいと感じないクチなので、理屈で納得したからといって、この作品が俄然好きになったりする訳でもないのだが(笑)。

 さて、ネガティブなことばかり書いているようだが、実はそうではない。この作品、なんだか沈痛な作品ばかり続くのだが、私にとって光り輝いている曲がある。それはラストの2曲、つまり「Rio」と「A Day In The Park」だ。この2曲だけは文句なく素晴らしい。「Rio」はSF的な空間の中、ゴスペル風な旋律が見え隠れする、なんだか「ブレイド・ランナー」でも観てるような気分にさせるスペイシーな曲なのだが、ピアノとシンセのアーシーなフレーズがエレクトリックな空間の中で静かに鼓舞する様は、問答無用な美しさを感じさせる。また、後者の「A Day In The Park」はAOR風なサウンドとファンキーなリフの繰り返しで構成された一見「普通の曲」だが、実は「普通の曲」バラバラに解体されたオブジェの曲であることは、この曲のメインのボーカルがないことでも一目瞭然だ。いやぁ、実に素晴らしい。という訳で、今夜も私はこの2曲だけを聴くためにこのアルバムをひっぱりだしてくるのだ。
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クラウス・オガーマン・フィーチャリング・マイケル・ブレッカー

2009年08月16日 03時48分08秒 | JAZZ-Fusion
 トミー・リピューマ、プロデュースによる1990年の作品。オガーマンはリピューマのプロデュースでフュージョン系の作品を70年代中盤以降、非常にゆっくりとしたペースで何枚か出しているが、さすがに高齢ということもあり、近年ではダイアナ・クラール以外はもっぱらクラシック系の作品のみに残った力を傾注しているようだから、これは最後の作品となるではないか。前作「City Scape」同様、マイケル・ブレッカーをソリストに迎えての作品だが、集まったメンツも、ブレッカーの他、ロベン・フォード、マーカス・ミラー、ヴィニー・カリウタ、スティーブ・ガッド、アラン・パスクァ、ランディ・ブレッカー、ポーリーニョ・ダ・コスタ、エディ・ゴメス他、錚々たるものである。

 さて、本作は初出時に「ブルーバール・トリステス」というタイトルを、日本で勝手につけたことからも分かるとおり、ラテン色がけっこう強く、比較的耳障りのいいサウンドでもって仕上げられているのが特徴だろう。アルバムは8分~10分程度の長い作品5つから構成されており、オガーマンが腕によりをかけた、スタンダードなフュージョン・サウンドと格調高いオーケストラがかもしだすハーモニーが存分に楽しめる寸法だ。
 1曲目「コルフ」は、ブレッカーを中心したすこしボサ・ノヴァの匂いもするテーマが一段落した後、転調して思わず視界が広がるような進行が素晴らしい。ブリッジのソロはロベン・フォードだが、なんともいえない「夜のムード」を醸し出しているのが素晴らしい。中間部のブレッカーはエレピとシンセ、そして木管で組み合わされたアンサンブルをバックにいつものことながら素晴らしいソロを展開する。

 2曲目「リリコスモス」は弦楽とシンセのモダンなハーモーニーで形成されたイントロがいかにもオガーマン的な温度感と感触があるが、リズムが入る主部ではかなりホットな展開になる、ラテン風に盛り上がるラストではランディ・ブレッカーのソロも登場するものの、全体のトーンとしては、「Gate of Dreams」的な雰囲気が濃厚だ。
 3曲目「アフター・ザ・ファイト」はAORっぽいリズムから、やはり木管を中心としたオーケストラのテーマがオガーマン以外の何者でもないセンスを感じさせていい。それにしても本作はシンセを多用してフル・オーケストラはあまり登場しないように思うが、そうした不足感を微塵も感じさせないのは、さすがオーケストラ編曲を知り尽くした人による作品という気がする。

 4曲目「アドニア」は木管と低弦によるオーケストラをバックにランディ・ブレッカーが吹くテーマの後、ムードがかわり本編とおぼしきパートに突入する組曲風な構成という点で、やはり「Gate of Dreams」的世界を感じさせる曲である。
 ラストの「ブルーバール・トリステス」は、ひょっとするとボーナス・トラック扱いかもしれない。ここではマイケル・ブレッカーは登場せず(リズム隊も異なる)、かつ、アルバム中、もっともオーケストラがフィーチャーされる曲でもある。また、ロベン・フォードがソロの主役として活躍するが、めずらしくクラシカル風なフレーズなど繰り出して、いかにもオガーマンを感じさせるヨーロッパ的世界ににじりよっているのがおもしろい。

 という訳で、このアルバム、GRPらしい極上のフュージョン・サウンドに、後期オガーマンらしいシリアスなムードが絶妙にバランスして素晴らしい仕上がりになっていると思う。私のような軟弱な人間だと、前々作の「Gate of Dreams」は、今となっていささか時代を感じさせる音楽だし、「City Scape」の方は、ちとシリアスな趣が勝ちすぎていると思うのだが、本作についてはそうした違和感は、発売後20年たった今聴いてもまったくない。少なくとも、私が考える「オガーマンのイメージ」にぴったりとハマる音楽が、コレであることは確かだ。
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