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音楽全般について 素人臭い能書きを垂れてます
プログレに特化した別館とツイートの転載もはじました

アントニオ・カルロス・ジョビン/ウルブ

2009年08月10日 11時24分53秒 | Jobim+Bossa
1970年代にアントニオ・カルロス・ジョビンがいったいどんな活動していたのか、例えばアルバムといったらどんなものを出していたのか、寡聞にして私はほとんど知らないのだけれど、「Terra Brasilis (1980年)」に本作、そして、こちらは未だ聴いてないが「Matita Pere (1973年)」といった作品を見る限り、クラウス・オガーマンを片腕としたコラボレーションは続いていたようだ(復活した....というべきなのかもしれないが)。ただし、CTI(=クリード・テイラー)という足枷がなくなったことやボサ・ノヴァ・ブームが過ぎさったことで、セールス的にはどうだったはわからないものの、かなり自由に音楽を作っていたことは確かなようだ。

 前述の通り本作は1973年の作品だから、クロノジカルに眺めると「Stone Flower」の次の作品ということになるが、音楽的にはかなり趣が異なる仕上がりといっていい。なにしろアルバム冒頭「ボト」は、いきなりビリンバウのソロに始まり、パーカスが絡みつつ、かなり野趣満々なエスニック雰囲気で進んでいくのだ。本編も音楽的にはボサ・ノヴァとはほとんど無縁であり、ブラジル音楽を「ビッチズ・ブリュウ」的なサウンドでもって再構築したような趣になっているし、ジョビンと女性ボーカルがユニゾンで歌うパターンは、その後の「パッサリン」などで頻出するものだから、歴史的にみれば、このあたりでジョビン後期のスタイルが確立し始めたというところなのかもしれない。もっとも、続く2曲目「リジア」、3曲目「コヘンテーザ」、4曲目「アンジェラ」はオガーマンのゆったりとしたリッチなオーケストラを従えてジョビンが気持ちよさげに歌うというごくごくスタンダードなスタイルであるが....。

 さて、本作の目玉というか、ポイントとなるのはやはり後半、アナログ盤だったらB面に収められていたインスト主体の4曲だろう。ここではオガーマンの冴えたオーケストレーションが主役になって(ドラムスやパーカスは全くといってほど出てこない)、ジャズやブラジル音楽というより、交響詩のような、いや映画音楽的かな、とにかく独特なジョビン・ワールドが開陳されている。8分にも及ぶ7曲目の「アーキテトゥーラ・ジ・モラール」など、ジョビン的なたおやかな抒情にオガーマンに怜悧でヨーロッパ的なオーケストレーションが見事に調和して素晴らしい音楽になっている。6曲目の「サウダデ・ブラジル」(これも7分を越える)も同様だ。こうしたスタイルは「テラ・ブラジリス」でも聴けるけれど、ここまでたっぷりと披露されているのはたぶんこのアルバムだけだろう。その意味でも本作はジョビンとオガーマンの貴重なコラボレーション記録だと思う。
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ルイス・ヴァン・ダイク・トリオ/バラード・イン・ブルー

2009年08月10日 00時11分29秒 | JAZZ-Piano Trio
 先日気まぐれで購入したアルバム。ルイス・ヴァン・ダイクというオランダ人のピアニストを中心としたトリオが2004年に製作したアルバムだ。レーベルは日本のM&Iだから、ヴィーナスとかアルファ・ジャズなんかと同様、「日本発の洋楽ジャズ」的作品なんだろうと思う(女性の曲線をあしらったジャケットなどヴィーナス・レーベル的でもある)。さて、ルイス・ヴァン・ダイクというピアニストだが、60年代にアン・バートンの伴奏者として有名になった人というから、キャリア的には大ベテランのはずだが、ヴィーナスでのエディ・ヒギンズなど同様、日本でこうして再発見されるまではほとんど無名な人だったのだろうと思う。

 さて、ルイス・ヴァン・ダイクだが、さすがにオランダ人のピアニストだけあって....といっていいのだろうか、軽量級ではあるが泥臭いところが全くなく、時のクラシカルな風情すら漂うエレガントで、実に美しいシングル・トーンを持ったピアニストである。オランダという国のことはよく知らないが、こと音楽に関する限り、ロックでも、ジャズでも、クラシックでさえもそうなのだが、軽快で女性的、スケールはこじんまりしているが、洗練されていてまとまりが良い....みたいな特徴があると思う。そして、このルイス・ヴァン・ダイクという人も典型的にそうした特徴を兼ね備えている人のように思える。まぁ、ミもフタもな言い方をしてしまえば、ユーロピアン・ジャズ・トリオの先輩格といったら、当たらずともなんとやらといったところだと思う。。

 収録曲は「日本発の洋楽ジャズ」だからして、日本人好みのものばかりであるが、「いそしぎ」、「捧ぐるは愛のみ」、「エスターテ」、 「ラウンド・ミッドナイト」、「おもいでの夏」「ゴーン・ウィズ・ザ・ウィンド」「春の如く」と選曲からして多少は渋いといえるかもしれない。前述のように典型的なヨーロッパ的な透明感と上品な感触のピアノを弾く人なので、アップテンポで豪快にスウィングしたりとか、元のテーマがなんだったのか分からなくなるようなアドリブとかはなく、かといって、実体のないお洒落なムードだけが取り柄みたいな、この手の音楽にありがちな陥穽にハマるぎりぎりところで、格調高く全体をまとめているのは、さすがベテランの妙味といったところだうか。

 個人的には時季も時季なだけに、大好きな「いそしぎ」や「エスターテ」が含まれていたのはうれしかった。ただし、どちらもありがちボサ・ノヴァ風なアレンジではなく、ゆったりとしたバラードで演奏されているのが逆に「いい感じ」である。また、これまた私の好きな「春の如く」は、ややピアノ・ソロでつづったやや散文的な演奏だが、詩的情感というか、うっすらとしたロマンティシズムのようなものも悪くない。数曲収録されたオリジナル曲は、いずれもクラシカルな趣が強いが、これなどもオランダらしい感性を感じさせる曲であり演奏である。
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