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早坂文雄/七人の侍、羅生門

2009年08月26日 23時50分52秒 | サウンドトラック
 ずいぶん前-たぶん10年くらい前-に購入してきたものであるが、このアルバムがスコア盤だったことに初めて気がついた。ひょっとすると、今回、初めて聴いたのかもしれない。指揮は早坂の弟子筋にあたる佐藤勝、オケはシネ・ハーモニック・オーケストラというスタジオ・オケ、コーラスは東京混声合唱団で1974年に収録されている。74年だから当然アナログ期で、初出は当然アナログ盤だろう。けっこう昔のアルバムな訳だ。映画音楽のスコア盤というジャンルは、日本だと80年代以降の伊福部先生のものが草分けくらいに思っていたのだが、日本でもこの時代からあったというのはけっこう驚きである。なにしろ、チャールズ・ゲルハルトがナショナル・フィルを指揮したコルンゴルトのスコア盤の登場が70年代前半だったはずだから、「さすが黒澤作品は格が違ったと」いったところだろうか。

 さて、内容だが「七人の侍」と「羅生門」がそれぞれ二十数分程度の組曲で収録されている(おそらくアナログ盤では旧ABに割り振られていたのだろう)。前者はかろうじてサウンド・トラックが残っているためサントラ部分のみがCDでも聴けるが、後者は現在ではフィルムしか現存していないのだろう、CDではセリフも入ったフィルム起しの音源しかないため、これの存在は非常に貴重である。
 で、実際に聴いてみると、とにかくオリジナルとの雰囲気のあまりの違いに驚く。オリジナルのナローだが、おどろおどろしい迫力に満ちたやたらと太い音に比べると、こちらは透明感あふれる繊細さに満ちた音楽になっており、その音の質感、雰囲気の違いは腰を抜かすほどだ。「七人の侍」冒頭の音楽など映画だとエスニックな太鼓が単に暴力的にドンドンとなっているだけみたいに聴こえるが、実は様々な楽器が重なり形成された非常に複雑なサウンドだったことが分るし、「菊千代のマンボ」はこれで聴くと、本当はマンボだったことが良く分かるといった具合だ。
 「羅生門」に至っては、その雅やかな雰囲気とボレロのヴァリエーションなど、大げさにいえばこれでもって、ようやく自立的音楽的としての全容が明らかになってのではないか....といえるくらいに、このクリアなサウンドのおかげで、早坂の作った音楽的意味(ついでにいえば、意外にも西洋的でモダンなオーケストレーションであったことも)がよく分かるものになっている。

 まぁ、こうした「録音方法の進歩により高音質化→ディテールの明確化→聴こえてくる音楽の様相が一変して驚愕」といったプロセスは伊福部先生のゴジラなどでも既に経験しているけれど、この落差はそれ以上に大きい。ひょっとすると録音に当たって、佐藤勝が補筆しているというような可能性もあるかもしれない。そういえば随所に佐藤勝らしいドライな音響やモダンさを強調したようなところがないでもないし。
 という訳で、1974年といえばもう35年も前の録音ではあるものの、劣悪なオリジナル音源(黒澤映画のサントラは特に音が悪いと思う)に比べれば、きちんとしたステレオ録音で演奏が残されているだけでも貴重である。比べれば、きちんとしたステレオ録音で演奏が残されているだけでも貴重である。
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