● 日常生活は美に溢れている。
フォトグラフを直訳すると「光画」になるだろうか。写真と訳したところに日本人の西洋の技術に対する驚きと冷静さを失っていた姿を見る思いがする。
真実を写す、写真。でもそれは幻想、写真には真実は写らない。というか真実ってなんだろう、そもそも真実ってあるんだろうか・・・。
居間の障子(スクリーン)に映った光の造形。自宅の東側に増築した平屋部分の屋根の瓦と居間上部の庇の直線の投影。
信濃毎日新聞 070402
● 数日前の朝刊に建築家 坂茂さんが紹介されていた(写真)。坂さんが東京お台場の移動美術館の設計者であることについては既に書いた。
95年、阪神大震災で焼失した教会にペーパードーム(新聞の下の写真)を造った経験によって建築家としてのスタイルを確立した、と記事にある。坂さんはペーパードームを設計しただけなく、建設資金も自ら集めたという。
巻物の芯に使う紙管を柱に転用するというユニークなアイデアとテント地の屋根は移動美術館にも採用されている。
新聞に載っている坂さんのコメントは手厳しい。「コンピューターだけで設計した、とんでもない形の建築が増えている。表皮と構造が一致しない張りぼて。全く感動しない」
コンピューターを使うことで、建築設計が様々な拘束から解放されたことは事実だと思う。一致しなくなってしまったのは表皮と構造だけではない。人の感覚と意匠との乖離。コンピューターによって高度な構造解析、手描きでは到底出来ない形の表現が可能になって、感覚的にどうしても馴染めないデザインの建築が出現するようになった。
それはバーチャルな世界とリアルな世界の出会いの「負」の側面なのだろう・・・。
● いま脳は最先端の研究テーマ。抗体の多様性の謎を解明してノーベル賞を受賞した利根川進さんも、記憶の再生のメカニズムの解明をはじめ脳科学の研究へとシフトした(『私の脳科学講義』岩波新書 なぜか岩波新書の表紙は、アップすると不鮮明になってしまう)。
脳の各領野がそれぞれどんな機能をもっているのか。脳の地図づくり、ブレイン・マッピングが進んでいる。利根川さんの奥さんは大学で脳科学を修めたサイエンスライターだが、彼女がブレイン・マッピングの第一人者の女性科学者(名前などは忘れてしまった)を取材したTV番組を以前みた。
ようやく読了した『脳は美をいかに感じるか』セミール・ゼキ/日本経済新聞社は、美術鑑賞と直接関係する視覚脳のメカニズムについて長年の研究成果に基づいて実証的に論じている。
脳は複雑なシステムだ。例えば抽象絵画の主要な構成要素である線、それも水平線、傾いた線、垂直線などの異なる線の視覚情報をいくつかの細胞が分担して読み取る。
特定の色を知覚する細胞、特定の形を知覚する細胞、動くものを知覚する細胞、それも例えば右から左へ動くものを知覚する細胞・・・。それらの情報を統合するのも脳。
脳損傷事例の研究、神経解剖学などによって次第に明らかにされていく知覚脳のメカニズム。
「美術作品を通じて視覚脳の仕組みが解き明かされる」と本の帯にある。25年以上にも亘って視覚脳の研究に携わってきた著者の知見が存分に披露されてるが、こちらの理解が及ばない・・・。
美術作品によって感情的に高揚するのも、もちろん脳内の事象によることは明らかだけれど、それがどのようなメカニズムによるものなのかは未だ明らかにされていないという。
まだまだ脳は謎に満ちている。
● 昨年の4月に木材活用推進協議会の主催で行なわれたシンポジウムを収録した冊子。先日東京の友人がわざわざ送ってくれた。ありがとう!
講演したのは冊子の表紙に載っている建築家、内藤廣さんと小嶋一浩さん。ふたりとも木をよく使っているが、内藤さんの作品は木の美しい架構が特徴で、海の博物館、安曇野ちひろ美術館、牧野富太郎記念館などが紹介されている。
牧野富太郎記念館はまだ雑誌でしか見たことがない。あるいは以前も書いたかも知れないが、いつか見学したいと思っている。所在地の高知には学生時代に行ったことがあるが、また出かけなくては・・・。高知には先日お世話になったS君設計の小住宅もある。
小嶋さんは内藤さんのように構造体として積極的に木を使ってはいないし、木の持っている質感というか素材感をそのままストレートに表現してはいない。その点が内藤さんとは異なる。
小嶋さんといえば小学校などの斬新な平面計画が有名だが、残念ながら見学したことがない。冊子には吉備高原小学校やぐんま国際アカデミーなどの写真が載っている。上品で知的な空間だ。
木は確かに魅力的な材料だ。いろいろな使い方ができる。ふたりの作品がそのことを示している。木を積極的に使おう。
● 「カフェDEサイエンス」は一般市民と科学者がカフェで語らうという試み。
参加者は遺伝子、脳そして言語という現代科学の主要なテーマに関する最新の知見を聴き知的好奇心を満たす。市民の質問などが科学者にとって研究のヒントになるかもしれない・・・。
武田計測先端知財団というところの主催で2005年に6回開催されたということだが、全てを収録している。
第1回 脳をつくる遺伝子と環境
第2回 脳はどのように言葉を生みだすか
第3回 手話の脳科学
第4回 双生児の脳科学
第5回 脳とコンピュター
第6回 「分かる」とは何か
このように脳科学の最新研究がテーマの交流だった。こんなことが日常的に行なわれたら有意義だろうなと思いつつ読み終えた。