透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「天の梯」 高田 郁

2017-03-19 | A 読書日記

みをつくし料理帖シリーズ 全10巻 高田 郁/ハルキ文庫   
「花散らしの雨」
「想い雲」
「今朝の春」
「小夜しぐれ」
「心星ひとつ」
「夏天の虹」
「残月」
「美雪晴れ」
「天の梯」



■ みをつくし料理帖シリーズ 全10巻 高田 郁/ハルキ文庫  を読み終えた。

**「これで私は永田家という寄る辺を失いましたが、大坂に移り、この澪さんとふたり、手を携えて生きて参ろうと存じます。私は医学の道、そして澪さんは料理の道。互いの道を重ねて、実りのある人生にします」**(303、4頁)つる屋の座敷で皆に挨拶をする源斎、そして澪。このふたりが夫婦になるという予想は当たっていた。

**躊躇うことなく、澪は声を振り絞る。これまで呼ぶことを許されなかった名を、大切なそのひとの名を、あらん限りの声で叫んだ。
「野江ちゃん」
その声に、野江はゆっくりと振り返る。(中略)潤み始めた瞳を見開いて、野江もまた、封印していた名を口にする。澪ちゃん、と呼ぶ声は掠れていたが、澪の耳にははっきりと届いた。**(327頁)

引用した下りが全10巻という長編の結末を示している。

澪があさひ太夫の身請けに必要な四千両もの大金をどうやってつくるのか、ひとつ百六十文の鼈甲珠を日に三十売るという小さな商いでそれは可能なのか・・・。澪が考えついたその方法が、私は全く思いつかなかった。頭が固いといことだろう。澪がその方法を摂津屋に説明する下りを読んで、なるほど!こんな方法があったか、と澪の賢さに改めて感心した。

あさひ太夫の身請け主は澪ではなく、高麗橋淡路屋、野江の生家だったことにもびっくり。

この最終巻で、つる屋をライバル視していた登龍楼の采女宗馬の悪行が明らかになり、**「哀れ登龍楼は取り潰し、立派な店も取り壊し、いずれは別の店が建つ。悪運強い采女宗馬は逃げおおせたが、行方しれず。采女と関わり甘い汁を吸った二本挿しは揃って詰め原切らされる、詳しい話はこちらの読売、お代は四文、お代は四文」**(228頁)と、読売の口上の事態に。

この事件のことは第4巻に既に出てきている。これはものがたり全体の構成を予め構想していないとできない。

この事件に巻き込まれたお芳の息子、佐兵衛を助ける進言をした御膳奉行がいたことが知れる。澪は小野寺数馬がそのひとだと気がつく。 澪が思慕した小松原こと、御膳奉行小野寺数馬は澪から離れていったが、最後に存在感を示した。

**霞み立つ遠景を背負った男は、淡い褐返の紬の綿入れ羽織がよく似合う。
小野寺数馬、そのひとだった。
澪の様子を、そこでじっと見守っていたのだろう。ふたりは暫し、無言で互いを見合った。二年の歳月が、小松原と澪との間に優しく降り積もる。**(234頁)

恋愛小説としてこの長編は読まなかったけれど、この場面は切なくて泣けた。これが映画だったら実に印象的なシーンになっただろう。

船でひとり江戸を発って大坂に向かい、住まいを整えて澪を迎える源斎。摂津屋の同行を受けて、野江とともに大坂に向けて歩いて旅をする澪。思い出深い大坂の天神橋から空を仰ぎ見るふたり。雲が途切れて、そこから覗く真っ青な空。

雲外蒼天

*****

巻末に文政十一年版の料理番付表が載っていて、東の大関はつる屋の自然薯尽くし、西の大関はみをつくしの病知らずとなっている。勧進元は日本橋柳町一柳改メ天満一兆庵。これ以上ないハッピーエンド。


 


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