透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「人工の星」 北杜夫

2006-09-27 | A 読書日記



普段ブックオフを利用することはあまりないが、先日偶々『人工の星』集英社文庫(写真左)を見つけた。単行本も文庫本もすでに絶版になっているのではないか。単行本の発行は1981年で、文庫本はその3年後の1984年だ。この本が文庫になっていることは知っていたが、初めて手にした。

単行本の帯で分かるようにこの本は、北杜夫がまだ若かりしころ書いたSF小説を集めたものだ。あとがきに北さんは**私はSF作家ではないが、そのジャンルとしては先駆者の一人でもあるという気持ちはいくらかは抱いている。**と書いている。

この作品をベスト1に挙げるファンもいるくらいだし、確かにまだSF小説というジャンルがきちんと定まっていなかった時代のまさに先駆的作品という意味でも貴重だろう。知らなかったがこの作品は芥川賞候補にもなった、とあとがきに出てくる。

文庫本には解説が付く。この文庫に解説を書いているのは、あの星新一だ。それだけでも興味深い。年数が経過しているわりには傷みが無い。何のためらいも無く買い求めた。たったの105円で。 早速再読した。どれも面白いが、特に「うつろの中」というかぐや姫を題材にした短篇が面白かった。かぐや姫は、地球人の住居に入りこむために異星人が姿を変えたものという設定。

彼らはこんな会話を交わす。
「(前略)あれは年老いた男女のミュウだ。やつらの住居に入りこむ方法がある」
「なに?うむ、そうか。よしそれでやってみよう」
「じゃ急げ、合体しろ。やつらの意識下にある願望の体型をとれ」**

ということで竹の中潜んでいた異星人が、じいさん、ばあさんお望みの女の赤ちゃんになったというわけ。

ところでカバー装画は文庫本がヒサクニヒコ、単行本が佐々木侃司。
北杜夫の作品ではおなじみのふたり。


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