透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

ブックレビュー 2024.07

2024-08-02 | A ブックレビュー

 

 7月に読んだ本は7冊(6作品)。『散華 紫式部の生涯 上 下』杉本苑子は図書館本。

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』三宅香帆(集英社新書2024年)

本も読めない働き方が普通の社会っておかしくないか、という問題意識から明治以降の読書の歴史を労働との関係から紐解き、読書の通史として示している。読書史と労働史を併置し、どうすれば労働と読書が両立する社会をつくることができるか、を論じている。


『第四間氷期』安部公房(新潮文庫1970年11月10日発行、1971年3月10日 2刷)

サスペンス的な要素もあるSF。安部公房の想像力の凄さに感動すら覚えた。

太平洋海底火山群の活発化等による海面上昇で**ヨーロッパはまず全滅、アメリカにしても、ロッキー山脈をのぞけば完全に全滅だし、日本なんか、先生、山だらけの小島がぽつんぽつんと、五つ六つ残るだけだというんですからなあ・・・・・。**(231頁)

こんな未来予測にどう対応するか。水棲人、海中で生存できる人間に未来を託そうとする研究者たち・・・。


『ずっと、ずっと帰りを待っていました「沖縄戦」指揮官と遺族の往復書簡』浜田哲二・浜田律子(新潮社2024年)

**米軍の戦史にも、「ありったけの地獄を集めた」と刻まれる沖縄戦**(12頁)では20万人以上が犠牲となったと言われている。若き指揮官・伊東孝一大隊長は沖縄戦から奇跡的に生還するも、率いていた部下1,000人の9割は戦死していた。終戦の翌年(昭和21年)、伊東はおよそ600通の詫び状を遺族に送る。直後、伊東の元には356通もの返信が届く。伊東はその手紙を70年もの間、保管していた。

伊東孝一が保管していた遺族からの手紙が70年経った今、遺族の親族に返還される。手紙を手にした親族(子どもや甥・姪ら)は・・・。

1945年(昭和20年)8月の終戦からまもなく79年経つ。だが、太平洋戦争はまだ終わってはいないのだな、と本書を読み終えて思った。


『日本 町の風景学』内藤 昌(草思社2001年 古書店 想雲堂で購入)

**風景のもつ深い意味を解き、“住みよさ”よりも“住みたさ”の原像をたどる出色の日本都市論** と帯にある。内容が難しく、理解できず。


『食料危機の未来年表 そして日本人が飢える日』高橋五郎(朝日新書2023年)

サブタイトルの「日本人が飢える日」が決してあり得ないことではないのだな。これが読後の感想。
日本は工業立国を標榜、農業がその犠牲になったとも言える。結果、食料自給率の著しい低下を招く。他国が日本を養うことをやめてしまったら・・・。


『散華 紫式部の生涯 上 下』杉本苑子(中央公論社1991年 図書館本)

上下巻各8章、約830頁の長編。副題が「紫式部の生涯」となっている通り、紫式部と後年呼ばれることになる小市が7歳の時から始まるこの物語には52歳で生涯を閉じるまでの45年間が描かれている。

この小説の圧巻は下巻の「宇治十帖」だと言いたい。「宇治十帖」は杉本苑子さんの「源氏物語論」。紫式部は本編をどう自己評価したのか、なぜ続編とも位置付けられる「宇治十帖」を書いたのかについて論じている。

数知れぬ読者の、主観や個性に合せ、その側におりて行って多様な注文に応じきることなど、しょせん一人の書き手にできることはない。することでもない。では、どうすればよいか。答えはただ一つ、作者は自分のためにのみ書き、自分の好みにのみ、合せるほかないのだ。すべての読者が、おもしろくないと横を向いてしまっても仕方がない。自分が「よし」と思うその気持ちに合せて書く以外に、拠りどころははない。**(下巻333頁) 

このような指摘は言うまでもなく、同じ書き手としての杉本さんの文学論でもある。


8月 読書の真夏。


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