透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「鈴虫」

2022-07-25 | G 源氏物語

「鈴虫 冷泉院と暮らす秋好中宮の本意」

 夏、蓮の花の盛りに女三の宮の持仏(*1)の開眼供養が行われることになった。光君(ひかるくんと今風に読んでしまいそうだが、ひかるきみ)の厚意で仏具が用意された。紫式部は飾りつけの様子も詳細に描いているが、ここでは省略する。女三の宮が手元に置く持経は光君が書いた。

当日、供養は盛大に行われた。せめて来世では同じ蓮の上で女三の宮と一緒に暮らせるように、と光君は願い、歌に詠む。女三の宮は**隔てなくはちすの宿を契りても君が心やすまじとすらむ(来世は同じ蓮の台、とお約束しても、あなたのお心は澄むことなく、私と住もうとはしないでしょう)**(499頁)と返す。この返歌から女三の宮の心情が分かる。

内輪で執り行う予定の法要だったが、帝も朱雀院も耳にして使者を遣わす。

朱雀院は娘・女三の宮を三条の宮邸で暮らさせたいと願う。だが、光君は今になって、いたわしく思うようになり、六条院から手放さない。光君は三条の宮を改築し、蔵も建てて女三の宮の財産をすべて保管する。女三の宮は柏木との一件の後、光君の気持ちがすっかり変わってしまったことが分かり、離れて暮らしたいと願い出家したのに叶わない・・・。

**光君は、この野原のようにしつらえた庭前に秋の虫をたくさん放たせて、風が少し涼しくなった夕暮れどき、こちらにやってきて、虫の声を聞いているふりをしながら、今でもまだあきらめきれない心の内を打ち明けて尼宮を悩ませるので(後略)**(501頁) 尼になった女三の宮に恋慕の情を訴えるとは、なんとも未練がましい。でもこれが光君の性分。男はみんなそうかもしれない(などと個人的な見解を一般化してはいけない)。

八月十五夜の夕暮れ、女三の宮の部屋にやってきた光君は鈴虫の声に合わせて琴を久しぶりに弾き始める。宮も琴の音色に耳を傾けている。そこへ兵部卿宮(蛍宮)や夕霧が訪ねてくる。で、優雅な管絃の遊びをして、柏木を偲ぶ・・・。そして夜明けまで漢詩をつくり和歌を詠んで過ごす。しみじみとした催しは月を愛でながら夜通し行われることが多いようだ、なんと風雅な。

明け方お開きとなり、光君はそのまま秋好中宮の部屋に向かう。光君は中宮といろいろと話をする。中宮は母・六条御息所が成仏できずに、人に疎まれるような物の怪となって名乗り出たということを耳にしてひどく悲しんでいると話し、**「(前略)せめて私だけでも母の身を焼く業火の熱をさましてあげたいものだと、年齢を重ねるにつれて、おのずと身に染みて思うようになりました」**(507頁)と口にする。出家して母親を救いたい・・・、それが中宮の願い。このことに光君は反対して追善供養するように勧める。

光君と秋好中宮、このふたりについて紫式部は**この世はすべてはかないものだから、早く捨ててしまいたいとお互いに言い合うけれど、やはりすぐにはそうもできない身の上の二人なのである。**(508頁)と書く。

紫式部は人を、光君を、苦悩から解き放とうとはしない・・・。


*1 お守りとして身近に置く仏像(497頁)


 1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋 



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