透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「「廃炉」という幻想」

2022-02-27 | A 読書日記

 拙ブログの前の記事「ブックレビュー 2022.02」に、将来歴史の教科書に太文字で表記されるであろう出来事が続いていると書いた。そこに挙げた福島第一原発の大事故はなんとなく過去の出来事のような捉え方になってしまっている。だが、事故処理は続く、この先まだ何年も何年も・・・。



25日(金)の午後、久しぶりに松本駅近くにある丸善に立ち寄った。買い求めたのは『「廃炉」という幻想 福島第一原発、本当の物語』。 **私事になるが、筆者は福島第一原発事故、通称1F(いちえふ)事故の発生初日から現在まで、民放テレビ局の記者として、一貫して1F事故収束を取材している。**「はじめに」にこのような著者・吉野 実さんの自己紹介がある。これも光文社新書。

読み始めるといきなり次のような記述があった。**高い放射性物質であるデブリ取り出しについては、これまで、わずかなサンプルの取り出しもできず、技術的には全く見通しが立っていない。現場は成算も立たないまま、様々な試みをしているが、大量のデブリ取り出しができる保証はない。
百歩譲って、デブリ取り出しに成功したとしても、現状では、デブリや、原発解体に伴って発生する膨大な廃棄物を、安定的に保管する場所は存在しないし、見つかる目途も全くない。(後略)**(26頁)

デブリってなんだっけ? デブリとは燃料と構造物等が溶けて固まったもの(原子炉建屋の概念図などは東京電力のホームページに掲載されているので検索・確認願います)。

このデブリの取り出しについて著者の吉野さんは無理なんじゃやないか、という見解をお持ちなのだ。本書の帯に**不可能に近い「デブリ取り出し」**とある。

デブリの量は1、2、3号機で合計880トン(もっと多い可能性もある)(45頁) こんなに多いのか、びっくり。

バイアスがかかっていようがいまいがそれは自分のフィルターを通して判断するだけ。本書を読んで、福島第一原発の現状と今後に関する知識を得ることができれば・・・。

余談だが、本書に掲載されている写真や図の大半がカラーだ。美術作品を取り上げるような新書、例えば先日読んだ『日本美術の核心』矢島 新(ちくま新書)などは掲載する絵画がカラーの方が有難い、割高になっても。


 


「6 男はつらいよ 純情篇」再び

2022-02-27 | E 週末には映画を観よう

 寅さんシリーズ全50作で特に印象に残る5作品に次ぐ作品とマドンナは次の通り。

第  6作 純情篇 若尾文子
第17作 寅次郎夕焼け小焼け 太地喜和子
第27作 浪花の恋の寅次郎 松坂慶子
第38作 知床慕情 竹下景子
第39作 寅次郎物語 秋吉久美子

第6作「純情篇」を観た。この作品のあらすじは省略する(過去ログ)。

長崎港。五島行きの船が出てしまって、寅さん思案橋ブルース、もとい思案。寅さん、赤ちゃんを背負った若い女性に声をかける。なんだか薄幸そうな雰囲気のこの女性、宮本信子が演じる絹代。この映画の公開が1971年1月、となると製作されたのは前年で、この時1945年生まれの宮本は25歳。絹代は遊び人の夫に愛想をつかして故郷・五島に帰るところだった。宿代が足りないことを寅さんに告げて、お金を少し貸して欲しいという。寅さん「来な」と一言。寅さんは幼い子どもを連れた絹代と鄙びた旅館に同宿する。

寅さんが隣の部屋で寝ようとした時、絹代は服を脱ごうとしている。
「泊めてくれて、何もお礼できんし・・・」

この時、寅さんは
「あんた、そんな気持ちで、このオレに金を・・・、そうだったのかい」

この後、寅さんは絹代を優しく諭す。その長台詞は省略するが、この時の寅さんの心根に涙した。今こうして書いていても涙が・・・。

この後、絹代は実家で父親(森繫久彌)と再会する。父娘の情にふれた寅さん、故郷が恋しくなって、柴又へ。帰ってみるととらやの2階には夫と別居中の夕子(若尾文子)が下宿していて、寅さんお決まりの一目惚れ。

その後の流れは省略。

とらやに迎えに来た夫と夕子は帰っていき、寅さん失恋。

ラスト、旅に出る寅さんと柴又駅のホームで小さいころの思い出話をするさくら。ふたりの会話を聞いていてまた涙。ますます涙もろくなった。

電車に乗り込んだ寅さんの首にさくらは自分がしていたマフラーをかける。
「あのね、お兄ちゃん。つらい事があったら、いつでも帰っておいでね」
「そのことだけどよ、そんな考えだから、オレは一人前に・・・」
「故郷ってやつはよ・・・」
「うん」
「故郷ってやつはよ・・・」
電車のドアが閉まる
「なに?」

電車が走り出す。

この後、寅さんがなんて言ったのか分からない。続く台詞は観る者に委ねられている。

遠ざかっていく電車をじっと見送るさくら。実にいい場面だ。

正月のとらやに絹代が夫と子どもと一緒に来ている。この時寅さんは旅の空。絹代が五島の父親に電話する。近況を聞きながら泣く父親。その様子を見てまたしても涙、涙。

寅さん映画、いいなぁ、好きだなぁ。