透明タペストリー

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「日本美術の核心」

2022-02-20 | A 読書日記

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 巣ごもり読書。『日本美術の核心 周辺文化が生んだオリジナリティ』矢島 新(ちくま新書2022年)を読んだ。本書の内容を一言で括るとすれば、日本美術のオリジナリティの分析。

オリジナリティ、即ち日本において独自に発達してきたと考えられる造形は西欧的なファインアート(著者・矢島氏の定義をまとめると高い完成度を誇り、見る者を威圧する純粋で立派な造形となろう)をはみ出す部分にこそあると矢島氏は指摘する。ファインアートという観点から中国も西欧と事情が似ているということも本書の論考では考慮すべきで、**西欧と中国は世界の美術をリードしてきたツートップである**((12頁)という認識が示されている。

矢島氏は錦絵や俳画、文字絵、茶の湯の器物、神仏像(円空の刻んだ像に代表される)など江戸町人に親しまれた美術品をはじめ数多くの作品を例示しながら、リアリズムよりもデザイン的な造形や素朴な造形に魅力があると説いている。

デザイン的な造形ということでは、私は本書でも取り上げている尾形光琳の「燕子花図屏風」(写真下『日本美術史』カバー図版)がまず浮かぶ。この作品の魅力は燕子花(かきつばた)という単一のモチーフによってグラフィックに構成された「繰り返しの美学」にある。素朴な造形となると、帯の左上、白隠の「達磨像」はじめ、さらっと描かれたまさに素朴な絵がいくつか浮かぶ。


『日本美術史』 美術出版社1999年18刷

日本美術のオリジナリティは中国の周辺に位置し、そのファインアートの規範をある程度逃れることができたことに起因するという著者・矢島氏の見解が「周辺文化が生んだオリジナリティ」という本書の副題に表れている。また、『かわいい禅画』や『日本の素朴絵』、『ゆるカワ日本美術史』などの書名からも矢島氏の日本美術の見方、捉え方が窺える。

思い出すのは『日本辺境論』新潮新書(2009年5刷)。この本で著者の内田 樹氏は日本の「辺境性」に注目して日本文化の特徴を論じているが、その指摘に通じるように思う。

以下『日本辺境論』について書いた過去ログの再掲

この本での論考の結論部分として、**私たちは華夷秩序の中の「中心と辺境」「外来と土着」「先進と未開」「世界標準とローカル・ルール」という空間的な遠近、開化の遅速の対立を軸にして、「現実の世界を組織化し、日本人にとって現実を存在させ、その中に日本人が自らを再び見出すように」してきた。**という辺りを私は挙げる。


さて、次は何を読もうかな・・・。