タマルさんはナツメヤシ

タマルは女性の名。ナツメヤシの意味で多産を象徴。聖書には約束の地カナンは、蜜(ナツメヤシ)と乳(ヤギ)の流れる地とある。

さかごで産みたいですか?

2016-11-30 21:04:22 | 産科


今日は2人、赤ちゃんが生まれましたよ。
今日と言うか、夜中とも言えますけれど。
それで今日の写真は、生まれてすぐのお父さんと赤ちゃんたちです。

お父さんだって、生まれてすぐに抱っこすると、プロラクチンというホルモンの分泌が増えて、
父性が芽生えることが分かっています。
だからすぐに抱っこさせてあげるように意識しているのですよ。

お母さんの方は、フェイスブックにいつも載せさせていただいていますから、
そちらをチェックしてくださいね。
https://www.facebook.com/tamarclinic

うち1人は、「さかご」でのお産でしたよ。
医学用語では骨盤位と言います。
さらに足位とか複臀位とか単臀位とかに分かれます。
今日のお産はそのうちの複臀位でした。

足位は足をつぱっている状態です。
この場合は経膣的に産むのは困難です。
複臀位と単臀位は、産んでも構いません。
複臀位とはあぐらをかいているような格好です。
単臀位は足を挙げて2つ折れになっているような状態で、お尻から生まれてきます。
一番産みやすいのは単臀位なんですけれどね。
今日のお産は複臀位でしたよ。

複臀位だと、股の間からへその緒が垂れ下がってくることが有るので、ちょっとだけ危険です。
それにお尻だけの時のように、生まれてくる部位が丸くないので、
破水しやすかったりします。
できれば最後の方まで破水しない方が、安全度が高いのですよ。

そもそも「さかご」は頭から産まれるのに比べて、なぜ危険だと言われるのでしょう?
いえいえ、そもそも頭から生まれるとしても、お産は危険が伴うし、
さかごだって、少しは危険度が高いかもしれないけれど、普通に産めることの方が多いのです。
それを「さかご」は帝王切開、頭が先なら経膣分娩と決めるのは、どうかと思うのですよ。

それでもやはり「さかご」の方が気を使います。
へその緒が先に垂れ下がると、酸素が胎児に十分に行かなくなるので、仮死で生まれたりします。
それに首まではスルッと出ても、頭が引っかかることが有るからです。
頭が先なら胴体は引っ掛かりませんからね。
それともう1つ、「さかご」の時の方がおへその位置が下に来るので、
胎盤を引っ張ってしまい、常位胎盤早期剥離を起こして、
出血死してしまうことも有ることが危険だと言われるのです。

開業した頃は、「さかご」の赤ちゃんは、みんな下から産んでもらっていました。
ただ最近は、1人のお母さんが産む赤ちゃんの数も減ってきたので、
あまり無理をせず、とくに希望が無ければ帝王切開を勧めているのです。
それで経膣的に産まれるお母さんは、タマル産では半分半分というところでしょうか。
タマル産以外の近隣の病院では、おそらくみな帝王切開だと思いますよ。
とくに今日は初めてのお産で、複臀位、へその緒が首に巻いていると、いくつものリスクも有りましたしね。

それでも「さかご」で産む場合は、2日がかりで産んでもらいます。
1日目の夜に、赤ちゃんの頭くらいの水風船を子宮の中に入れるのです。
これが夜中に飛び出すので、朝には子宮の出口は6センチ以上、開いていることが多いのですよ。
それで朝から陣痛促進剤を使うと、お昼から夕方にかけて、生まれるという段取りです。
2人目のお産なら、風船を入れるのは当日の早朝にすることも有ります。
さもないと夜中に生まれてしまうことも有るからです。

まあ、ここまではルーチンなのですが、
最後がちょっと難しいですよ。
「さかご」の場合は、とにかく赤ちゃんは引っ張ってはいけません。
引っ張れば必ず引っ掛かるからです。
生まれるのを押し戻すくらいのことをして、ぎりぎりまで出産を遅らせるのです。
これがコツです。

私が天理に居た4年間で、すべての「さかご」のお産の主治医をしましたから、
かなりのさかごを診ていますよ。
指導医の部長にはとくによくしていただきました。
開業してすぐだったので、お葬式には行けなかったのが心残りです。
この先生は、とくに「さかご」には気を遣われていて、
安全を追求するために、左右両側に会陰切開をされるのですよ。
普通は片方しかしないのですよ。

タマル産では、ここだけは恩師とは違う方法でしています。
それは会陰切開はまったくしないのですよ、さかごでも。
引っ掛かるのは恥骨なので、会陰切開はあまり意味がないと考えているからです。
それで今日も、無事生まれました。
結果が良ければ、何だって言えますけれどね。

私が天理を退職した後、私の後輩の先生が、さかごをよく担当していたのです。
そんな時、生まれにくくて、仮死で生まれて、結局、新生児に脳障害が疑われたという話でした。
もちろん頭から生まれる赤ちゃんだって、そういうことは有るのですよ。
ただ確率論で言えば、さかごの方が数倍高くなるだけのことです。
かと言って、全員帝王切開で産めばよいのか、と言えば、
今度はお母さんのリスクが上がるでしょう。

それで何がベストなのかは、ご両親が決めるしか、結局はないのですね。
ですがせっかくタマル産には技術も有りますから、活かせてあげたらいいとも思っています。
それが恩師への恩返しでもあるからです。
けれどそれも私の世代で途切れてしまう伝統かもしれませんね。

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