歌番号一三三四
原文 堂比良乃多可止遠可以也之幾奈止利天飛止乃久尓部
満可利个留尓和寸留奈止以部利个礼八太可止遠可
女乃以部留
読下 平高遠が、いやしき名取りて、人の国へ
まかりけるに、忘るなと言へりければ、高遠が
妻の言へる
原文 多可止保可女
読下 たかとほかめ(平高遠妻)
原文 和寸留奈止以不尓奈可留々奈美多可者宇幾奈遠寸々久世止毛奈良奈无
和歌 わするなと いふになかるる なみたかは うきなをすすく せともならなむ
読下 忘るなと言ふに泣るる涙河憂き名をすすぐ瀬ともならなん
解釈 貴方は忘れるなと言われますが、その言葉に泣けて流れ出る涙の河、その涙の河は貴方が受けた汚名を禊ですすぐ、その瀬になって欲しいものです。
歌番号一三三五
原文 安比之利天者部利个留飛止乃安可良左万尓己之乃久尓
部万可利个留尓奴左己々呂左寸止天
読下 あひ知りて侍りける人の、あからさまに越の国
へまかりけるに、幣心ざすとて
原文 与美飛止之良寸
読下 詠み人知らす
原文 和礼遠乃美於毛日川留可乃宇良奈良波加部留乃也末者万止波左良末之
和歌 われをのみ おもひつるかの うらならは かへるのやまは まとはさらまし
読下 我をのみ思ひ敦賀の浦ならば鹿蒜の山はまどはざらまし
解釈 私のことだけを心配して使いに立った越路の敦賀の浦、その言葉の響きではありませんが、路占では貴方が帰る、その言葉の響きのような敦賀の鹿蒜(かへる)の山路では迷うことなくつつがないでしょう。
歌番号一三三六
原文 加部之
読下 返し
原文 与美飛止之良寸
読下 詠み人知らす
原文 幾美遠乃美以徒者多止於毛比己之奈礼者由幾々乃美知者々留計加良之遠
和歌 きみをのみ いつはたとおもひ こしなれは ゆききのみちは はるけからしを
読下 君をのみ五幡と思ひ来しなれば行き来の道ははるけからしを
解釈 貴女のことばかり思い、いつかは逢える、その言葉の響きのような敦賀の五幡神社への使いと思って来たのですから、行き帰りの路は遥かとは思えませんよ。
歌番号一三三七
原文 安幾堂比満可利个留飛止尓奴左遠毛美知乃衣多
尓川个天徒可者之遣留
読下 秋、旅まかりける人に、幣を紅葉の枝
につけてつかはしける
原文 与美飛止之良寸
読下 詠み人知らす
原文 安幾布可久太比由久飛止乃多武計尓八毛美知尓万佐留奴左奈可利个利
和歌 あきふかく たひゆくひとの たむけには もみちにまさる ぬさなかりけり
読下 秋深く旅行く人の手向けには紅葉にまさる幣なかりけり
解釈 秋が深くになって旅立って行く人への手向けには、歌に詠うように紅葉に優る幣はありません。
注意 古今和歌集「路知らば尋ねもゆかむもみぢ葉をぬさと手向けて秋はいにけり」や「このたびは幣もとりあへず手向け山紅葉の錦神のまにまに」を引用する。
歌番号一三三八
原文 尓之乃与无之与宇乃以川幾の美也乃奈可川幾乃美曽可久多利堂万比个留
止毛奈留飛止尓奴左川可者寸止天
読下 西四条の斎宮の九月晦日下りたまひける、
供なる人に幣つかはすとて
原文 多以布
読下 大輔
原文 毛美知者遠奴左止多武計天知良之川々安幾止々毛尓也由可武止寸良无
和歌 もみちはを ぬさとたむけて ちらしつつ あきとともにや ゆかむとすらむ
読下 もみぢ葉を幣と手向けて散らしつつ秋とともにや行かむとすらん
解釈 紅葉した葉を幣として手向け、それを散らしながら、秋が過ぎ去っていくように、貴女は斎宮として伊勢へと下って行かれるのですね。
注意 古今和歌集「路知らば尋ねもゆかむもみぢ葉をぬさと手向けて秋はいにけり」や「このたびは幣もとりあへず手向け山紅葉の錦神のまにまに」を引用する。
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