読書日記

いろいろな本のレビュー

知的余生の方法  渡部昇一  新潮社新書

2011-02-26 17:08:22 | Weblog
 渡部氏は英語学者で右派の論客、元上智大学教授。34年前『知的生活の方法』でブレイクした。氏も今や八十歳、人生の終幕に向けての感慨をまとめたのが本書である。普段この人の本は興味がない言うか、ああまたいつものパターンだなというものばかりなので、(谷沢永一と同じ)ほとんど読まない。でも、今回は氏の最後の本になるかもと思い読んでみた。「年齢を重ねて学ぶことについて」「健康と知恵について」「余生を過ごす場所について」「時間と財産について」「読書法と英語力について」「恋愛と人間関係について」「余生を極める」の全7章構成。月並みなことがほとんどだったが、中で私の気に入ったものが二、三あったので紹介する。
 一つ目は老後は田舎で暮らしたいという人が多いが、退屈だからやめた方がよいという意見。著者は山形県鶴岡市の出身で、豪雪地帯の不便さ厳しさを熟知している故のアドバイスと言えよう。都会人が田舎暮らしにあこがれて夏の北海道を見て移住したが、冬の厳しさを知らずに渡ったものだから早々に引き揚げたという話をよく聞く。また「田舎の人間は素朴だ」という能天気な意見もここで批判しておかなければならない。そんなことはないと田舎者の私が断言する。
 二つ目は別荘買うより都会に住んでクーラー付けた方が快適というもの。別荘はよっぽど暇で金が有り余っている人向けだ。大人数を接待する立場の人が持つもので、庶民はホテルなどに泊まればよい。誰が好き好んで宿泊時の食事を自分で作るというのだ。上高地帝国ホテルに年三泊する方が快適で安くつく。
 三つ目は読書家は長寿が多いという話。これは読書によって脳が活性化されるからだと説いている。本好きの人間にとってはうれしい話だ。そして著者の先輩格の英文学者外山滋比古氏(この人の昔の本も最近大ブレイクしている)の好きな俳諧を紹介して人生の生き方を説いている。それは江戸元禄時代の俳人滝瓢水の「浜までは海女も蓑着る時雨かな」という句で、著者は、この「海女」を自分の姿に見立てると「浜」は死期になる。どうせ海に入るのだから、時雨だろうが濡れることなど気にしないで浜に向かえばいいのに、この海女は蓑を着るのだ。この「蓑」は私にとって読書に当たる。どうせ死ぬのだから何もしないというのは「どうせまた腹が減るのだから飯を食わない」に通ずる考え方ではないだろうかと言う。著者のオリジナルかどうかは別にして、共感すべき見解だ。読書の趣味があれば老後は楽しく過ごせるということで、大いに元気づけられた。まだまだ人生は生きて見なければわからない。因みに瓢水の句をあと二つ、「手に取るな やはり野におけれんげ草」「さればとて 石に布団は着せられず」
 

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