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朝鮮戦争 デイヴィッド・ハルバースタム 文藝春秋

2010-01-16 11:05:24 | Weblog

朝鮮戦争 デイヴィッド・ハルバースタム 文藝春秋



 朝鮮戦争の実相を克明に捉えた労作。アメリカ側の動きが豊富な取材によって明らかにされているのが特徴。著者はこの作品を脱稿後、交通事故によって不慮の死を遂げた。誠に残念である。本書を読んで面白かったのは、この時代の英雄・マッカーサー将軍の唯我独尊性がアメリカにとってどれだけ厄介なものだったかということである。彼の父も軍人で、母は強烈な個性を持ったいわゆる「孟母」で、息子を完全に支配していた。曰く「マッカーサーの母はマッカーサーを限りなく自己中心的な、したがって自閉的な人間に育てた。初めから、マッカーサーは孤立していた」と。彼は純粋な同志的友情を求める能力に欠けていた。なぜなら、彼自身の中に、友人といえるものは必要なかったからだ。この人格がアメリカの朝鮮戦争戦略を混迷の道に放り込むことになる。トルーマン大統領との確執はドラマを見ているようだ。
 北朝鮮軍は38度線を超えて南朝鮮に侵入し、連合国軍はあっと言う間に釜山近郊まで撃退された。マッカーサーは北朝鮮軍の力を軽視し、戦いはすぐに終わると高を括っていたのだ。最高司令官として日本を占領して絶対的な権力を揮い、昭和天皇とラフなスタイルでツーショット、日本人の精神年齢は12歳と嘯く最高権力者から見たら、北朝鮮軍などは物の数に入らなかったのであろう。
 予想外の展開に慌てたマッカーサーが採った作戦が、北朝鮮軍の背後を突く仁川上陸作戦だ。このリスクの多い作戦をマッカーサーは一か八かの大勝負をかけて成功させる。仁川上陸から二週間後、韓国軍第二師団が38度線を越えた。一週間遅れて1950年10月7日、米軍第一騎兵師団の部隊もこれに続き、平壌に向かった。そして11月初め、雲山で中国軍と不幸な遭遇をみることになる。
 アメリカは最初中国軍は参戦しないと予想し、短期決戦で北朝鮮を殲滅と考えていたが、毛沢東は参戦を決意し、農民の将軍と呼ばれてた彭徳懐を司令官として半島北部の雲山で米軍を待ち伏せしていた。そうとは知らず米軍は冬の装備もせずに北進し、手痛いダメージを受けることになる。
 下巻は絶対権力者あるいは無能な指揮官に死命を制せられる兵士達の悲惨が浮き彫りにされる。詳細かつ瑣末な事実を積み重ねて歴史を再現するという手法で、ノンフイクションと言うよりは小説を読んでいるような錯覚を覚える。ハルバースタムの力量の高さを感じる部分だ。本書の副題は「コールデスト・ウインター」だ。極寒の朝鮮半島北部で命を捨てさせられる兵士達の無念さを思うと胸がつまる。

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