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歴史と外交 東郷和彦 講談社現代新書

2009-03-29 08:37:11 | Weblog

歴史と外交 東郷和彦 講談社現代新書



 著者は元外交官で外務省を引退した後、日本にとっての重要な外交問題についてフリーな立場でコメントしたものである。氏の祖父東郷茂徳は、太平洋戦争開戦時の東條英機内閣とこれを終戦に導いた鈴木貫太郎内閣の双方で外務大臣となり、戦後に極東国際軍事裁判(東京裁判)でA級戦犯として禁固二十年の刑を受け、1950年に獄中死した。また父の東郷文彦は、東京裁判当時、外務省総務局総務課に勤務していたが、占領軍の意向で終戦連絡事務局に出向し、茂徳裁判の弁護活動に参画した。その後、外務省でアメリカ畑を歩き、1960年の安保条約改定交渉の時の安全保障課長として岸信介総理を支え、1969年沖縄返還交渉の時の北米局長として佐藤栄作総理を支え、カーター政権時代の駐米大使を最後に引退した。
 父子三代に渡って外務省で保守本流の政治家とともに日本の国益のために働いてきたという自負といささかの慙愧の念が文章の節々に感じられる。しかし叙述は平静で厭味が無いのは、いわゆるノブレース・オブリージュが身についている証か。靖国問題、従軍慰安婦問題、日韓・日台問題、原爆投下をアメリカに抗議すべきかどうかの問題、東京裁判問題など重要な問題について、権力の中枢にいたものしか分からない日本の立場をわきまえた論を展開している。歴史の真実とは何かということについて一石を投じていることは間違いない。
 例えば台湾問題について氏は言う、「日本は、1895年から五十年間、台湾を統治してきたという歴史がある。もしも、その統治にいささかなりとも誇る点があると思うなら、その統治を経て形成されてきた台湾というもの、その台湾の民主化と台湾化の問題に、日本全体として、もう少し関心を持つべきではないか」と。全く同感である。台湾へは日本から多くの観光客が訪れるが、日台の歴史を知っている人がどれくらいいるだろうか。歴史を学ぶことによって新しい認識が生まれるわけで、そのレベルで交流できる人間が増えることが、今後の台湾との関係をより良きものにする必要条件である。外務省のみならず、官僚は日本の国益、国民の幸福のために日夜努力する存在であって欲しい。実際、東郷氏のような優秀なひとも多くいるに違いない。大阪府の橋下知事に、国土交通省はぼったくりバーと一緒だとか、文部省はバカの集まりとか、聞くに堪えない下品な言葉で攻撃されっぱなしではなく、反撃できる態勢をそろそろ整えて欲しい。それにしても橋下の下品さはどうだろう。それを聞いて溜飲を下げるマスコミと愚民たち。東郷氏からディセンシー(上品さ)を学んで欲しい。

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